3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

旅に持っていく武器

ようやく『深夜特急』を最後まで読み終えた。

読む前まで、どうして時代を超えて人気があるのだろう、と思っていたけれど、その理由のひとつはこの作品が「紀行文」というより「冒険物語」だからだと思った。

旅のハイライトは名所旧跡や名物の紹介ではなくて人の営みだったりするし、旅を通して主人公も変化していく。

通貨だとか治安だとかIT環境だとかは当時と今とでは全く変わってしまっただろうけど、書かれていることが全く古びないのは、人々とのかかわりや主人公がぶつかる困難さに焦点が当てられているからだ。

冒険談というのは、いつだってワクワクさせられるものだ。

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ユーラシア大陸を西へと向かう冒険談、といえば、西遊記である。

西遊記が大好き、と自称している割に、これまであまり亜流の西遊記作品には触れてこなかった。

諸星大二郎の『西遊妖猿伝』を読んだことをきっかけに、ほかの亜流作品も読むべきなんじゃないだろうかと思い始めた今日この頃、ちょうどテレビアニメ『最遊記 RELOAD BLAST』が始まった。

人気マンガ『最遊記』シリーズの最新作である。

最遊記』も今年で連載開始20年になるらしい。

www.ichijinsha.co.jp 

実は、これまで『最遊記』に対して、

「どうせ『ちがう!こんなの西遊記じゃない!』って腹が立つような内容でしょ」

と偏見を持っていて、全く見てこなかった。

20年経って、初めて触れる『最遊記』。

しかも『RELOAD BLAST』のアニメからという中途半端さ!

すごい今更。

 

それでも、いざ見てみたら、意外とよかった。

 

そりゃあ西遊記ファン的には、なんで玄奘三蔵が破戒僧なの、とか、なんで八戒と悟浄の性格が逆なの、とか、なんで哪吒太子の読み方が「なた」じゃなくて「なたく」なの、とか、気になるところはいろいろあるけれど、ちゃんと西遊記の世界が再構築されているのが感じられるので、嫌な気持ちにはならない。

オタク心を掴むよう仕掛けられているとわかっていても、やっぱりぐっとくる巧妙さ。

 

ただ唯一ひっかかるのが、三蔵が持つ武器が拳銃だということだった。

現代的だとかそういう意味じゃない。

銃には弾薬がいる。弾薬は消耗品だ。

消耗品が必要な武器なんて、長旅に不向きじゃないかと思うからだ。

 

ファイナルファンタジーバイオハザードが「すごい!」と思ったのは、矢や弾が消耗していくところだった。

戦っても矢や弾が減らないで無数に出てくるのは、やっぱりリアルじゃない。

三蔵がどのように回転式拳銃の弾薬を補充しているのかは知らないけど、武器の選択肢として拳銃はありえないと思ってしまう。

 

じゃあ、長い冒険に出るのに最も適した武器は何か。

何と言っても、悟空の如意金箍棒は小さくして持ち運びができる点で申し分ない。

最強にして最高だ。

けれど、もしサイズ変更ができなかったとしても、長旅には棒が最適じゃないかという気がする。

 

普通に考えると武器は刀や槍が一般的だろうけれど、包丁だって研がないといけないように、刃があるものは手入れが必要なんじゃないか。

一度人を切ると脂肪でベタベタになる、という話も聞くし、雨や川渡りのときに濡れたら錆びることもあるだろう。

岩波文庫の『西遊記(一)』の巻末の訳注ではイラスト付きで武器を説明してくれている。

敵もいろんな武器で挑んでくるけれど、彼らは地元なので、移動のことを考えなくてよい。

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ちなみに、上記の図は下記の書籍から引用されているらしい。 

武器と防具〈中国編〉 (Truth In Fantasy)

武器と防具〈中国編〉 (Truth In Fantasy)

 

 

子供の頃、マチャアキの『西遊記』が大好きだったが、そのときは私も考えが浅かったので、

「悟空の武器がただの棒だなんて」

と思ったことがあった。

「悟浄の降妖宝杖のほうがデザイン的にカッコいいじゃないか」と。

 

西遊記では、八戒は九歯のまぐわ、悟浄は降妖宝杖という武器を使っている。

どちらも棒の先に金属がくっついているから、毎日歩いて運ぶのは重そうだ。

それに、持って歩いていて、うっかりぶつかって人を傷つけたり、荷物を壊したりする可能性だってある。 

大人になった今、手入れや移動、その他もろもろの実用を考えたら、棒に勝る武器はない、と思う。

歩くときの杖の代わりにもなるし、高いところのものを引っ掛けたりもできそうだ。

 

ところで、実用ということを考えると、武器ではないけれど、傘というのもありかもしれない。

私も一応女性なので、暗い夜道に一人のときは、

「いざというときは、この傘を武器に戦おう!」

と用心しながら歩いている。

 

「護身術 傘」でYou Tubeを検索すると、いくつか動画がひっかかったけれど、私が知りたかった女性向けの実践護身術じゃなかった。

護身術っていうか、ストリートファイト、ケンカ用だよね?

