3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

リフトの故障と戌の日

先週の日曜日(11月19日)の朝、母をデイサービスへ見送ったあと、階段下に降りたリフトを上に戻そうとしたらゴトゴトっという音とともに何かが落ちた。
見ると、リフトの部品が落ちている。
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え゛え゛ーーーーっ!!

部品が取れたりする?!?!?!

 

部品は落ちてもリフトは動いていた。
とりあえず、ポロリと取れた部品はそのまま、一番上までリフトは移動させた。

 

落ちた部品はレールの後ろにあるキャタピラみたいな部分だった。

そういえば最近リフトを動かすと変な音がしていた。
プラスチックが軋むような音だ。
この部分がおかしくなって、音を立てていたのか。


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さっきはとりあえず部品が取れたままでも動いたけど、このあと動かなくなってしまったらどうしよう。
あいにくの日曜日。業者さんは休みだ。
リフトなしでは母を家に入れることができない。
もしリフトが動かないとなると、今晩は急遽、施設にお泊まりをお願いしないといけなくなる。

 

とりあえず、部品は組立式みたいなので頑張って自分で付けてみた。
少し固かったけれど、なんとかくっついた。

 
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動かして見ると、なんとか動く。


でも、本当にこれで直ったんだろうか…。

これが合っていて、問題がないのかどうかがわからない。

 

想定される最悪の事態は、動くと思って母を乗せて、階段の途中で止まってしまうことだ。
宙ぶらりんのまま立ち往生してしまう。

 

まずは父に相談してみた。
父は高校で機械科だったので私よりは知識もあろう。
「あとで見るわ」
と腰が重い父をせっついて見てもらうと、
「わからん。うまいことくっつけとんちゃうか?」
と、頼りない。
60年前の杵柄では古すぎたか。

 

父では話にならないので、もっとちゃんとした機械に詳しい人に見てもらおうと、海上で釣り中の彼氏にLINEで画像を送り、アドバイスを求めた。

 

「キャタピラみたいのが取れてしまったの」
「これはキャタピラじゃなくて、英語でenergy chain、日本では椿本チエインという会社が出してるケーブルベアっていうもの。中に電源ケーブルが通ってるでしょ」
「自分でくっつけてみたんだけど、大丈夫かしら?」
「この画像では大丈夫かどうかわからんなぁ。もう海から上がるところやから、見に行ってあげよか? タコとイワシが釣れたから、ついでに持っていってあげる」

「いいの? 見てくれたら心強いけど…、私、お父さんに話したばっかりやから、挨拶に来たのかと誤解されるかもよ」
「えーっ、そんなん聞いたら行きたくなくなったなぁ」
「でしょ?」
「うそうそ、行ったげるよ」


彼氏が修理をしてくれた

1時間後に彼が来てくれて、リフトを見てくれた。

「これ、上下逆や。逆さまにくっつけとうで」
と彼氏が言う。

 

「えーっ、でも、隣の部品と同じ向きにつけたのに?」
「見てみ、ここからが向きが変わっとうやろ。日焼けの色も違うし」

「ほんまや! でも、わたしがくっつけたのは、ポロリと取れた5つ分だけで、こんなにたくさんじゃなかったよ」
「なみ松じゃないとしたら、誰かが逆さまにつけ変えたんやろ。変色の具合からしたら最近やろなぁ」


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一部だけ逆さまに付け替えるなんて、私がそんなことするはずないし、父もそんなことしない。
考えられるのは、先日電動リフトをぶつけたあとに業者に来てもらったときだ。
それくらいしか考えられる機会がない。
あるとすえれば…、という推測だが。

 

原因がわかったところで、彼氏は逆さまな部品を工具で取り外し、正しい向きにつけ直し、さらにそれを結束バンドで補強してくれた。

おまけに、ぶつけて歪んだままのリフトの側面も見てくれて、そこも修理してくれた。

「これでもう大丈夫」

父も私と一緒に彼氏の修理の様子を見ていたのだけど、
「逆さまやなんて、ようわかったなぁ」
と、父は感心しきりだった。

私が妊娠している事情なんか、まるでなかったことのように、
「どうもどうも、ありがとうございました」
と挨拶している。
…誰なのかわかっているんだろうか。


たまたま大安の戌の日だった

修理を終えると昼過ぎだったので、私と彼氏は二人で昼食を食べにでかけた。
一応父にも声はかけたが、お腹が空いていないのでいらないと言った。

 

お昼ごはんは、実家の近くにある人気のラーメン屋に行った。
そのラーメン屋の近くには、TV見仏記が取材に来たことがある名刹のお寺がある。
うちの家では毎年元旦に、ここに初詣に来ている。

「よかったら、ラーメン食べたあと、お寺に参らない?」
私が提案した。

というのも、できればこの日に安産祈願のお参りをしたかったからだ。

 

