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3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住むアラフォーOL、波野なみ松の、仕事と趣味と母の介護を両立させる日々の記録。

洗濯機は神ではない

介護

洗面所のドアが開いていたので、お風呂に入っていく父の背中が見えた。
痩せてシワだらけの、貧相な老人の裸。
いや、そんなことはどうでもよい。
床を見ると、点々と水滴が落ちている。

「ちょっと待った!!この水滴何?」
「ああ、しょんべんや」
「おおおおい!!!!そのままお風呂に入るつもり??」
「上がったら拭く」
「あかーーんっっ!!!拭きなさい!!!今すぐ!!!」

怒られた父は全裸で引き返そうとしたが、私はその足元が濡れていることに気づいた。
「ちょーーっと待って!!!そのまま上がってきたら、またおしっこ撒き散らすんと違う?!?」
「大丈夫や、今シャワーで流したから」
「ほんまに、ほんまに大丈夫なんやね?」
「大丈夫やって」
そういいつつ、父は洗濯機の中から自分のアンダーシャツを取りだし、手に持ったまましゃがんだ。

「何するん?」
「これで床拭くんや」
「そのシャツ捨てるん?」
「いいや、洗濯する」

洗濯?!?!
つまり父は、さっきまで自分が着ていたシャツを雑巾がわりにし、なおかつ、その雑巾がわりを洗濯してまた着るつもりなのだ。

「あかんっ!!!シャツで床のおしっこ拭いたらあかんっ!!!」
「なんでや?どうせ洗濯するんやで?」
「そもそも、おしっこ拭いたものをそのまま洗濯機に入れたらあかんのや!!汚いやんか!!」
「なんで汚いんや」
「おしっこついたシャツと、顔を拭くタオルを一緒の水で洗うんやで!?!汚いやんか!!!」
「洗濯したらキレくなるやろ」
「だからその洗濯が汚いわ!!!とにかく、シャツは洗濯機へ戻しなさい!!!」

私は床掃除用のウェットティッシュを取り出して床に叩きつけ、
「これで拭きなさい!わかった!?」
と全裸の老人に命令し、洗面所のドアを閉めた。

*******

「うちの父は家事ができないんです」
というと、
「でも洗濯は洗濯機がやってくれるから大丈夫でしょ?」
と言う人がいる。
いやいやそれがどうして。

父の洗濯は恐ろしい。
とにかく何でも洗濯機に入れる。
ちゃんとチェックしないと、粗相したままのパンツやズボンが入っていたり、掃除後の雑巾が入っていたりする。
母がよく嘔吐していたとき、吐瀉物がついたままの母のシャツを入れられていたこともあった。

いくら説明しても、
「なんであかんのや。洗濯したらキレイになるやろう」
の一点張りだ。

そして、洗濯機が運転終了したあと、何時間でもほったらかす。
耳が遠いので、終了ブザーが鳴っても聞こえない。
ひどいときには、翌日になって、干し忘れていたことに気がつくらしい。

普通の人はもう一度洗い直す。
でも、父は平気で干す。
充満する雑菌臭。
再使用したときの戻り臭。
蒸し暑い時期は特にひどい。
でも、父は気にしない。というか、鼻がバカなのか匂わないらしい。

干し方もデタラメだ。
長袖などはクシャクシャに丸まったまま、伸ばさずにハンガーに掛ける。
洗濯ネットに入れて洗濯し、ネットごとぶら下げていたこともあった。なぜ中身を取り出さない?!?!
これでは、洗濯をしたうちに入らないどころか、洗濯したほうが不衛生になってしまう。

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でも、父は文明の利器、洗濯機を万能機械だと信じて疑わない。
「洗濯機で洗ろたら、キレーなる。」
いくら説明しても平行線。

何年も着続けた父の白シャツの襟と袖口が真っ茶色になっていて、
「もうそれは棄てなさいよ。みっともないわ」
と指摘すると、
「洗濯機で洗とんのになぁ。なんで落ちひんのかなぁ」
と腑に落ちない様子。
「それだけ汚れたらもう落ちひんよ」
「洗濯機やのに?」
父は、洗濯機が神だとでも思っているらしい。

*******

病気になる前の母は、何でも大量に買い込んでストックする癖があった。
癖だと思っていただけで、一種の認知症の症状だったのかもしれない。
とにかく、私が家事に介入するようになって発見したもののひとつが、何箱にも積まれた粉石鹸だった。
乾燥剤で湿気を取りながら、もったいないのでコツコツ使っていたが、何年か越しでようやく、今月全部使い終えた。
これまで湿ったショボい粉洗剤で我慢してた分、今後は最新式のジェルボールを使ってやるぜ!

ただ、心配なのは父のこと。
食器用洗剤は、ママレモン型というかファミリーフレッシュ型というか、あのくびれたパッケージじゃないと食器用洗剤だと理解できなかった。
ジョイが洗剤だと何度言っても覚えられず、目の前にジョイがあるのに、
「皿を洗う洗剤がないぞ!」
と再びファミリーフレッシュを買ってきた男なのだ。
一応、ジェルボールを見せて、
「洗濯機に入れる洗剤はこれだからね」
と説明はしたけれど、一抹の不安がよぎる。
週末帰ったら、父が粉洗剤を買ってきているかもしれない。