んー、本当に実践的で即戦力になるようなものってないものかしら。

www.youtube.com

 

…そこで私は考えた!

 

…これがきっかけに、波野なみ松による傘を使った武術研究が始まった。

彼女は研究と研鑽を重ね、20年にも及ぶ修行の結果、ついにオリジナル拳法である「麗傘拳」を編み出したのだ。

武田鉄矢のハンガーヌンチャクに勝るとも劣らない、あの「麗傘拳」である!!!

奥義は一子相伝…にせず、多くの女性に護身術を伝えるべく、普及に努めた。

その麗傘拳普及の旅は路線バスを使った。

西へ西へと向かい、ユーラシア大陸の果てにたどり着いたとき、彼女はその一生を終えたのだった。(劇終)

家族は余計なことをする。

忙しくしていると、ついつい後回しにしてしまう家事があるものだ。
先週や先々週の週末は午前中に病院へ行かなければならなかったので、出発を優先し、ほとんどの家事は後回しになった。

朝食の後片付けをせずに食器を置きっぱなしにして身支度をしていると、キッチンからカチャカチャと音がする。
慌てて飛んでいくと、父が汚れた食器を食洗機に入れている最中だった。
「ちょっと待ったぁ〜ッッ!!! お父さん、食洗機に入っていた食器は出した?」
「いいや?」

つまり、昨晩洗い終わった食器を出さずに、父は汚れた食器を食洗機に入れていたのだ。
最初はきれいな食器だけ選び出そうと思ったけれど、混じってしまって分けられなくなっていた。

「普段何もしないくせに、なんで勝手なことするのよ!! 」
結局、全部食洗機にかけた。
「余計なことするから、ムダになったでしょ!」
忙しくしてるときに限って、イライラさせられる。

朝は余裕がなかったので、病院から帰って来たあと午後に洗濯した。
いつもなら夕方に取り込むけれど、2、3時間じゃ乾かないかもしれないので、明日の朝まで干しているつもりでいた。
ところが、夜にたまたまベランダに出ると、洗濯物が消えている。
父が取り込んでいたのだった。

普段、「夕方になったら洗濯物を取り込んでね」とお願いしても、取り入れるのを忘れる人である。
依頼されたときには忘れるくせに、なぜに頼まれもしないときに取り込むんだよう!!

「干してあるから、取り込まなあかん思たんや」
「ちゃんと乾いてた?」
「知らん。お父さんはそんなん気にせぇへんもん」

カゴに入っている洗濯物をひとつづつ触って確かめると、薄手のものはだいたい乾いていたが、ジーンズやバスタオルの端の固いところがまだ湿っていた。
干し直しである。
「なんで確認せえへんのよもう!!」
怒り心頭。

父は報連相ができない。
若いときからそうだったが、歳をとって余計ひどくなっている気がする。
日頃のストレスのほとんどが、父とのコミュニケーション不全が原因だ。
それでも許せるおおらかな人になりたいが、どうしても無理みたいだ。
「勝手なことをされる」のが大嫌いな性分らしい。

父母の不仲も、結局は父の報連相不全か原因だったのだろうと思う。


私が中学校1年生のころの話。
母がすごい剣幕で怒りまくっていた。
というのも、母が大切に育てていた庭のプランターの土がひっくり返されていたというのだ。
種をまき、毎日水やりをして、ようやく小さな芽が出てきたところだったという。

ひっくり返した犯人はもちろん父である。
父は何も植わってない空いているプランターだと思い、そこに新しい苗を植えるつもりだったという。

「庭は私が世話しとうの知っとうくせに、一言確認したらええやろ!」
わめき散らす母に対し、
「種を植えたんやったら、わかるように札でも書いとけ!」
と父は一蹴した。
お互いにああ言えばこう言って譲らず、負けじと怒鳴り合う。

私はいたたまれなくなって、懐中電灯を持って庭に駆け下りた。
夜だった。
私はすでにパジャマを着ていたのを覚えている。

私は父がひっくり返した土から、母の花の種を見つけようとした。
いや、正直に言うと、そんな暗闇で小さな種が見つかるなんて本気で思ってはいなかった。
単なるポーズだ。
健気な子供を演じることで、両親がハッと気づき、
「私たちがケンカしていてはいけないわね…」
「なみ松やめなさい、お父さんが悪かったよ」
な~んていうハウス名作劇場的な展開になるのではないかと、甘い考えでいたのだ。

しかし、うちの母は小公子セディの母でもなければ、うちの父は愛少女ポリアンナの父でもない。
母が鬼のような形相で、
「やめなさい!!アホが!!」
と窓から私を大声で怒鳴りつけた。

その瞬間、父が、
「何を怒鳴っとんじゃ!!子供に当たるな!!」
と母を殴った。

「よくも私を殴ったな!!」
母はキッチンに駆け込み、包丁をつかんだ。
完全に修羅場だった。

母は泣きながら、
「お父さんにも殴られたことないのに!」
と言ったように記憶しているが、そんなガンダムアムロと同じセリフだったっけ、とここは私も記憶があいまいである。