妊娠について打ち明けた知人から、
「5か月やったら腹帯付けなきゃね」
と言われた。

そっかぁ、そんなこともあるのか…。

腹帯という言葉は知ってたけど、そもそも何のためなのか全然知らなかった。

それで腹帯について検索していると、妊娠5か月の戌の日には安産祈願をする習わしがあることを知った。

正式には、御利益のある神社で初穂料を払ってお祓いをしてもらって、腹帯をもらうものらしい。

 

妊娠初期からちゃんと準備してるならともかく、気付けば5か月に入っていた私には、とてもそんな余裕などない。

それでも一応戌の日の日にちを調べると、11月の次の大安の戌の日は11月19日だった。

それを知ったのは前日の18日。

とてもじゃないけど行くのは無理だな、と思って諦めていた。

 

たまたま彼氏が来てくれて、近くにお寺がある。

神社じゃなくてお寺だけど、安産祈願のお参りくらいはできる。

ラーメンを食べたあと、彼氏と二人でお寺にお参りした。


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「お参り用に五円玉貯めてるのに、車に忘れてきた」

と彼氏。

「ここはひとつ、私、奮発する!」

「五百円玉入れるん?」

「ううん、百円」

「なんやケチやな」

 

今振り返れば、仮にも安産祈願なんだから五百円玉を出してもよかったのに、ケチるんじゃなかった。

お腹の子供が元気に産まれてくれたらそれでいい。

五百円なんて安いものだったのに。

仁王さんも呆れてら。

 

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それでも、二人でお参りができたことで満足。

夫婦でもないし、まだ親になる覚悟もない二人だけど、秋の日の、小さな幸せ。

両親の反応

両親に妊娠のことを話したのは、先々週の末のことだった。

両親のうち先に打ち明けたのは母だったけれど、母はもう言葉を発することができないので、ベッドで寝ている母に私が一方的に語りかけるだけだった。 

「お母さん、私な、お腹に赤ちゃんができてしまったんや」

何か言ったところで、わかっているのかわからないのか、母は目をパチクリさせるだけである。

「お母さんは孫ができてうれしい? でも、赤ちゃんがお腹から出てきたら、これまでみたいにお母さんの世話はできなくなるんやで。どうしよう。お母さぁん、私、もうどうしたらええんかわからへん…。どうしよう…」

自分で一人でしゃべっているうちに悲しくなってきて、母の枕元で号泣してしまった。
もともと泣き虫だけれど、最近ちょっとしたことですぐ泣いてしまうのも、やっぱり妊娠しているせいだろうか。

子供のようにワーワー泣いている私に、母も合唱するごとく、
「あ゛〜あ゛〜」
と顔をくしゃくしゃにして何か言う。
単に同調しているのか、慰めようとしてくれているのか、娘を助けられないもどかしさから母も泣いているのか。

思春期以降、私が泣いていると母はよく、
「もぉ、泣かんとって! あんたが泣くとお母さんまで悲しくなって、泣きたくなるやろ!」
と言ったものだ。
だから私は、親にはつらいことを話さずに、隠れて泣くようになった。

もし、母が病気にならず昔通りだったら、妊娠しても母に泣きつくようなことはしなかっただろう。
妊娠したことで一番影響を受けるのは何より母の介護だ。

お腹が大きくなってくると今までのように母を抱えることができなくなるし、出産時の入院のときはまるっきり何もできなくなる。
産後だって、新生児と要介護5の老人の世話が両立するとも思えない。

そうなると、しわ寄せが来るのは母の方。
けれど、それが孫のためなら、うちの母は納得してくれるはずだ、と思う。

というのも、母は本当に子供好きで、喉から手が出るほど孫を熱望していたからだ。

よくこんな提案を受けた。

「結婚しなくても、子供だけ作ったら?」
「やだよ、産むの痛いし」
「じゃあ、子供のある人と結婚して、連れ子してもらったら?」
「だから、結婚したくないんだって」
「じゃあ、子供をもらって養子にしたらどう?」
「そんなん自分がもらえばええやんか」
「お母さんがもろたら、孫にならんやんか。お母さんは孫が欲しいんや」
「他人の子を連れてきて何が孫やねん」
「孫が欲しい!!孫が欲しい!!孫を産んでちょうだい!!!」

最終的に理屈も何もなく駄々をこね始める始末。

そこまで欲しかったはずの孫なのだから、少々のことは我慢してもらわないと。
だとしても、どうすればよいのか結論は出ない。


父の反応

父には、土曜日の朝に話をした。
キッチンテーブルで父はコーヒーを飲みながら新聞を広げている。

「お父さんにちょっと、大事な話があります。ちゃんと聞いてくれる?」
「何や」
「ちょっと新聞読むのやめてもらってもいい?」
「何や」
「あのね、えーっと、何回かうちに遊びに来てくれた北松さん、覚えてる?」
「?」
「釣った魚を持ってきてくれる人」
「ああ、あの人か」

