父にリハビリ通所を勧める
老人は早起きだ、と人は言う。
私は「すべての老人が早起きとは限りませんよ」と意見する。
というのも、うちの父が朝起きないからだ。
父の生活リズムはめちゃくちゃだ。
夜中までテレビを見て、朝は11時頃まで寝ている。
そんなわけだから朝食は食べず、昼下がりに出かけて行ってランチを食べるので、夕食はおなかが空かずにまた食事を抜く。
すると結局、夜中におなかが空いてきて、ゴソゴソとおやつを探して食べる。
ニートの若者かよ!と突っ込みたくなるこの生活リズム。
今に始まったことではなく、もしかしたらもう10年くらいこんなことを繰り返しているかもしれない。
「なんとかせなあかんとは思とんや」
本人も口ではそう言うけれど、改めたことはないし、改善しようという努力さえみられない。
夜中に何のテレビを見ているかというと、たいがいはNHKやBSでやっているドキュメンタリーで、
「面白いのに限って夜中にやるんや」
と言う。
「じゃあ、録画しとってあげるから、昼間に見なさいよ」
と提案するけれども、
「録画してまで見たくない」
と減らず口。
「ほんなら夜中に起きてまで見んでもええでしょう」
「起きとくつもりはないんや。けど、面白かったらついつい最後まで見てまうんや」
ああ言えばこう言うジジイだ。
朝まで寝ている以上に、昼間や夜もテレビを見ながらずっと居眠りをしているから、夜中に眠れるはずがないのだが、本人は、
「なんでや知らんけど、夜中寝られへんのや」
一度、夜中に母のトイレ介助をしていたときに、父が眠れないと言って起きてきたことがあった。
睡眠薬を飲んで、タバコを吸って、コーヒーを飲んでいた。
コーヒー!!
「なんでコーヒーなんか飲むんよ!」
「コーヒー飲んでも眠れるように、練習するんや」
「練習なんかせんでよろしい!」
やってることが支離滅裂なのだ。
きちんと起きないから食事のタイミングも悪くなり、果てはお風呂にも入らなくなってきた。
「お父さん、すれ違ったらなんか臭いよ」
「ここ3日ほどお風呂入らずや」
「えーっ!」
「パンツも替えてへん」
「ギャー!!」
一日中テレビの前でソファに寝そべっている生活。
それが、どこに影響しているかというと、父の歩行である。
昨年、脳梗塞が再発してから、左足を引きずって歩くようになったけれど、それがどんどんひどくなってきた。
「歩く練習をせなあかんな」
と、これも言うだけ。
「お父さん、ちょっとはリハビリしないと」
「こないだ先生に、『リハビリしたら治りますか』て聞いたら、『後遺症はもう治りません』て言うたったで。ほんならせんでもええな、思て」
「確かに、後遺症はもう治らへんけど、このままほっておいたら、どんどん悪化するよ。歩けんようになってもええの?」
「そら困るけどな」
「だいたい、お母さんが車イスやのに、お父さんまで車イスになったら、私、二人分も車イス押されへんのやで! その辺よう考えてよ!」
と私が言うと、父は真顔でこう提案した。
「ほら、あんなんあるやん」
「あんなんって何?」
「双子の赤ちゃん乗せるベビーカー。あんなんないんかな」
おいおい、私に二人分の介護をさせる気かよ!
双子用のベビーカーに父と母、二人を乗せて、私が押している姿を想像してしまい、つい吹き出してしまった。
かんべんしてくれよ~。
本人に「しっかりしなさい」と言ったところで、絶対に状況は変えられない。
そこで、父のケアマネさんに相談してみた。
「週1日、機能訓練をしてもらえるリハビリ施設に通わせることはできませんか」
実はケアマネさんも、何度も父にリハビリを勧めてくれていたという。
「でも、お父さん絶対『うん』言うてへんからねぇ」
と、ケアマネさんもあきらめ口調だ。
「それでも、もう一回、勧めてみましょうか」
ケアマネさんは先週さっそく、3件のリハビリ施設へ父を見学に連れて行ってくれたらしい。
父に感想を聞くと、
「どこも同じや」
とやはり乗り気ではないが、「絶対行かない」というまでの頑なさはなかった。
父が一番嫌がっているのは、「みんなでレクリエーション」をする、という点。
3つのリハビリ施設のパンフレットを見比べた。
接骨院がやっている小さなリハビリ施設は、歩行訓練を主にした機能訓練とフィットネスだけで、レクは一切ないという。
「ここに通ってみなさいよ」
と私がパンフレットを見せた。
「明日、ケアマネさんに連絡するで」
と伝えると、
「ふん」
と父は無関心そうに返事をした。
決めてしまえば、一応、ちゃんと通ってくれるだろう。
比較的、約束は破らない人だから。
自らウォーキングをしている人。
グランドゴルフに行っている人。
ラジオ体操に通っている人。
たくさんの高齢者がいろんなことで体力維持に努めている。
それも、自発的に。
家族に迷惑がかからないように、と。
そういう元気な高齢者を見ると、とてもうらやましい。