庭に降りたときは、こんなことになるとは思ってもみなかった。
おかしい…、なんでこうなったんだろう…。
ハウス名作劇場ではこんなことにならないのに…。
13歳の私はうろたえるしかなかった。

そこから波野家の暗黒時代が始まるのだが、今でも私はときどき考えてしまう。
あのとき、私が庭に出てしょーもない猿芝居をしなかったら、両親の人生はこじれずに済んだんじゃないか、と。
私がまぜ返したのはあのときの土ではなく、両親の夫婦仲だった。
夫婦喧嘩は犬も食わないというが、子供でも触ったらいけないのだ。

とにかく家族というものは、いつだって余計なことをする。
しかも、よかれと思って余計なことをするのだ。

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父はバスタブを洗いもせずに、お湯を入れ替えるだけでお風呂を入れようとした。
それをすると、浴槽の壁についた垢が新しいお湯を汚してしまうので頭にくる。
「やるならちゃんとやる! ちゃんとできないなら私にまかせる! 中途半端にやらないで。わかった?」
この話はこれで何度目だろうか。
あまりのストレスで、
「お父さんが早くこの世から消えてくれたらいいのに!」
と思ってしまう。

そんな先週の日曜日、夕方にテレビで『きかんしゃトーマス』を見ている父を見た。
その無邪気なシーンに、
「お父さんに悪気はないんだよなぁ」
と、悲しくなってしまった。

振り返って考えると、いつだって父は悪いことだと自覚して行動することはない。
結果的に、余計なことや迷惑なことになっているだけのかわいそうな人なのだ。
たった一言、確認すればいいのに、その一言が言えない愚かな人。

家族は愛し合いながら苦しめ合う。
だから私は、これ以上家族を増やしたくないのだ。

爪水虫と汗疱

母の世話の中で、つい忘れがちになるのが爪切りである。

特に足の爪なんて、自分のでさえも気が付いたら伸びているくらいなんだから、他人ならなおさらだ。

 

前のデイサービスに通っていた頃だから3年以上前になるけれども、いつの間にか母の右足の親指の爪が盛り上がるようになった。

靴のつま先が当たって変形しちゃったのかなぁ、なんて思いながら、爪が分厚くなっているのをやすりで削っていただけで、長い間そのまま放置していた。

 

疥癬にかかったとき、皮膚科の先生がたまたまそれを見た。

「これ、白癬ですよ。爪水虫です」

と指摘した。

「水虫? これ水虫なんですか?」

水虫薬のテレビCMでしか水虫を見たことがなかった私は、変形した爪が水虫だとは思いもよらなかったのだ。

 

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とはいえ、症状は爪が分厚くなるだけである。

母も痛くもかゆくもないようだった。

そのせいもあって、あまり熱心に治療せず、疥癬や床ずれで皮膚科を受診するついでに薬をもらう程度だった。

皮膚科が遠かったせいもあるし、水虫薬だったら市販薬も出てるからドラッグストアで買えばいいだろう、と軽く考えていたせいもある。

 

ところが、二週間前くらいから、母の爪まわりが赤くかぶれて、少しだけれど汁が出るようになった。

あれよあれよという間に、赤くポツポツした水疱が足の指全体に広がってしまったのだ。

てっきり水虫が悪化したと思った私は、市販のスプレー式水虫薬をバシャバシャかけた。

それでも、ブツブツは良くなるどころかひどくなるばかりだった。

 

水虫は感染する。

疥癬のときもそうだったけど、うつる病気というのは本当に気を使うものだ。

そもそも爪水虫にかかったのも、前のデイサービスでうつされたからに違いなく、集団生活でお風呂を使っていると水虫にかかる可能性が高いというのはよく言われることだ。

今度は母が原因で、今の介護施設のほかの利用者さんに水虫をうつしてしまったら申し訳ない。

それに、私だって水虫になるのは嫌だ。

赤いブツブツがいっぱいできてしまった母の足をしげしげ見ながら、困ったことになったなぁ、と頭をかかえていた。

施設の看護師さんが、とりあえず爪をガーゼ保護するように処置してくれて、皮膚科へ行くまでは市販の水虫薬でだましだまし治療していた。

 

早く皮膚科を受診するべきだったけれど、まずは骨膜炎の治療で赤十字病院の受診を優先するしかなかった。

歯を抜いた翌日、ひと段落ついた昨日の土曜日に、母を連れてようやく皮膚科へ行った。

皮膚科のある病院は少し離れた町の、古い住宅が入り組んだ場所にある。

田舎なので、そこくらいしか皮膚科がない。

行くのには時間がかかったけれど、赤十字病院と違って、診察券を渡せば5分も待たないうちに診察室へ通された。

 

