花園町でPlant Mの芝居を見て制御不能感
自慢じゃないが、義理堅いほうである。
お誘いを受ければ、たいがいは出掛けていく。
特に、知人が「〇〇に出演します」とか「個展を開きます」とか「ライブやります」とかだと、時間が作れる限りは行こうと思っている。
と、こちらは待ち構えているのだけど、向こうは私の存在など忘れているのか、ほとんどお誘いなど来ない。
週末は時間の都合がつかないので、誘っても無駄だと思われてるのかもしれない。
その中で、いつもマメに連絡をくれるのが、大学の後輩の橋本浩明くんで、彼が出演するお芝居はできるだけ見るようにしている。
後輩だからというだけではなくて、役者として私は彼のファンである。
何しろ声がいい。
個性があるようでないようで、何かを考えているようでいないようで、中身が詰まっているようで空っぽなかんじもいい。
そしていつも飄々としている。
火曜日は、その橋本くんが出演する、Plant M No.11『君ヲ泣ク』(作・演出/樋口ミユ)という公演を見に行った。
http://plant-m.jimdo.com/home/君ヲ泣ク-大阪/
会場はアートグラウンドcocoromiというところで、大阪市西成区の花園町にある。
ここで演劇を見るのは4回目だが、毎回、このまま進んで大丈夫だよね、間違ってないよね、と不安になりながら歩く。
兵庫県の人間にとって、花園町は遥か遠い。
そう感じるだけで、実際に行ってみると元町から1時間ほどで到着できる。
うちの実家よりよっぽど近い。
西成という地域のイメージと、駅を降りてすぐに目につくスーパー玉出のドギツイ看板が、心理的に遠くさせているだけ。
しかし、やはりいつ見てもゲンナリするカオスな看板。
劇場があるビルの1階はジャン・トゥトゥクーというオシャレなカフェ。
このカフェも劇団関係者の経営のものらしい。
今回来てみると、カフェの横から劇場へ上がる階段がものすごいことになっていた。
スーパー玉出以上のインパクトに驚く。
石崎万咲さんというアーティストの作品らしい。
子供だったら泣きそうなくらい怖いよ…。
暗闇の中から炎の才能が増殖し、壁や天井を突き破って溢れ出している。
「out of contorl」という英語がふと頭に降りてくる。
さて、本題の『君ヲ泣ク』。
作・演出の樋口ミユさんが作る舞台は、ばりばりにネイティブな大阪弁に、異世界が入り交じるストーリーと、幻想的な空間演出が魅力だ。
今回は、未来の戦時中、しかも前線で起こる出来事が描かれていた。
衣装がとてもファンタジーぽくて素敵で、そのたたずまいから、
「ああ、これは女の戦争の話なのだ」
ということがふんわりと伝わってくる。
冒頭は、前線でピクニックを始める女たちのシーン。
彼女たちは、ここでピクニックをすることを「選んだ」という。
そして、「選ぶということは豊かなことだ」と語る。
選べる自由がある、それは豊かなこと。
戦争は、私たちから選ぶことを奪う。
主語は戦争じゃなくてもいい。
ファシズムは、
国家権力は、
貧困は、
集団圧力は、
テロリズムは、
災害は、
原発事故は、
固定概念は、
差別は、
…etc。
私たちから選ぶことを奪うものの主語は、いくつでもある。
「選択できること」は自由の象徴なのだと気づかされる。
けれど、自由を選んだ彼女たちは、爆弾に吹っ飛ばされる。
もうひとつ印象的だったのは、
「米ひと粒ひと粒は米だけれど、おにぎりになるとそれは米ではない」
というメタファー。
(うろ覚えなので引用が正確じゃなくてごめんなさい)
そのうちの一粒が、「米に戻りたいからおにぎりをやめる」ということはできない、というのだ。
登場人物たちは、おにぎりになってしまった世界でもがき、怒鳴り合う。
米とおにぎりか。
うまい例えだなぁ、と感心する。
おにぎりが出来上がってしまったら、もう手遅れだ。
そうなる前に、一粒一粒が自由でいられるようにしっかりと立っているしかない。
…なーんて言いつつ、本当に手遅れなのは私だった。
薄暗くなることが多かった後半、ついウトウトとなり、ときどき意識が飛んだ。
一度そうなるともう自分ではコントロールできなかった。
決して、つまらないとか退屈だとか、そういうわけではないのだけど、暗闇になるとどうしてもおねむスイッチが入ってしまう。
(橋本くん、樋口さん、ごめんなさい。)
半覚醒状態のまま家に帰ってテレビをつけると、国会のニュースをやっていた。
安倍総理の演説に自民党議員が総立ちで拍手をしたらしい。
わー、中国共産党の党大会みたい。
自民党議員全員? え、全員ですか?
すごい統制力。
確かに私も、大劇場の演劇で、周りがスタンディングオベーションするものだから、ついつられて立ってしまったこともある。
でも、そこには「立つか、立たないか」、選ぶ豊かさがあった。
国会って、豊かなんだろうか。
おにぎり化がだいぶ進んでいる。