父は何回会っても彼氏の顔と名前が覚えられない。

一度などは、
「あの人は魚屋か? なんで魚持ってきてくれるんや?」
と本気で尋ねたことがあった。
娘に彼氏がいるとは想像できないらしい。

そういえば、オーケン若かりし時も家に遊びに来ている彼女についてお父様が、
「賢二、あれは古本屋さんか?」
と尋ねたというエピソードとそっくりかもしれない。

「その、魚を持ってきてくれる人と、時期はわからないけど、結婚することになりそうです」
「ええやないか」
「で、なんでそうするかというと…」
「うん」
「なんでかっていうと…」
「うん」

その先が言いづらく、私はつい口ごもってしまった。

「…んしん……したからです」

「え?」

びっくりの「え?」ではない。
耳が遠い老人の「え?」である。
開き直って、大きな声でゆっくりと、

「お腹にぃ、赤ちゃんがぁ、できましたっ!」
と言うと、父は先ほどと同じ調子で、
「ええやないか」
と言った。

「すみません。」
「別にええで。結婚式はせえへんのんか?」
「お腹が大きいとカッコ悪いからせえへんよ」
「ほんなら金使わんでええな!」
そういう問題かっ?!

 

「それで、困るのはお母さんのことで、赤ちゃんとお母さんと、両方世話できるかどうか…」
「まあ無理やな」

いつだって父は他人事だ。
どうしよう、とかではない。
無理だという、客観的な見方だけで、個人的オピニオンがない。
いつだって相談するに値しない人だ。

けれど、
「まあ、俺にできることがあったら、何でも言うて! 何でもするから!」
とご機嫌に言い放った。

…できることがあればいいんだけど。

そして、
「あ〜、やれやれ。ようやく嫁に行ってくれると思たら肩の荷が降りたわ!」
と言うので、ややカチンときた。

おいおい、私は肩の荷だったのかよ!

その日の夜、お風呂上がりに髪を乾かしていた私に、父がやってきて、
「今は身体を大事にせなあかん時期と違うんか。なみ松は3ヶ月くらいのときに下りてしまいよってな、お母さん入院したんや。とにかく身体を大事にせなあかんで」
と言った。
うちの父でもまともなことが言えるんだな。

そしてまたしばらくすると、
「赤ちゃんの産着は買うたんか?」
と言い出す。
早い早い!!
やっぱりトンチンカンではあるものの、結局父は孫ができるのが嬉しいらしい。

父79歳、母77歳。
なんとか存命中に、孫が間に合いそうだ。

中年の蹉跌

産婦人科を診察して妊娠が確定したあと、そのことを一番最初に話したのは、隣の席の係長だった。

男性だけど話しやすくて、しょっちゅうおしゃべりする仲だ。
体調が悪いと言って朝に休みを取ったから、
「午後から出てきても大丈夫なん? 調子悪かったら午後も休んだら?」
と心配されたので、誤魔化すのも悪いと思い、こっそり打ち明けた

「うわ〜、まじかっ!!!」
ものすごくびっくりしたしていたけど、
「 おめでとう! よかったなぁ!!」
とすごく嬉しそうに言われ、逆にこっちがびっくりした。

そうか、おめでたいのか。
私、よかったのかなぁ。

そのあとから現在まで、少しずつ人に情報解禁してきた。
黙ってたって、これ以上お腹が大きくなってくるとどうせ隠しきれない。
周囲には早めに話して、配慮してもらったり助けてもらうに限る。

そうやって話してみて意外だったのは、未婚の妊娠ということに批判的だったり冷ややかだったりした人が一人もいなかったことだ。

そして全員がまず、
「おめでとう!」
と言う。

そのたびに、そっかおめでたいんだな、と思う。

ある友人にそのことを言うと、
「シングルだとかお母さんの介護してるとか、事情を知ってるだけに、『おめでとう』以外のことは言いにくいよ」
と言われ、納得した。

例えは悪いけど、ご不幸があったときはとりあえず「御愁傷様です」と言うようなものか。

だいたい、誰が40過ぎでうっかり妊娠なんて思うだろうか。
あまりそんな例が浮かばない。

SATCはよくできている。

中年のシングル女性の妊娠について考えていると、ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』でのミランダの妊娠を思い出した。
シングルの弁護士ミランダが元カレと一夜を過ごし、たまたまその1回で妊娠してしまって、キャリーに泣きながら相談するシーンだ。
ちょうどその頃、同じく親友のシャーロットが不妊治療をがんばっていて、ミランダは悩んだ挙げ句、中絶を諦める。

オシャレでチャラついたドラマのよう誤解されるSATCだけど(観るまでは私もそう思っていた)、「あのときキャリーがこんなこと言ってたな」とか「あのときサマンサがこんなことしてたな」とか、人生の場面場面でドラマのシーンがオーバーラップする。
つくづく、秀逸なドラマだったなぁ、と思う。

今回の私のケースも、周囲の同年代のご夫婦が不妊治療を頑張っていたり、治療しないまでも赤ちゃんを強く望んだりしてたりする中、望みもしない私がたまたま妊娠してしまうという皮肉。

まるで、毎回宝くじを大量に買って、当たりますようにと神棚に備えている人達に当たらず、宝くじ売り場の前を通りがかって、たまたま1枚買った私が当たってしまった、そんなかんじだ。