「水虫が悪化したようで、足の指に水疱ができてるんです」

と先生に訴えた。

ここはお母さん先生と娘さん先生という母娘でやっている珍しいパターンの病院である。

この日は娘さんだった。

マスクをしているので顔全体はわからないが、瞳の色が髪と同じ茶色をしているのが印象的だ。

母の足を見てもらうと、

「爪は白癬ですけど、かぶれているのは水虫じゃないですよ」

と先生が言った。

 

「汗疱みたいですね」

「カンポー?」

「汗が原因でかぶれているんです」

「じゃ、うつらないんですか?」

「爪のほうはうつりますよ。でも、かぶれはうつらないです」

kanpou-genin-taisaku.com

 

かぶれがうつったらどうしようと心配していた私は、なんとなくホッとした。

「もしくは、スプレーの水虫薬を使われてたってことなんで、それにかぶれたのかもしれませんね。しばらくは爪水虫の治療はとめて、まずは汗疱性湿疹を治しましょう。足はできるだけ清潔にして乾燥させてください」

 

言われてみれば、思い当たることばかりである。

ここのところの暑さで、母はずいぶん汗をかいていた。

病気のせいで自律神経がうまく機能せず、体温や汗をうまくコントロールできないのだ。

私が気付かなかっただけで、靴下の中もかなり汗をかいていたことだろう。

そのうえ、私が間違った判断で水虫薬をスプレーしてしまった。

母は自分で身体を動かすことができないので、足の指を広げることがないまま、汗と薬でずっと蒸れていたに違いない。

素人判断がいかに危険かといういい例だ。


よっぽど痛いとき以外、母は声をあげない。

ベッドから起こすとき、腰が痛いのかときどき声を出すことがある程度だ。

それだって、話せていたときに同じ動作でよく「腰が痛い」と言っていたから、きっとそれだろうと私が勝手に判断しているだけのことだ。

 

アゴが腫れたときも痛かっただろう。

歯を抜いたときも痛かっただろう。

足のかぶれもかゆかっただろう。

 

でも、母は何も言わない。

言えないからしょうがない。

私は推測しかできない。

最近は私もマヒしてしまって、何も言わないから何も感じていないんじゃないかと思ってしまうことがある。

ケアマネさんから、

「ずいぶん痛かったでしょうね」

と言われて初めて、母のつらさに気づくという鈍感ぶりだ。

願わくば、私同様に母にも超鈍感になってもらって、痛みやかゆみを感じなくなっていてほしい。

歯を抜いて、猛暑。

金曜日は再び夏休みをもらって、赤十字病院へ母の犬歯を抜いてもらいに行った。

これを抜いておかないと、また炎症を起こしたり、そのせいでアゴの骨が溶けてしまったりするんだから、対処せざるをえない。

 

診察室では、歯を抜いたあとの万が一の場合について説明を受け、同意書にサインをさせられた。

一応「手術」ということになるらしい。

 

「術後、唾液に混じってピンク色の血が出ます。それはいいんですが、濃い色の血がダラダラ出て止まらないときは、すぐに病院へ来てください」

「すぐにと言いますと? 夜中でもですか?」

「そうですね、夜中だったら夜間救急外来がありますから」

「家族だけでは連れて来られないんですが、救急車を呼んでもいいくらいですか?」

「んー、まあそうですね、血が大量に出るようだったら救急車を呼んでもかまいません」

 

うちの母は10年ほど前に心筋梗塞をやったことがあって、それ以来、バイアスピリンという薬を飲んでいる。

血液をサラサラにする薬で、これを飲んでいると出血が止まりにくいと言われているのだ。

だから、出血については私もちょっと不安なところがあった。

歯を抜いたことによって、命にかかわるような大変なことになってしまったら?

心配症の私は、ついつい最悪の事態を考えてしまう。

 

「では、ご家族の方は外でお待ちください」

と言われて、ずいぶんかかるのかと思いきや、抜歯はあっという間に終わった。

終わった後の母を見ると、口の端から一筋の血が垂れているだけだった。

そのせいで服に2滴の血液染みがついてしまったけれど、ドバドバ出血したような雰囲気はない。

 

先生が抜けた犬歯を見せてくれたが、歯の根っこが真っ黒で、見事な虫歯だった。

これまで見えていた歯の上部分は何ともないのに、根だけ虫歯になるなんて、そんなことがあるの?

まったく、何が起きるかわかったもんじゃない。

 

「抜いたあとの部分は縫っています。自然に溶ける糸ですが、なくなるのに1か月はかかるでしょう。それまでに取れてしまうようなら、抜いてもらってもかまいません」

母の口を見てみると、歯を抜いた部分が真っ黒な穴になっていた。

「わあ、ブラックホール!」

と私が言うと、

「黒く見えているのは血の塊ですよ」

と言われてしまった。

言葉が言えない母は、痛いのか痛くないのか、ただ放心状態で口をだらりと開けていた。

 

