排泄ケアで思い出した松沢呉一の『鬼と蝿叩き』
「介護」というとどうしても暗いイメージがあるのは、おそらく排泄ケアの問題があるからじゃないだろうか。
介護する側が、「汚い」「臭い」と嫌がるのもある。
介護される側が、過度に遠慮したり引け目を感じたり、情けなく思ったりして落ち込んだり、という問題もある。
うちは昔から、
「さっきすごく立派なのが出たで~!」
などと平気で言う、アケスケな家族だったのもあって、排泄をすることはもちろん、粗相をすることさえ、特別恥ずかしがったりしない。
かえってそれが助かっている。
mixiでつけていた過去の日記を見ると、2013年の夏ごろから母の排泄ケアが始まっていた。
それも、自ら「お尻拭いて~」と甘えるので、私が「自分でできることはがんばりなさいよ」と叱るという内容だった。
我が母ながら、なんと気がねがないことか。
まだ母がつかまり立ちができていて、オムツをしていなかった頃の思い出は、トイレに連れて行ってパンツを下したとたんに便が出てしまったこと。
5回ほどあっただろうか。
ジャーっと出る液体や、ボトボト垂れる物体の勢いにビックリしてしまうと、とっさの対処ができなくなる。
一度などは多量に尿が出て、足元に水たまりができてしまい、私のスリッパや足元もビシャビシャ。
雑巾を取りに行きたいけれど、尿で濡れたスリッパで歩き回ることになる。
「どうしよう!どうしよう!もう、どうしたらええかわからへん!」
と立ち往生していた私に、
「わからんかったら、いっぺん本で調べてみたらどう?」
と母が優しくアドバイスをくれたので、思わず吹き出してしまった。
漏らした本人が言うか~!(笑)
どうするもこうするもない。歩いて雑巾を取りに行って、汚した廊下も全部まとめて掃除するしかないのだ。
まずは落ち着いて、冷静になる。
排泄ケアは精神力を高めてくれる。
今もトイレに連れて行って座らせるけれど、間に合わなくてオムツ内でしてしまうことが多くなった。
おしゃべりができなくなってきたので、「あー!あー!」と言っているのが何を訴えているかわからない、ということも一因ではある。
しかし、正直いうと、慌ててトイレに連れて行って脱がせた瞬間出されるよりも、オムツに出したものを片づけるほうがよっぽど楽になった。
昨日も、就寝前にオムツの確認をしたら、残念ながら尿が出てしまっていた。
赤ちゃんと一緒で、オムツ替えはベッドに寝かせた状態で行う。
ベッドには愛用のアイリスオーヤマの使い捨て防水シーツを敷き、介護用の使い捨てウエットティッシュでお尻をキレイに拭いた。
使用済みパッド等の汚れ物は、匂いがもれない防臭ビニール袋に片付ける。
これに入れて口を縛ると本当に臭くないので、最近は重宝している。
最新の介護グッズと知恵を使えば、排泄ケアだってラクラクだ。
さ、これで新しいオムツに交換…、と新しいパッドを敷こうとした矢先、ヌルルルルルルル…、っと、茶色のウミウシのようなものが出てきた。
おおおおおおうううう…。
わちゃー、このタイミングで出ますか…。
お尻から出たウミウシの出現にやっぱり一瞬パニクったけれど、こういう状況にだいぶ慣れてきたので、とりあえず出し終わるまで待ってから片付けた。
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なぜウミウシのようなものがヌルルルルルルルっと出てくるのか、というと、母はマグミットという便秘薬を飲んでいるからである。
それは、私たち健康な成人が飲むような、腸の蠕動運動を刺激したり、整腸作用があるような便秘薬ではない。
便を柔らかくするお薬だ。
3年くらい前までは、母はひどい便秘だった。
逆流性食道炎で嘔吐がひどくなったとき、病院でCTを取ってもらって、衝撃的な事実が判明した。
「このモヤモヤっとしたもの、これは全部、便です。下から出ないから、上から出るのもあると思います」
食べる量が減り、水分も不足がちなうえ、身体が不自由なので運動不足になる。
病気のせいで内臓の機能が衰え、便を排出する力が弱くなる。
便秘になる条件がそろっていたのだ。
それ以後、マグミットで便を柔らかくして、がんばらなくても便が出やすいようになっている。
だから、便はふとしたときに、ヌルルルルルルル、と出てしまう。
困ったものだが、便秘よりマシだ。
その3年前の話。
母が嘔吐に苦しんでいた頃、父が私にこんなことを言ったことがあった。
「お母さん、ウンコ出よんか?3日ほど出てへんのちゃうか?」
私は鼻で笑った。
「お父さんみたいに、毎食後、1日3回ウンコする人と違うの! 3日くらい便秘するのなんか、女性やったら当たり前! それより毎日吐いてるほうを気にかけたげてよ!」
私は自分も便秘がちなので、便秘がそれほど深刻なものだとは考えていなかったのだ。
もっと早く便秘も嘔吐の原因の一つだと気が付いていたら…。
浅はかだったなぁ、と反省している。
だいたい、便秘と嘔吐の関係について、私はずいぶん昔に知識を得ていたのだった。
松沢呉一『松沢堂の冒険 鬼と蝿叩き』という本に、「うんことゲロ 口からうんこは出るのか否か」という章があった。
- 作者: 松沢呉一
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 1995/08
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震災の年の発行だからもう20年前の本で、出版されてすぐくらいに買って読んでいる。
「数字には出ないが、老人のうちの何パーセントかは、排便不能で死んでいくらしい」
という一文に、当時びっくりしたのに、忘れていたのだ。
そういえば、手塚治虫の『きりひと賛歌』でも腸閉塞の老人が出てきたっけ。
本や漫画から知識を得ているはずなのに、点と点を生活にまで繋げられない愚かさよ。
松沢堂にはこんな一文も。
「ウンコはすべての病気につながる。ウンコを顧みない者はウンコに泣く。」
排泄ケアを暗く考えている、高齢者と介護者の皆さんに伝えなければ。
大が出る。
これは希望である。
ウミウシのような、ヌルルルーっとした物体は大きな希望なのだ。
そして、どうしたらいいかわからなくなったら…、本で調べたらよい。