3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

マイナンバー?聞いたことないな。

神経内科は2カ月に一度受診しているが、2カ月なんてあっという間に経つ。

昨日はまた受診日だった。

1時間以上待たされて、5分で終わりだというのに。

 

ただ、昨日は病院に行くのにお薬のお代わりをもらう以上に他の意味があった。

特定医療費受給者証の更新時期なので、医者には臨床調査個人票(診断書)を書いてもらわないといけないのだ。

 

うちの母の場合、大脳皮質基底核変性症で特定医療費受給者の認定を受けているので、病院の受診費用や薬代など月5,000円が補助される。

パーキンソン病の薬は高いものが多いから、5,000円の枠はすぐ埋まってしまうけれど、ないよりはまし。

 

手続きには健康福祉事務所に行かないといけないんだけど、そういう公的機関は平日しかやっていないので、例年、父に行ってもらっている。

こういう手続きも全部私がやるとなると、もっと会社を休まないといけなくなるだろう。

父がいなくなったら介護離職かなぁ、と思わずにはいられない。

 

更新手続きには、自分で記入する申請書、医者の診断書、保険証のコピー、住民票、市町民税課税証明書が必要なんだけど、今年から新たにもう1枚増えた。

それが、「マイナンバー記載表」である。

 

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マイナンバー。

先週、更新書類を確認したとき、ふと不安になった。

実家にマイナンバーの通知カードが来ていたのは知っている。

そのとき父には、お母さんの分も含めて、大事にしまっておくようにと言いつけた。

でも、ひょっとしたら、通知カードを紛失してやしないだろうか。

 

「今年の手続きから、マイナンバーの通知カードも持ってこいって書いてあるんやけど、通知カード出してくれへんかな?」

「まいなんばぁ? なんやそれ」

 

おーっと!!!

「保管場所」ではなく、まさかの「存在」の忘却。

 

「去年の年末から今年の初めくらいに、ニュースでも大騒ぎしてたでしょ、マイナンバー!」

「そんな言葉、聞いたことないなぁ」

「聞いたことないわけないでしょ。大事なものなんやで、って、何回も話したよ!」

「いいや、初耳や」

 

そのあと、言った言わない、知っている知らないの水掛け論をしばらく繰り返したが、さすがに不毛だと思った私が、

「ま、知らんでもかまへん。とにかく、マイナンバーの通知カードを探しなさい。大事なものと一緒にしまってない?」

と父をせかした。

 

「ほんなら、ま、見てみよか」

父はソファに根が生えたお尻をゆっくりと上げ、リビングのキャビネットから封書箱を出してきた。

しぶしぶである。

中身をごそごそと探し、しばらくして、

「これやな」

と出してきたのは、平成14年の住基ネットのコードが書かれた通知書。

「そんな古いやつと違う!」

「なんでや、これやろ」

「似てるけど違う!」

そしてまた、「これだ」「違う」の水掛け論。

 

もう一度封書を全部見てもらったが、結局見つからず、

「ないわ」

とひとこと言って、父は再びソファに根を下ろした。

 

「あきらめたらあかん! 大事なもんやから、通帳とか印鑑とか、そういうレベルの場所に置いてるんちがう?」

「また今度探す」

「またとか言うとったら、絶対探さへんでしょ!」

私が金切り声を上げるごとに、父のお尻は深く沈んでいく。

「うちには来てないんちゃうか」

「来てる!」

「来てないと思うなぁ」

「来てたの私見たで!」

そして再び、「来てない」「来てる」の水掛け論。

水を掛けあってばかりでびちゃびちゃ。

すると父は最後にこう言った。

「ほんなら、来てない言うて、役場行って聞いてきてみるわ」

「行ってきてごらん! アホや思われるだけやから!」

 

父は非常にダメな人だが、書類仕事についてはちゃんとした人だった。

私より、母より、はるかにマメだった。

確定申告の書類はきちんとファイルを作っているし、旅行の記録は写真も含めて整理していた。

だから、こんなことは珍しい。

というか、「得意なことまでこうなってしまったのか」、というガッカリ感。

 

「な~んか、やる気が出ん」

 

父は、70歳を過ぎてから口癖のように言うようになったが、だんだんとひどくなっている気がする。

モウロクすると、すべてが面倒くさくなるらしい。

 

今週、病院の行き帰りの車の中で、父にマイナンバーのことを聞いた。

「そやそや、住民票とりに役場へ行ってきたんや。そのついでに、マイナンバーのことも訊いてきた」

「で、どうやった?」

「『マイナンバーなんか、うちには来てへんで』って言うたら、『行ってるはずです』って言われたわ」

「そらそやろな」

「『ほんまかいな! 俺、ボケとうからな』言うたら、笑っとったわ」

「ま、笑うしかないわな」

「ほんでな、なんかカード作ってくれるらしいで」

「個人番号カードな。んなもん作らんでええわ」

「『写真撮ってあげますよ』、言われたで」

「だから、カード作ってもまた失くすやん。それより通知カード早く探しなさいよ」

「うちには来てへんからなぁ」

「だ~か~ら~!」

 

結局、通知カードは現在も見つかっていない。

 

父は78歳という年齢以上にモウロクしていると思う。

しかし、うちだけが特殊な家庭だとも思えない。

きっと多くの後期高齢者世帯が同じ状況なんじゃないか。

「まいなんばあ? なんやそれ。初耳やなぁ」

こんな老人が日本中の役場で何人出没していることだろう。 

 

余談だけれど、私は昨年、会社でマイナンバー対策の業務にちょこっとだけ噛ませてもらった。

そこで感じたのが国の対応のお粗末さで、内閣府の人がプレゼンした説明会を聴きに行ったり、マイナンバーの問い合わせ窓口に電話をかけたりしたけれども、あいまいな回答しかもらえなかったり、たらい回しだったり、不明瞭極まりないことが多かった。

市町村の通知カード発送の遅れや情報漏洩も問題になっていたけど、正直、制度の整備が不十分なまま見切り発車されているとしか思えなかった。

そのうえ、会社としては、対策の準備や社員セミナーに時間は取られるわ、社内のシステムを改修するのにお金はかかるわで、ひとつもメリットなし。

だから、国民背番号制がどうこういう思想ではなく、感情的な面でマイナンバー制度が大嫌い。

メリットがあるとか言われても、一度イヤな思いをしたから、嫌いなもんは嫌いなんだもんね!

 

そんなわけで、老人がマイナンバーを紛失してしまうことも想定内なトラブルだろうけど、もうやめてしまえ!と思わなくもないのだ。

一度走ってしまったら、止まれないもんだろうけど、愚痴を言わずにいられない。