欲しかったわけじゃないけど、それならこれは天啓だと思って大事にします、と思ってしまう。

覚悟する女、狼狽する男

ずっと、結婚もしたいと思わないし、子供も欲しいとは思わなかった。
こんなことになるまで、いや、こんなことになってさえ、自分が子供を産んで育てるなんて想像できない。

その割に、私があまりに落ち着き払っているので、いまだに混乱から立ち直らない彼氏からは、
「実はわかってたんじゃないのか」
と疑われたりした。

望んだわけじゃないけど、妊娠限界年齢が近付いてきた39歳くらいから、
「本当に子供を持たない人生でいいの?」
と、ときどきふと思うことがあった。

イムリミットが過ぎれば、その後の人生、どんなに子供が欲しいと思っても間に合わない。

「ファイナルアンサー?」

心のみのもんたが不敵な笑みで問いかける。

これまで自信を持って、
「子供はいりません!」
と言っていたのに、自信が揺らぐ。
「ほんとに?ほんとぉ〜〜にファイナルアンサーと言ってもいいの??」

たぶん、そんな気のゆるみから、「あれ」のとき、
「ま、大丈夫でしょ。40越えての確率は低いんだし」
と思い、
「もしこれで出来てしまったなら、そういう運命だってことで諦めるしかないよね〜」
と、楽観視してしまった。


ただ、彼氏のほうはそんなに簡単に割り切れず、ずいぶん思い悩んでいる。

「この歳になって恥ずかしい。会社になんて言えばええんや」
とか、
「今のマンションのローンもまだ残ってるのに、新居どうしよう…」
というのはまだしも、
「どうせこうなるんだったら、5年くらい前に結婚しとけばよかった」
とか、
「成人するときには親が67歳のおじいさんだなんて、子供がかわいそうや」
とか、今さら言っても仕方ないことをグズグズ言う。

そんな彼氏の苦悩を見ていると、『青春の蹉跌』という映画を思い出す。
監督は神代辰巳、脚本は私が大好きな「ゴジ」こと長谷川和彦
音楽は井上尭之で、そのテーマ曲はオーケンのソロアルバム『I STAND HERE FOR YOU』でも使われていた。

どういう映画かというと、主人公の大学生の萩原健一が恋人の桃井かおりを妊娠させてしまって、でもお金持ちのお嬢さん壇ふみと婚約してて、悩んだ挙げ句に桃井かおりを殺してしまう、という話。

望まない妊娠の場合、男は面倒くさくてしょうがないものらしい。
私が桃井かおりだったら殺されるわけだ。

そういうことも人生にはあるわな、と思っていると、行政もちゃんと考えているらしく、兵庫県と神戸市では「思いがけない妊娠SOS」というサイトを作っていた。
『青春の蹉跌』のような不幸を作らないためにも、そういう支援は大事。

http://ninshinsos-sodan.com


でも、どうして私があまり悩まないかというと、やっぱり中年だからだ。
これまで20年も正社員で勤めてて、老後のために貯めていた小銭があるのと(その代わり高級老人ホームに入る私の夢は消えた)、もう今の会社に飽き飽きしてて、「何か新しいことにチャレンジしたい」と思っていたせいだ。
10代20代の妊娠とは、今後の人生の捉え方が違う。
こっちは老後しか考えてなかったんだもの。


それに、これまで長く生きてきた分、心の支えになる糧もたくさん身につけてきた。

ずっと便秘で御腹が張ってると思ってたら妊娠だったとわかったとき、特撮の『ケテルビー』の歌詞を思い出した、ということは前回書いた。

その『ケテルビー』という曲の最後は、オーケンの語りでこう締め括られる。


そうだ。喜びに見えるものは悲しみで、
愛に見えるものは実は憎しみなのかもしれない。
しかしこの宇宙は闇ではない。
逆に言えば、
私たちが孤独や苦しみと認識しているものは、
本当は、
あたたかな、あたたかな午後の陽射しであるのかも
しれないのだ。


特に望んでいなかった命を、突然、お腹の中に授けられてしまった。
これからどうしよう、と、私も彼氏も途方に暮れる。

けれど、きっとこの子は、あたたかな、あたたかな午後の陽射し。
「かもしれない」ではなく、きっと、きっと。

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妊娠がわかったその日は人間椅子のライブだった。

妊娠検査薬で陽性反応が出た夜の話。

そんなわけで明日産婦人科を受診してきます、と私が彼氏にLINEでメッセージを送ると、すぐに電話がかかってきた。

 

「会社早く終わらせて帰るから、明日の夜、会える?」

「どうして? 木曜日でもないのに?」

 

10年付き合ってきた私たちのルールは、いつの間にか月曜日と木曜日がデートの日と暗黙の了解ができていた。

 