先生からは、食事も、口腔ケアも、これまで通りでよいと言われた。

「穴の部分に食べカスがたまったらどうしたらいいんですか?」

と尋ねると、

「ほっておいてください。患部は触らないことが一番です。無理に掃除したりしないように」

と言う。

ただ、やはり心配性の私は、それでまたバイキンが入ったらどうするんだろう、と考えてしまう。

そのために抗生物質のお薬が出ているんだろうけれど、なんとなく不安だ。

こういうことから、徐々に弱ってしまうんじゃないのかな、年寄りってやつは。

 

その後、今のところ血はさほど出ることがなく過ごしている。

ただ、食事が進まない。

その理由が、患部が痛いせいか、猛暑のせいかがわからない。

 

毎年、猛暑が続くたびに母は食事が摂れなくなる。

ここのところ、一番食べてくれるのは、カステラやスポンジケーキ類を牛乳にひたしたものだ。

夏に入るまでは、オートミールグラノーラを混ぜたものに牛乳をかけて、くたくたになるまで置いたものを食べていたけれど、最近はよくむせるようになって、食べさせるのをやめた。

おかずには、豆腐、卵豆腐、茶碗蒸し、そしてレトルトの介護食品が大活躍だ。

ミキサー食は自分では上手に作れないから、手作りするのはやめてしまった。

レトルトの介護食品は最近、いろんなメーカーが参入してきて、種類がどんどん豊富になっている。

その中でも、昔は「容易にかめる」という一番かたいものだったのが、今は「かまなくてよい」という一番やわらかいレベルのものしか飲み込めなくなってきた。

 今冷蔵庫に入っているのはこんなところ。

 

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母が失った歯は、今回抜いた歯で3本目。(母の歯の丈夫さは過去の日記を参照していただければ幸い。)

naminonamimatsu.hatenablog.com

 

8020運動というのをご存知だろうか。

「8020(ハチマルニイマル)運動」とは?|8020運動|啓発活動|日本歯科医師会

「80歳になっても20本の歯を残そう」という運動らしい。

母の歯はまだ25本は残っている。

80歳まであと3年。この調子でいけば20本くらい余裕で残りそうだ。

母は歯も丈夫だし噛む力は十分ある。

なのに、食事は「かまなくてよい」だなんて、皮肉すぎる。

飲み込むのに力がいるなんて、若いときに誰が想像できるだろう。

 

去年の夏は、一時期アイスクリームしか喉を通らないときがあった。

それに備えて、今バニラアイスが冷凍庫でスタンばっているのだけれど、そろそろ出番かもしれない。

しかしアイスクリーム、歯茎にしみるかもしれないなぁ。

3年、10年、150年。

3年間使っていたAQUOSスマホを、XPERIAに機種変更した。
動作は遅いし、アプリはよく落ちるし、電池が1日持たなくなってきたからだ。

ガラケーAQUOSだったので、初めてのスマホAQUOSにした。
2年間使って、次はどうしようか悩んだけど、IGZOだとめちゃくちゃ電池の持ちがよくなりますよと言われてまたAQUOSにした。
そのときの切り替えは何の問題もなかったから、3台目になる今回もたいして構えずに気軽に機種変更したのが間違いだった。

AQUOSXPERIAでこんなにも操作性が違うなんて、思ってもいなかったのだ。
場所が違う、名前が違う。
例えば、AQUOSにあったマナーモードがXPERIAにはない。
AQUOSで「電話帳」だったアドレス機能がXPERIAでは「連絡先」だったりする。
慣れればなんてことないんだろうけど、ちょっとしたことで戸惑って、イライラする。
やはり3年間毎日使い続けてきただけあって、指と頭がなかなか切り替わらない。
サクサク行きたいから機種変更したのに、このモタモタさ。本末転倒になってしまった。

「ボーナス入ったし、お金のことは目をつぶって快適さを買おう!」という主旨だったのだが、想定以上に本体代金がかかってしまったのも、イライラを加速させた。
ガラスフィルムだの充電コードだの(TypeCとやらに変わったので以前のは使えないらしい)を買わされ、そのうえ「基本パック」だのなんだのを付けさされてなんやかんやの月額をムシリ取られる始末。

おまけに、ガラスフィルムの貼り付けを頼んだら、ずいぶん右にズレていた。
家に帰ってから気がついたので文句も言えない。
それに「貼ってください」と頼んだのは私で、店員のサービスでやってくれたことである。
自分でやってもズレたかもしれない。

それに一度貼ったガラスフィルムを貼り直すなんて可能なんだろうか。はがして2度とくっつかなくなったらどうしよう。
少々ズレてたって、スマホケースに入れてしまえば、さほど気にならなくなるに違いない。
そう思って、目をつぶることにした。

操作性のイライラと、想定以上の出費の痛手と、ガラスフィルムの貼り付け失敗で、機種変更なんかしなかったらよかった、と凹んでばかりいた。
機種変更の2日後、出張から帰ってきた彼氏と会った。
数日間のお互いの出来事を話して、私は機種変更した話をすると、彼氏は私のXPERIAを見て言った。

