3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

父はやりたい放題

金曜日、実家に帰って冷蔵庫を開けると、ちくわと明太子が入っていた。

「どうしたのこれ」

と父に尋ねると、

「火曜日な、ゴミ出しで早起きしたから、そうや浜坂行こ、思て、浜坂へ行ってきたんや」

と言う。

 

父はこれまでもときどき、気が向くとふらりと浜坂へ出かけた。

浜坂というのは、兵庫県北部・但馬地方の浜坂町。

うちの実家から片道3時間はかかる。

 

そんな遠くまで何をしに出かけるかというと、お気に入りの海産物屋で魚を買って、ランチのお刺身定食を食べて帰るだけ。

滞在時間はおそらく1時間ほどだろう。

 

元気なときはそれでいい。

けれど、去年の夏に脳梗塞で入院してから、車で遠出したのはこれが初めてだ。

 

「誰と?」

「一人や」

「大丈夫!?」

「どないもない。ぼちぼち行くもん」

「何かあったら困るから、出かけるなら誰かと一緒に行きなさいよ」

「大丈夫や、何もあらへん」

 

父は脳梗塞の後遺症で、左足がうまく動かないらしく、びっこをひいて歩く。

周りからすると、かなり危なっかしいのだが、本人の自覚はない。

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父がそれだけのリスクを冒して買ってきたものは、サザエひとつ(その日のうちに食べたらしい)、カレイの一夜干し5枚、ちくわ3本、イカせんべい、イカフライ、そして福さ屋というメーカーの博多明太子。

浜坂で獲れた海産物や名産品はわかるけれど、なぜ博多明太子!?

それも毎回買ってくるのだ。

意味がわからない。

単に「好きだから食べたい」というだけだろう。

父に「意味」は関係ない。

 

夕食の食卓では、明太子を一つだけお皿にとって出した。

私と母はそれをひとつまみだけ食べた。

父は残りの明太子を、ほぼまるごと1本、ごはんにのっけた。

 

1本て、多くない!?

 

脳梗塞になったくらいの高血圧だ。

普通は塩分に気を使って当然だが、父はそんなもの気にしない。

 

父はケンタッキーフライドチキンも好物で、平日ひとりで食事をする際にときどき買ってきて食べているようだが、

「あれに塩コショウ振って食べたら美味しいで」

と言うので仰天する。

カーネルおじさん秘伝のスパイス台無し!

 

「やっぱり博多の明太子はええなぁ。もう一本出して」

というので、

「いい加減にしなさい。塩分摂りすぎ!」

と叱りつけた。

しかし、いくら私が怒ったところで、平日は食べたい放題なのだ。

 

医者から1日コップ1杯と言われているお酒も、飲みたいと思えばいくらでもお代わりするし、絶対やめるように言われているタバコも、ばんばん吸っている。

 

「病院でな、『1日2本くらいやったらええでしょう』言うたら、先生も『しょうがないですねぇ』言うたったで」

「無理矢理言わせとうやん。ていうか、お父さん1日何本吸ってんの? 2本ちゃうでしょう?」

「5本は吸うかな」

「ほんまに5本か?」

「10本吸うときもあるかもしれん」

 

終始、そんな調子である。

換気扇もつけず、動けない母の前で平気でタバコを吸い、床に落とした灰をスリッパで踏んでまき散らし、焼け焦げの穴をつけたシャツを平気で着ている。

 

でも、悪気は全くないので、反省はしない。

 

ふと、恐ろしい考えが頭に浮かんだ。

 

「浜坂で昼ごはん食べた?」

「食べた。美味しかったで」

「まさかと思うけど、お昼ごはんのときにお酒飲んだ?」

「お酒は飲まへん。ビール1杯だけや」

「飲酒運転は絶対アカン言うたやろ!!!」

 

ウンザリだ。

足がもつれて転倒して骨折しようが、お風呂の中で居眠りして溺れ死のうが、それは本人の勝手である。

好きにしなさい、と諦めている。

でも、飲酒運転は他人を巻き込む。

人身事故を起こしたらどうするのか。

 

「浜坂やったら大丈夫や」

「どういう意味?」

「人おらへんもん」

「浜坂に失礼やろ! おらんと思てて、ひょっこり出てきたおばあさんを轢いたりするんや。そういう油断が事故起こすんやで!」

 

それからしばらく説教したが、どれだけ言ってもわかってくれない。

私の言葉はもう、耳をふさがれてしまっている。

 

どうやれば父を躾けられるのか、いつも途方にくれる。

あまりにわかってもらえないから、一度父が痛い目にあえばいいと思ってしまう。

北海道の山奥に連れて行って、山道で降ろして置き去りにしたい気持ちになる。

 

車のキーを取り上げないといけないのか。

昨年からずっと悩んでいる。