「どうしてって…、なみ松は妊娠してるかもしれへんのでしょ?」

「そうだけど、まだ確定ってわけじゃないし木曜日でいいよ~。だって、私…」

「何?」

「明日の夜はチキンジョージ人間椅子のライブだもの」

「え~ッ!? 行くの?」

「そりゃ行くでしょ。チケット取ってるんだし」

「身体は大丈夫なん?」

「そんな今さら。昨日まで普通に暮らしてたんだから」

 

そんなわけで、11月8日の水曜日は、午前中に産婦人科に行って妊娠が発覚し、区役所に母子手帳をもらいにいき、午後は普通に会社に出て、夜は人間椅子のライブに行ったのだった。

 

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今回はニューアルバム『異次元からの咆哮』のツアー。

けれど私としては、ギタリストの和嶋慎治の自伝『屈折くん』を先日読み終えたばかりなので、アルバム以上に『屈折くん』の思い入れが強いライブとなった。

 

胎教に人間椅子

 

「昨日までと変わらないよ」

と言いつつ、お腹に別の生命がいるかと思うと何かと自分の身体に気を配っている自分がいた。

オールスタンディングのライブなので、お腹を守るように混雑を避けて、あまり飛び跳ねないようにする。

何もなければ、前のほうへ行って握手でもしてもらおうと腕を伸ばすのだけれど自粛してしまう。

…当然か。

 

人間椅子はヘヴィロック、プログレッシブロックに日本土着の化け物や地獄といったおどろおどろしい世界観を綴った歌詞が魅力のロックバンドだ。

そういえば、胎教でハードロックを聴いていた赤ちゃんは暴れん坊になるという俗説を聞いたことがある。

情緒不安定になるとかね。

 

けれど、いつも私は大音量の人間椅子の演奏に包まれていると、暴力的な気持ちになるどころかアルファ波が出てフワフワと心地よい気持ちになる。

母体がそうなのだから、胎児にだって悪い影響があるとは思えない。

 

そういえば今回のアルバムに入っている曲で『悪魔祈祷書』という曲があるけれども、夢野久作の同名小説からインスパイアされたものに違いない。

夢野久作からの連想でふと、『ドグラマグラ』の冒頭、

 

胎児よ

胎児よ

なぜ踊る

母親の心がわかっておそろしいのか

 

というフレーズを思い出した。

こんな母親のお腹に宿る赤ちゃんだもの。

きっとこの子は悪魔的に強い子になるぞ、と確信する。 

 

『屈折くん』の影響

 『屈折くん』はほぼ一気読みしたくらい面白く読んだ。

人間椅子のファンでなくても、一人の男のサクセスストーリーとして面白く読める本なんじゃないかと思う。

紆余曲折を経たワジーが苦労の末、「せめて、美しく生きよう」と決意した瞬間に心に光が差してくるシーンなどは、とても哲学的で感動する。

 

 

屈折くん

屈折くん

 

 

 

私がワジーに共感するところは、試練や苦労に対する考え方だった。

イカ天で人気が出てきた頃にラジオ番組で一緒になった漫画家の大友克洋に、

「なんだお前、これからデビューするんだって? 全然苦労してないだろ」

と言われる。

そしてワジーは自分でも「苦労が足りない」と思う。

 

苦労って必要なものなの?

 

と客観的には思うけれど、私自身も子供の頃からずっと、

「一人っ子で甘やかされて、何の苦労もなくぬくぬく育ってきたくせに」

と周囲から言われ続けてきたトラウマがある。

 

それのどこがどのように悪なのかわからない。

けれど、人は「苦労をしていない」と言ってバカにする。

人間が一段低く見られる。

 

人からそういわれると、

「何の苦労をしていない」

というのが後ろめたい。

いまだにそうだ。

 

特にこれまでは、

「子育ての苦労をしていない」

というのが心のどこかで後ろめたかった。

「苦労してなくてすみません」

とどこかで肩身が狭かった。

 

とはいえ、両親の介護に加えて、このうえ子供まで、と思うと不可能に近い。

そんなことできるんだろうか。

けれど、この試練を引き受けることができれば「後ろめたさ」を返済できるだろうという気もする。

 

私にも、

「苦労? したした!」

と堂々と言える日が来るだろうか。

 

ワジーは子供の頃のエピソードとして、姉と一緒に遊んだトランプ占いの話を紹介している。

ハート(愛情)、ダイヤ(財産)、スペード(試練)、クラブ(才能)を自分の人生にとって重要な順番を決めて並べるというのだが、ワジーはいつも「試練」を一番上にしていたそうだ。

 

苦労してないのが後ろめたいとか言いながらも、私は昔も今も「試練」を最後にしちゃうな。

 

そんな私の「試練」が、これから来ようとしている。

どれほどのものなのか、想像もつかないけれど。

母子手帳をもらいにいった。

「全くの想定外だったなんてウソで、実は妊娠に気が付いていたんじゃないの?」
とのちに友達に言われるくらい、驚くほど私は平然としていた。

産婦人科を出たあとは一旦部屋に戻ってマイナンバー通知を持って、区役所へ出掛けた。
なんとか午後には出勤できる。

たんたんと、やるべきことをやる。
それだけ。

区役所の窓口へ行くと、私と同年代くらいの女性が応対してくれた。
区役所なんか来るのは何年ぶりだろう。

役所というと、黒澤明監督の映画『生きる』のように、役人たちがお役所仕事を退屈にこなしている、という固定観念があるけれど、応対してくれた窓口の女性はとてもフレンドリーだった。