「ガラスフィルムめっちゃズレてるやん」

一番気にしているところをえぐられた。
横からナナメからズレをチェックし、
「こんなん、端からはがれるんちゃうか。ほら、ほら、めくれるやん」
とはがそうとする。
「やめて!はがさんといて!」
「一回全部めっくって、貼り直したげよか?」
「そんなんできるの?」
「知らんけど、できるんちゃう?」
「やり方知らんのやったらやめて!」

当然私だって、ズレに気が付いた後すぐネットでガラスフィルムの貼り直しを検索していた。
でも、ホコリや気泡が入った場合の話ばかりで、ズレた場合のケーススタディはなく、店のサービスで貼ってもらった場合はどうなるかという事例も見当たらなかった。
ガラスフィルムには貼り直しがきくタイプときかないタイプがあるという文も読んだ。

「貼った奴に文句言いに行ったら?」
と、彼氏はしつこく言う。
「わざわざ文句言いに行ったところで、謝られるだけやったら時間のムダやわ」
「ショップに貼り直しさせたらええやん」
「このガラスフィルムが、いったん貼ったら直されへん種類やったら? 」
「新しいの出してこさして、貼らせたら?」
「サービスで貼ってもらっといて、新しいので貼りなおせなんて、よう言わんわ」
「俺が言いに行ったげよか。ガツンと言うたるで」
「そんな時間ないでしょ!」
「じゃあどないしたいんや!」
「だから最初から、ズレてるのはあきらめてるって言うてるやんか!」

私としては、直しようもないから気持ちにフタをしていたものを彼氏にほじくりだされ、嫌なことを突きまわされたように感じ、彼氏としては、親切心からなんとかしてあげようと思って言ったことなのに不機嫌になられて、まったくわけがわからない、となり、お互いにどんどん気持ちがすれ違ってしまった。
気持ちの断層はどんどん深くなり、最終的に、
「私のスマホなんやからほっといて! 機種変更した私がアホなんやからほっといて! 一生、ガラスフィルムずれたまま生きていくんやからほっていて!」
となり、気まずい空気のままその日を終えた。

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17日の海の日は、二人で「海フェスタ神戸」へ行こうと約束をしていた。
神戸港開港150周年のお祭りである。
www.kobeport150.jp

先日の「私のスマホはほっといて」の件があったので、出かける前は少々気分が乗らなかったが、お祭り気分の会場を一緒に歩くにつれて、そんなしょーもないわだかまりはすっかり忘れていった。
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午後から行ったので、「帆船パレード」のうち、見学できたのは香住高校の但州丸と、練習帆船の海王丸だけだったけれど、どちらも若い船員さんたちがさわやかに応対してくれて、質問をするとどんなことでも丁寧に答えてくれた。
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すごいね、立派だね、開港150周年だから今年は特別だね、と二人で話しながら歩く。
彼氏に誘われなかったら、私はたぶん海フェスタには来なかっただろう。
海や船が好きな彼氏のおかげで、これまでたくさん船を見たり乗ったりした。
これまでまったく触れてこなかったジャンルである。
彼氏のおかげで、自分の知らない世界があることを知る。
ちょっとだけ、私も自分というものが広がった気になる。

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実は、この日で彼氏と出会ってちょうど10年になるのだった。
私はすっかり忘れていたのだけれど、彼氏はちゃんと覚えてくれていた。

「最近TiffanyのキャンペーンにLadyGagaが使われてるの知っとう?」
元町駅に看板出てるのを見たよ」
「HardWearっていうシリーズがな、女性の強さとクリエイティブな精神がコンセプトらしくって、それでLadyGagaらしいわ」
「へぇぇ」
「プレゼントするならぴったりかなと思って」
渡された青緑色の箱を開けると、HardWearの新作のネックレスが入っていた。
「ほんまはピアスのほうがええかなと思ったけど、人気で売り切れらしいわ」

www.youtube.com

俺はなんでもわかっている、といつも彼は言う。
あなたは何もわかっていない、といつも私は言う。

波のように寄せては返し、近づいたり遠ざかったりしながら、私たちは海を漂う。

本当は私が何もわかっていないだけで、彼はなんでもわかっているのかもしれない、と私は思う。

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翌日、ダメもとでソフトバンクショップへ行った。
先日とは違う店員さんにガラスフィルムのズレを訴えたら、
「ちょっと見てみますね」
と笑顔で答えて数分後、ズレを直したスマホを私に返してくれた。

アゴの骨が溶けてるって!?

