出掛けたがり爺
先週末、南京町では中秋節のお祭りが行われていたらしい。
うちの父は南京町のお祭りが大好きで、春節と中秋節の時期になると、
「お祭りはいつからや?」
としつこく訪ね、
「行って獅子舞見て、八宝菜を食べたい」
とはしゃぐので鬱陶しかったのだが、今回は何事もなく過ぎてくれて助かった。
それもこれも、要介護1が継続でき、リハビリに通えているおかげだと思う。
リハビリに行くことで、父の「どこかに出かけたい」欲求が少し静まっているみたいだからだ。
去年なんか、まだ脳梗塞から退院して1ヶ月と経っていないのに、私に内緒で一人で南京町に出かけ、ランチを食べて帰るという荒業をしでかした。
その前に、
「行きたい行きたい」
と言っていた父を、私が、
「危ないから絶対あかん!」
と止めていたのが仇になった。
実家から元町まで、片道1時間半もかかるというのに、よくやるよ、全く。
私も、一人じゃなく誰かと一緒に行くなら止めはしない。
誰かいてくれたら、途中で足が動かなくなっても、助けてもらえる。
しかし悲しいかな、父には一緒に行ってくれる友達がいない。
中秋節ではないけれども、先日、父は義弟(私からすると叔父さん)に電話をかけ、ランチに誘ったらしい。
「敬老の日、お祝いに和食のさとへすき焼き食べに行かへんか?」
父は78歳、叔父さんは79歳。
その二人で敬老の日を祝おうという主旨らしい。
「で、行くの?」
「いや、断られてもたんや」
叔父は自営業で、会社を息子に譲った今でも、ときどき仕事を手伝っていると聞く。
どうせ忙しくて断られたんだろうな、と思いながらも、
「お父さんが飲むからイヤや、って嫌われたんちゃう?」
と、私が意地悪くからかうと、予想外にも、
「なんでわかったん?」
という父の答え。
「えっ!? ほんまに飲むからイヤって断られたん?」
「そうなんや~」
はぁ~。
父が酔っぱらって何度も迷惑をかけてきたので、とうとう愛想をつかされたらしい。
転んでひっくり返ったのを抱き起こされて、車で送ってもらって…。
叔父にはお世話になった。
叔父さんも高齢で腰を痛めているらしいし、もう父の面倒は見きれないということだろう。
「飲まへんから一緒に行って、って頼んだら?」
「飲みたいから、ヨッチャンを誘ったんやないか。飲めへんのに食事なんか行ってもしゃーないわ」
それはひどい。
介抱要員として誘われただけの叔父さんの立場はどうなるんだ?!
そりゃあ嫌われるはずだよ。
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そして敬老の日、結局、私と父の二人でかっぱ寿司へ行った。
祝日の昼間は家族連れで混雑しており、ニーズに合わせてお寿司も次から次へと流れていた。
父は回転寿司が好きである。
何が流れてくるのか見るのが面白いのだそうだ。
決して注文はしない。
回ってくるのを取るのが醍醐味だそうだ。
けれど、注文した品が緑色のオモチャの列車に乗って運ばれるのが気に入ったらしく、
「新幹線が来るぞ」
と子供のように喜んだ。
父にお酒は飲まさなかったが、
「久しぶりにようけ食べたわ」
とご満悦だった。
飲まなくても楽しめるんだから、今度はヨッチャンと来たらいい。
仲直りしとかないと、お互いにもう歳なんだから。