記入例に沿って書類を埋めると、記載内容ごとに彼女から質問を受けた。

主に、彼女が心配してくれたのは、産後に頼る人がいるのか、ということだった。
なんてったって、冒頭の設問が「未婚」である。
誰だって、あなた大丈夫ですか、と思うだろう。

「彼氏はバツイチで、現在お母さんと成人した娘さんと暮らしてるんですが、お母さんとは何度かお会いしてよくしていただいてますし、いざとなったら頼りになる存在だと思ってます」
と言うと、
「それは心強いですね〜! 娘さんももう成人されてるなら、赤ちゃんをかわいがってくれるでしょうしね〜」
とにこやかに言う。

彼氏の家族をアテにしてるなんて、彼氏が聞いたらひっくり返るだろう。
まだ何も相談していないのに。
それどころか、彼氏にはまだ「妊娠検査薬で陽性が出た」としか伝えていないのに。

「もし籍を入れなかったら子供の戸籍はどうなるんですか?」
「お母さんの籍に入りますよ」
「もし、子供を彼氏の籍に入れるなら、婚姻届を出さないといけないってことですね。早めのほうがいいんですか?」
「出生届と同時に出される方もいらっしゃいますけど、順番は婚姻届を先に出しておいたほうが手続きはスムーズですよ」
「なるほど〜」

こんなワケアリ話は日常茶飯事なんだろう。
彼女はごく普通に手続きの説明をしてくれる。
いまどき未婚の妊婦なんて、特殊なことでも何でもないんだな。

「何かご不安なことはありますか?」
「いやぁ、実は私、週末は実家に帰って母の介護をしてまして、それをどうすればいいかな、ってことですね。出産前後は実家にいるつもりなんですけど、母と赤ちゃんと二人分のおむつがえしなきゃいけないんですよ〜」

まさか新生児を今住んでいるワンルームの部屋で育てるわけにはいかない。
そうなると、おのずと実家で育てることになる。

「お父様は? お元気なんですか?」
「元気といえば元気ですけど、何もできないんで。それより、めっちゃタバコ吸う人なんで、それが心配です」
「きっと、お孫さんができると変わってくれますよぅ」
「そうですかねぇ?」

そんな世間話をしつつ、神戸市ではこういう子育て支援制度がありますよ、という説明をざっとしてもらった。

かんじんの、診察費用が補助されるチケット、正確には「妊婦健康診査受診券」の冊子ももらった。
これをもらわなきゃ、明日血液検査に行けない。
ていうか、今日ここに来た意味がない。

渡されるときに、
「全部で12万円分の補助になります」
と言われたときは耳を疑った。

うわ〜、絶対なくせない!!

バーコード管理されているらしく、チケットにバーコードシールを貼っていく仕組みだ。
「おそらく、これ一冊全部使っても足りないくらいだと思います。最初に、全部のチケットにお名前とご住所を全部書いておかれたらいいと思いますよ」
「名前とか、ゴム印でもかまいませんかねぇ?」
「ん〜、おそらく自筆じゃないと病院が受け付けてくれないと思います。同じこと何回も書くの、面倒ですけどね〜」

もちろん、母子手帳ももらった。
「お名前などの欄はすぐ記入しておいてくださいね。記録もどんどん書きこんでいってください。でも、今後入籍されてお名前が変わるようでしたら、鉛筆書きされたらいいですよ」

今年デザインがリニューアルされたファミリアの母子手帳だ。
そういやニュースで見たっけ。
全く関係ない出来事だと思っていたのに、自分がもらうことになろうとは。

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ちなみに、この母子手帳、つい昨日のニュースでまた新らしくなったそうな。
追補版、私はいらないけどね。ファミリアに思い入れないし、子供へのメッセージとか面倒くさいし。

慌ててランチを食べて職場に着いたら、13時10分前だった。
「体調が悪くて病院に行ってから出社します」
と言って休んだ手前、
「大丈夫なんか?」
と部長や課長から尋ねられる。

「あ、大丈夫です、すみませんでした」
としか言えない私が怪しい。
普段の行動から、寝坊と思われちゃうんじゃないか?