昨日と今日の午前中は、赤十字病院で過ごした。

そう、母のアゴの腫れが再発したのだ。

 

気が付いてくれたのは、やはり訪問リハビリの療法士さんだった。

「あれ? また腫れてません?」

言われてみると全く前回と同じパターンである。

施設で訪問歯科を呼んで見てもらう、抗生剤の薬をしばらく飲む、再度見てもらう、よくなっていないので赤十字病院への受診を勧められる、という、デジャヴかというくらいに同じ道筋をたどった。

 

ただ、今回異なっていたのは、歯科から赤十字病院受診の打診があったのが金曜日だったことだ。

「早めに受診されたほうがよいかと」

と歯科の先生が私に電話してきてくれた。

「早めというのはどれくらいですか? 明日から三連休ですけど、来週でも大丈夫そうでしょうか?」

「それは何とも…。今日受診されたほうがいいと思いますけど…」

「今日ですか…」

仕方がない、午後から休みを取って早退すれば午後の診察時間には間に合うはずだ。

「わかりました。夕方なら間に合うかと思います」

「口腔外科は金曜午後の診察がなくて、午前だけなんですよ。これからすぐ行けば間に合いますよ」

「そんなの無理ですっ!!」

神戸元町から姫路まで、電車に乗っているだけで1時間近くかかるのだ。

金曜日の午前11時半に電話をもらって午前の診察に行けるわけがない。

 

病人を抱えていると、いつもこんなやり取りになる。

病気は週末も祝日も関係なくやってくるのに、病院の受付時間に振り回される。

 

頭を抱えていると、ケアマネさんが連絡をくれた。

「私が代わりに連れて行きましょうか。こちらとしても、不安を抱えたまま連休を過ごしていただくのは心配ですし」

神!!!

いやもう、ここはあえて「ネ申!!」と書こう!!!

それくらいのすがる気持ちで、

「申し訳ありませんが甘えます!」

とお願いした。

 

これは普通、ではないと思っている。

本当に良い施設、良いケアマネさんに当たったのだと思う。

自分と母がたまたま恵まれているだけだ。

感謝するほかない。

 

父とも連絡を取ると、父もケアマネさんを追いかけて病院に行くことにしてくれた。

病院の会計は父にやってもらった。それくらいの役に立ってもらわないと困る。

 

前回、赤十字病院で見てもらったときの診断結果は、蜂窩織炎ではなく「骨膜炎」だったそうだ。

骨膜炎をネットで検索すると、このような説明が出た。

 

hapila.jp

 

なるほど、炎症がどこまで達しているかによって、歯槽骨炎→顎骨骨膜炎→顎骨骨髄炎→蜂窩織炎という順で悪化するのか。

ということは、蜂窩織炎と比較して軽い状態と考えてよく、それほど心配することもないか、と気楽に考えていた。

 

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診察の結果、前回同様3日間毎日、抗生剤の点滴をすることになった。

ただし、前回と違ったのは、今回CTスキャンを撮ったことだ。

前回、360度回る最新式のレントゲン撮影に失敗したせいだろう。

 

昨日の土曜日に私が診察室に同行すると、先生が昨日ケアマネさんが同行してくれたときに撮影したCTスキャンの結果を解説してくれた。

土日は、いつもの外来とは場所も先生も違う。

夜間休日対応の診察室はERになっていて、勤務しているのはほとんど医学生のような若い先生ばかりだ。

このときも「女の子」と言ってよいような若い女性の先生が応対してくれたのだが、その説明が意外な内容で驚いた。

右下の犬歯の根の部分に炎症が起きているせいで、アゴの骨が溶けているというのだ。

 

「そ、そんなことがあるんですか!?」

私がびっくりして尋ねると、

「そうなんです! 炎症で骨が溶けるんです!」

と、先生はまるで「雪見だいふくにイチゴ味があるんです!」くらいの可愛らしいノリで言った。(わかる人には「cv.花澤香菜」で読んでもらいたい。)

「ここですね。白くなっているこのラインがアゴの骨です。ね?ここだけ消えてるでしょ?」

CTの輪切り画像をスライドしていくと、部分的にアゴのラインがぼやけてなくなっている個所がある。

 

信じられない…。アゴの骨が消えている…。

 

私が絶句していると、

「でもでも、それほど心配されることはありませんよっ。小指の先ほどの穴が、ちょこっと開いているだけですからねっ!」

彼女は慰めのつもりで言ったのかもしれないが、私にとってはその穴はひどく大きく感じられた。

小指の先って、けっこうデカくないか!?

まさか、母のアゴにそんな恐ろしいことが起きているなんて思ってもみなかった。

 

「炎症の原因になっている歯をこのまま放っておくとまた再発しますから、抜いたほうがいいと思われます。来週の平日、外来にもう一度来ていただいて、抜歯しましょう」

そう言われて、金曜日に受診する予約を取った。

金曜日は幸い業務上の予定は何もなかったはず。

 

けれど、いつもこういう話になると、一抹の不安がよぎる。

こんなに会社を休んでばかりでいいんだろうか。

うちの職場は理解があるほうなので、来週火曜日に出勤した際に「金曜日に休ませてください」と言っても、注意したり嫌な顔をしたりする人はいないだろう。

単に私が「休んでばかりで気が引ける」というだけだ。

引け目と言えばいいのか、負い目と言えばいいのか、気持ちの問題だけである。

世間様での介護離職の原因は何が多いかわからないが、私が痛感しているのは、

「病院の受診や役所等の手続きのために平日休みを取らないといけないのが、勤務の弊害になる」

ということに尽きる。

私は元来図太い人間なので、いざとなれば、

「有給だって介護休暇だって、労働者の権利なんだから休んで何が悪い!」

と開き直れる性格だけれど、神経が細い人だったら気に病むのではないか。

自分が休んだことでしわ寄せが来る同僚に対して罪悪感を感じ、精神的に耐えられなくなって離職する人もいるんじゃないかと想像する。

 

