ピエール瀧から母の笑わせ方を学ぶ。
今年のサマーソニックのヘッドライナーは、レディオヘッドとアンダーワールドらしい。
去年のケミカルブラザーズに続き、今年はアンダーワールドかぁ。
去年もめちゃくちゃ行きたかったし、今年も同じ気持ち。
だけど、行けないなぁ…。
さすがに、オーケン以外ではお母さんを置いて遊びに行けない。
夏フェスの出演アーティスト発表を見るたびに、毎年歯がゆい思いになる。
でも、土日は自由がきかないんだから仕方ない。
もう3年くらい前になるけれど、通っていた英会話教室で、‘みんなでサマソニに行こうツアー’みたいなのがあった。
もちろんすごく行きたかったけれど、断った。
後日、講師のアメリカ人の女の子に、サマソニの感想を聞いた。
日本人アーティストの中では、誰が一番良かった?と尋ねると、彼女は即答した。
「DENKI GROOVE! 」
へええ、電気グルーヴ?
とこが良かったのかさらに尋ねると、お腹だと言う。
お腹???
卓球のDJでも歌でもなく、お腹を出して踊る瀧が良かったのだそうだ。
よほど面白かったのか、
「He ... , he was, ... he ... 」
と、瀧についてしゃべろうとすると吹き出してしまって、思い出しては笑い転げていた。
夏フェスの
思い出
ピエール瀧の腹
と、思わず一句ひねってしまったけれど、アメリカ人に俳句がわかろうはずもない。
先日、『とと姉ちゃん』を見ていたら、宴会の場面でピエール瀧がまたお腹を出して踊っていた。
アメリカ人女子に大ウケの腹が、朝ドラ進出か!
そんなことを考えつつ、今朝、やはり朝ドラを見ながら、母に朝食を食べさせていた。
最近は、母の口数がめっきり減った。
「おはようございます」
「おこして」
「ありがとう」
「はい」
「それちょーだい」
「いたい」
「しんどい」
「拭いて」
「おやすみなさい」
以上がボキャブラリーのほぼすべてといってよい。
挨拶とお返事。
その程度だ。
それでさえ、調子が悪いと出てこない。
ただ、唯一の救いだと思われるのは、笑顔が出ること。
パーキンソン系の病気は、表情が奪われるそうだ。
顔の筋肉もこわばってくるので、そうなるのは仕方ない。
母もときどき、声も出ず、笑顔もなく、無表情でしんどそうにしているだけのこともある。
だから、目が合うと笑ってくれると、本当にうれしいし、介護している側にとって救いだと思う。
食事介助では、相変わらずモグモグしている時間が長く、時間がかかってしまう。
待っているとき退屈している私が、無意識にお腹をさすっていると、母が私のお腹を注視した。
「人のお腹見てんと、早よゴクンしてよ~」
と声をかけるも、なおもぼんやりと、じっと私のお腹を見ている。
ふと、
「最近お腹が出てきてしもた。ほら見て~」
とTシャツをめくり、瀧のごとくお腹を出して見せてみた。
「ジーンズの上に乗ってんねん」
「はは、ははは」
無表情だった母が笑った。
「ああ、口からこぼれるこぼれる!」
慌ててティッシュで母の口を拭きながら、私も笑った。
ピエール瀧に、いいことを教えてもらった。