できるなら1日休みたかったけれど、午後から自分が司会する会議があるから休めなかった。
資料だってまだこれからコピーだ。

あとから思えば休まなくて正解だった。
その会議のせいで慌ただしくて、妊娠についてウダウダ考える暇がなかったから。

できてしまったものは仕方ない。
あとはたんたんと、なすべきことをするだけ。

産婦人科を受診した。

そこは神戸ではそこそこ有名な産婦人科で、友達がそこで赤ちゃんを産んでいた。
彼女が切迫早産しかけて入院していたときにお見舞いに行ったのだ。

産婦人科病院というところにそのとき初めて入ったのだけど、普通の病院とは全く異なる雰囲気に驚いた。
病院というのはたいてい死の匂いや老いの悲しみに満ちているのに、その産婦人科病院は生の喜びに包まれている気がした。

初めての受診でよくわからないので、受付の人に聞きながらタッチパネルで初診の申込みを済ませ、問診票を書き込んだ。

受診理由は「妊娠かどうか」というところに○をつける。
配偶者の氏名を書く欄が書き込めないので空欄にしておくと、書類をチェックする職員さんから、
「未婚でも、おわかりになって書けるようならお書きください」
と言われる。
おわかりなので、とりあえず欄は埋めた。

受診前に血圧と体重を測る。
例年の健康診断では毎年上が100を切る低血圧なのに、130もあって驚く。
体重も過去最高に増えている。

診察室に呼ばれて、先生の問診。
「最終月経が書かれてませんね」
と聞かれたので、
「実は、最終月経がはっきりしないのです」
という話をする。

7月下旬にあったのがまともな生理の最後。
でも、9月に少量の生理のようなものが短期間あったので、おかしいなと思いつつ、これまではそれが生理だと思い込んでいた。

妊娠を疑い初めてからネットで検索すると、着床出血というのもがあるらしくて、もしかしてこれだったのかも…、と思わなくもない。

「とにかく見てみましょう」
ということで、診察台へ。

先生が私の下腹部を触って、
「ずいぶん子宮が大きくなってますねぇ」
と言うので、
「便秘で詰まってるものだと思ってたんですけど…」
と返すと笑われた。

「エコーをとりますね」
あっという間にモニターに画像が映し出される。
「もうだいぶ大きいですよ。これが頭です。ここ、心臓が動いてるのがわかりますか?」

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えーっ?!
えええええーーーっ?!?!

あまりにビックリして、大笑いしてしまった。
笑うしかなかった。
大便だと思っていたものが、人間だったんだもの!!

ロックバンド「特撮」の『ケテルビー』という曲の、
「猫かと思ってよく見りゃパン しかも1斤、1斤」
という歌詞を思い出す。


診察室に戻ってイスに座ると、先生がまず、
「おめでとうございます」
と言うので、条件反射的に、
「ありがとうございます」
と答えるしかなかった。

「頭の大きさから測定すると、予定日は5月1日ですね。こちらエコー画像です。これでは5月3日になってますけど、誤差範囲でしょう。」

何を言われても絶句してしまう。

「9月にあった出血はなんだったかはわかりませんが、最終月経は7月ので間違いないですね」
「あのぅ、高齢なんですけど、危険性はないんですか?」
「自然妊娠ですよね? なら、ここまで大きくなってるわけですし、問題ないでしょう。ただ、ダウン症などの障害が不安であれば、出生前診断を受けることはできますよ」
出生前診断を受けて障害があることがわかったら、何かできることはあるんですか?」
「赤ちゃんをあきらめる方もおられますし、生まれる前から治療や対応方法を準備される方もおられます」
「産むか産まないか、二者択一しかないんですね…」
「デリケートな問題ですので、ご家族とよく話し合って決められたらいいかと思いますよ」

初老にさしかかっている男性の先生だったけれど、とても優しく穏やかに話してくれたので、まるで自分がまともなプレママのような気がした。

「2、3日中に血液検査に来てください」
と先生は私に言いながら、
「血液検査はチケット使えるよね」
と、これは私に言ったのか、看護師に言ったのか、独り言なのかわからない小さい声でつぶやいた。

だいたい私には「チケット」の意味がわからない。

診察室を出ると、看護師さんから母子手帳の申請について説明を受けた。

「なるべく早く区役所で母子手帳をもらってくださいね。母子手帳と一緒に、診察費用を補助してくれるチケットがもらえますから。血液検査のときにそれを使えばいいですよ」

なるほど、そういうものがあるのか。


まるでRPGのごとく、あそこへ行ってあれをしろ、ここへ行ってあれをもらえ、とクエストが出てくる。

母子手帳の申請には、面倒くさいことにマイナンバーの証明が必要らしく、一旦部屋に取りに戻ってからの出発だ。
せっかく午前年休を取ってるのだから、なるべく多くのクエストをこなしたい。

次は区役所だ。《続く》

ドラマでは「誰か気づくだろ」とか言ってたじゃないか。

夏の終わりごろからずっと体調不良が続いていた。

食べないと胃酸が出て気持ち悪くなる、かといって食べると胸焼けする、膨満感でお腹が張る、便秘が続く、便秘薬を使うと下痢をする、サプリメントを飲むとのどにつっかえて食道が荒れる、などなど。

 

それで漢方薬局に行ってみたりしたのだけれど、症状は良くなったり別のところへ移ったり。

すっきり好調には至らない。

 

そんな中、先週土曜日にスカパー!の無料放送で「夏の魔物2016」を録画した。

去年のロックフェスのダイジェストで、それにはオーケンROLLYとユニットで出演していたのである。

母を寝かせたあと、歯を磨きながら一人でゆっくりと録画を見ていた。

natsunomamono.com

 