…とここまで書いて、先週特撮のライブに行くために会社を休んだくせによく言うよ、と自分で自分を突っ込んだ。

まあね、図太い人間だけが生き残れるのさ。

『ベルギー奇想の系譜』展を見ながら、いつか会社をやめる日を夢見る。

7月6日の夜はオーケンのバンド「特撮」のライブだった。

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ふだんから平日でもライブや演劇などいろいろ遊びに行くけれど、オーケンに会えるときは特別!
気合いを入れて夏休みを1日取った。(わが社では5日間の夏期休暇を好きなときに取れるのだ。)

せっかくの休暇は有効に使いたい。
それで、昼間は兵庫県立美術館の『ベルギー奇想の系譜』展へ行くことにした。

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一緒に特撮のライブに行くオーケンファンの友達に打診すると彼女も休暇を取っているというので、美術館へ誘った。

休みの日なんだから思いっきり朝寝坊、というのも魅力だったけど、午後から出掛けて夜のライブに差し支えてはモトもコもない。
朝イチで行くことにした。

特撮に『シーサイド美術館』という曲があるが、兵庫県立美術館HAT神戸の港を臨む場所にあり、まさにシーサイド美術館である。
けれど、「やってんだかわからない美術館」という歌詞とは真逆で、平日午前中の美術館は意外に賑わっていた。
私たちがふだん会社で退屈な時間を過ごしている頃、別の場所では全く異なる時間が流れているらしい。まるで旅人になった気分だった。

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私はブリューゲルのヘンテコで寓話に満ちた絵が大好きだ。
これまでブリューゲル単品でしか見ていなかったけれど、彼が描いていた不思議な生き物たちはもともとはヒエロニムス・ボスがルーツだということがよくわかる展示になっていた。
ブリューゲル後、マグリットやアンソール、はたまた現代のアーティストたちまでに不思議で幻想的なアートが引き継がれていく構成も面白かった。

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展示されていたブリューゲルは別の展覧会で見たものがほとんどだった。(好きだから、そりゃ見てるさ。)
そんな好きでもないマグリットデルヴォーの作品も、なんか見たことあるのが多いなぁ、と思っていたら、かなりの割合で姫路市立美術館の所蔵品だった。なじみがあるはずだ。
そんなこんなで、ブリューゲルマグリットに新鮮味はなかったけれど、今回の大収穫はフェリシアン・ロップスという画家だった。

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悪魔や死神、骸骨や退廃を描いたクールな画風でめちゃくちゃカッコいい!
さすが、ボードレールと友達なだけある!

見終わったあと、一緒に行った友達と何が一番良かったか話していたら、彼女もロップスだと言っていた。
これ、ロップスブーム来るんじゃないの?!?!?
物販でロップスTシャツとかあったら売れそうな気がするけどなぁ。(実際にはひとつもなかったけど。)

展示作品もとても素晴らしかったけれど、ところどころで来場者を楽しませるための仕掛けが感じられて、平日でも来場者が絶えないのは工夫のたまものだと思わされた。
そのひとつはSNSによる拡散を狙った宣伝効果で、1階フロアに置かれたパネルである。
記念撮影用のパネルは今どきどこでも置いてあるけれど、面白いなと思ったのは、それに吹き出しをつけて大喜利のように遊ぶというもの。

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最初は躊躇してたのに、一度作ると興に乗ってきて、いくつも作って撮ってしまった。
あとで見返すとしょーもないものばかり。ギャグを作るのって難しいね。(他の来館者の方、占領してすみませんでした。)

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ふと、休んだ会社のことを思い出す。
今、わが社は中期経営計画の策定の真っ最中で、私もその末席にいる。
最初の案の段階では、「SNSの導入」なんてのも計画の中に入っていたのだけど、いつの間にか消えてしまった。
一生懸命タイムラインについて説明したけれど、オジサマ方にはついぞ理解してもらえずじまい。
「ITリテラシーの向上」ってのも案に入れていたけど、そもそもリテラシーがない土壌では、それも霧散してしまった。

美術館に限らず、いろんな場所で集客や売り上げアップの工夫を見かけると、「それに比べてウチは…」と思ってしまう昨今。
決して「SNSを取り入れろ」と言っているのではない。ただ、新しいことへチャレンジする体質のなさが、やる気を減退させるのだ。
それに比べ、アートの世界はいつだってひらめきに満ちていて、私はいつまで会社勤めをするのだろう、と思ってしまった。

特撮に『5年後の世界』という曲がある。
想像できたかい、5年後の世界。
5年後の私は、今とは違うどこかにいたいと夢想する。