歯磨きをしていると、ちょっとだけ吐き気がしたけれど、気にとめなかった。

出番は短い。

終わったらすぐ吐き出そう。

 

最近ときどき、歯磨きをしながら吐き気がすることがある。

歯磨きで「オエー」ってやってるなんてオッサンかよ。

 

そう思いながら、歯ブラシをくわえつつダメジャンプをしていると、こみ上げてくるものに耐えられなくなって、慌てて洗面所に駆け込んだ。

 

オーケンが歌ってるところを私が一時停止するなんて、ふつうならあり得ない。

 

口をゆすぎながら、ふと不安が横切った。

 

最近毎週楽しみに見ているクドカンのドラマ『監獄のお姫様』の小泉今日子が爆笑ヨーグルト姫に言ったセリフが脳裏によぎった。

「もしかして、あなた…」

www.tbs.co.jp

 

いやいやいやいやいやいや、そんなバカな。

 

40代になると、女性の妊娠確率は格段に落ちる。

自然妊娠ともなると、ほんの数パーセントだ。

 

www.funinnonayami.com

 

だいたい、うちの母親はずっと子供が欲しくて欲しくて、不妊治療を続けて9年目にしてようやく私を授かった。

健康で若い女性ならいざ知らず、42歳の私がそんな簡単に妊娠なんてするわけがないじゃないか。 

 

漢方薬局の見立て

翌日、漢方薬局に行き、胃のむかつきは治まったけれど便秘は相変わらずだというと、

「胆汁の働きは治まったみたいですが、また症状が変わって、これはね、首の歪みからきていますね」

と言われた。

確かに首も歪んでるのは確かで、ずっと左へ回らないのだけれど。

 

男性の薬剤師さんなので、あまり詳しくは言いたくなかったけれど、

「生理不順で、長い間来ないんですけど…」

と不安をもらすと、

「首のあたりで流れがストップされて、身体のいろんな不調につながってるんでしょうね。そこの滞っているところがうまく流れだすと、改善されるんじゃないでしょうかね」

という。

確かに、首の歪みが骨盤の歪みにつながり、それで内臓も悪くなる、ということはこれまでいろんな整体の先生たちからも指摘されてきたことだ。

そういうこともあるのかもしれない。 

 

ジムのトレーナーさんの見立て

 

ジムに行くと、トレーニングを始める前にまず、

「体調はいかがですか?」

とトレーナーさんが尋ねてくれる。

 

普段なら、今日は腰痛がありますとか、肩こりがひどいですとか、胃が痛くって、などと言って、トレーニングを加減してもらうのだけど、この日は、

「この前からずっと便秘でお腹が張って調子悪い、って言ってたじゃないですか、私。実は…、ずいぶん生理が来てなくて…、もしかして…、とか、思ったりして…。いやまさか。便がたまってるんだと思うんですけどねぇ」

と照れ笑いする私に、トレーナーさんは笑いもせずに、

「いや、あると思いますよ」

とはっきりと言った。

 

「胃腸の調子が悪いのはストレスかな、とか言われてましたけど、聞くところそれほどストレスの多い職場でもなさそうだし、劇的に何かがあったわけでもないし、体調崩すほどのストレスとは思えないです。一時的なものにしては不調が長すぎるし。ありえると思いますよ。病院行ってちゃんと検査受けたほうがいいですよ」

 

これまで1年半以上トレーニングに付き合ってもらったトレーナーさんで、しかも同じ女性としてそう言われると、なんだかどんどんそんな気がしてきた。

「いやぁ、でも歳が歳だし、ホルモンバランスが崩れてるだけですよ」

茶化して言ってみたものの、だんだん笑えなくなってくる。

 

正直、本当にお腹が苦しい。

太ったわけじゃないのに、ウエスト周りばかりがきつくなる。

 

「じゃあドラッグストアで検査薬を買って、帰ったらすぐ試してみます」

「すぐしてくださいよ!今すぐでもええくらいやわ!」

そう言われて、妊娠検査薬を使ってみたのだった。

 

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そんなバカな。

うそだ、うそだぁぁぁぁぁ!! 

 

親しい友人からのメッセージ

 

これは何かの間違いだと一人で頭を抱えていたとき、ちょうど友達からLINEメッセージが届いたので、

「実は今…」

とメッセージを返した。

 

「誰も『あなたまさか…』って言ってくれなかったし!」

と打つと、

「そりゃ、分別あるオトナの女性だから、『うっかり妊娠したんじゃない?』なんて誰も言えないんじゃね?」

と返ってきた。

 

「それにしても信じられない。今でもまだ便秘じゃないかと思ってるんだけど」

という私に、

 

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と彼女はわざわざ画像で返してくれた。

 

「わかった、とりあえず、明日病院行って確認してくる! そしたら信じる…」

 

翌日、会社を休んで産婦人科を受診した。≪つづく≫