3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

整形外科なんか要らない!

月曜日は訪問リハビリの日。
療法士さんがやって来るのを、待ってましたとばかりに待ち構えた。
母の左肩の痛みが、相変わらず続いていたからだ。
事情を説明し、母の様子を診てもらった。

「脱臼はしていないみたいです。骨が折れてるような感じもないですけど…」
と言うものの、念のために病院でレントゲンを撮ることを勧められた。
腕の拘縮がきつい患者は、介助者が身体を無理に動かそうとすると二の腕あたりを亀裂骨折しやすいのだそうだ。

母は5年ほど前に背骨を圧迫骨折している。
骨粗鬆症で骨がもろくなっていたのだ。
食事が摂りにくい今、骨粗鬆症による骨折リスクはさらに高い。

当時通っていた整形外科の先生は、冷淡な印象の女性だった。
受診するとすれば同じ病院になるので、受診するかどうかすごく迷った。
長く待たされるうえ、湿布が出る程度のおざなりな診察で、満足したことが一度もないからだ。

もう少し様子を見てもよいけれど、「念のため」のつもりでレントゲンを撮ったら膝の皿が割れていた父の例もある。
このまま年末年始の休みに入ってしまうのも…。
えーい!心配するくらいなら行ったほうがいい。
思いきって、会社を休んで整形外科に連れて行くことにした。

年末のせいか、もう11時近くになるというのに病院は混んでいた。
1時間半くらい待って、ようやく診察。
前と同じ女性の先生。
私と歳が変わらない人で、以前からなんとなく顔に見覚えがあるような気がしていた。
もしかしたら同じ高校だった?
そんな気がするが、思い出せない。

先生に事情を説明すると、レントゲンを撮ります、と言われ、レントゲン室へ移動し、撮影が終わってからまた待った。

ようやく呼ばれて診察室に入ると先生は、
「骨はどうもないです」
とぶっきらぼうに言った。
「よかったです」
と私。
その後、沈黙。

え?なにこの沈黙?
私は戸惑ってしまった。
「…で?」
「骨に異常はないんで、どうしようもないです」
「え、でも、痛がってることに対して、何もないんですか?」
と私は驚いて、ムッとした調子で返すと、
「痛がってるかどうか、わかりませんよね?」
と、医者は私の挙げ足を取った。

確かに、母がはっきり痛いと言ったわけではない。
言葉が不明瞭だから、はっきりとはわからない。
だけど、一緒にいるからなんとなくわかるのだ。

「しゃべれないけど、痛がってるんですよ。 先週まで何もなかったんです。腕を動かして呻き声を出すことなんてなかったんです。それは明らかなんです!」
「そう言われても、骨に異常はないんで」

「だったら、筋肉とか筋とか、痛がる原因があるんじゃないんですか!?」
「そう言われても。わからんからね」
「触らないほうがいいとか、動かしても大丈夫とか、アドバイスすらないんですか!」

すると先生はうんざりしたように、
「痛いんやったら触らんほうがいいけど、移動させるには触らんわけにはいかんのでしょう?」
と言った。

言葉が不明瞭だと痛みも無視し、身体が動かせないなら少々痛くても我慢しろ、ということ?
なんでそんなにゾンザイなの?

同年代で同性、もしかしたら同級生というあたりが微妙に関係するのかもしれない。
私が覚えてないだけで、私たち過去になんかあった?
だからこんな、適当な診療しかしてもらえないとか?
だとしても、私、この人とは合わない!

私は完全にカチンときてしまって、
「はいはい、わかりました。どうもありがとうございましたっ!」
と一方的に診察室を出てしまった。

そのやり取りを側で見ていた看護師さんが、私たちを追いかけて診察室を出てきた。
「腕の間にタオルとか軟らかいものをかませてたら、ちょっとは痛みがマシになるかもしれへんよ。かわいそうやけど、がんばって」
そうアドバイスをくれた。

「ありがとうございます。あのぅ、痛がっても本当に何もしてあげられないもんなんでしょうか?」
私は看護師さんに尋ねた。
「じゃあ、痛みどめのお薬だしてもらう? 肌はかぶれるほう?」
「かぶれやすいです」
「じゃあ塗り薬のほうがええね。先生に言うとくわね」

優しい看護師さんのおかげで、とりあえず塗り薬は処方された。
これがなかったら、レントゲンを撮って確認した以外、何時間も待って何も得るものがないところだった。

**********

昨日、会社の帰りに整体へ行った。
私は側弯症で、背骨がS字に曲がっている。
そのせいで、慢性的な肩こりと腰痛持ちだったりする。
これまで、整体やカイロ、鍼灸整骨院などいろんなところに通ってきた。
その中でも、今通っている整体の先生は技術も高く、とても論理的に施術してくれるので、納得して自分の身体に向き合うことができる。

人として信頼しているのと、先生が聞き上手なこともあって、ついついいろんなことをしゃべってしまう。
両親のことは特にそうで、今回も母の左肩にいついて相談した。

「肩を温めてあげるとええよ。やってみた?」
と先生が言うので、
「だって素人には、温めるのがいいのか、冷やすのがいいのかすら、わからないんですもん」
と返す。
「たいがいは温めるべきやけどね。お母さんの左肩、炎症を起こしてるんかもしれんなぁ」
「炎症? 腫れてもないし、赤くなったりもしてないですよ?」
「外からでは炎症はわからんのよ」
「炎症を起こしてるかどうか、整形外科では診てくれないもんなんですかねぇ?」
「普通はもうちょっと何かしてくれるやろけどねぇ。でも、どこの整形外科でも、たいてい冷たいよ」

お、ここでも登場!
病院の科によって医者の性格的傾向がある問題!

「患者が痛い言うたとしても、命には関わらんからね。命の危険がないかぎり、医者は適当やわ。外傷や異常がなかったら、何もできへんしね」
レントゲンを撮って、折れてるか折れてないか見るだけなら、医者なんていらない。
レントゲン技師にいてもらって、患者が直接、
「ここ、折れたかもしれないんで、撮ってもらえます?」
ってオーダーしたほうが話が早い。
だいたい、折れてたとしても、父の膝の皿のように、何もできなくて日にち薬だったりするのだから。

整体の先生は、こんなことも言った。
「だいたい、整形外科がちゃんと患者に応えてたら、僕らみたいな街の整体なんか必要なくなるやろね」

そりゃそうだ。
言われてみたら、私自身がそうだった。

側弯症だとわかったのは中学生のときだったが、整形外科ではコルセットを作って終わり。
高額なコルセットだったけれど、まともにつけられたものじゃなく、成長期の身体に合わなくなり、結局ほどんどつけなくなった。

大人になってから自分で調べて、いろんな方法を試した。
整形外科よりも整体やカイロのほうがよほど効果があった。
おかげさまで、昔よりS字のカーブが緩やかになってきている。

人間は生きているかぎり、病気やケガ、痛みや苦しみからは逃れられない。
けれど、誰だってそれを癒したいと願う。
病院でも街の整体でも、処方薬でもドラッグストアの市販薬でもいい。
楽になりたい。
そう思うのは傲慢なのかしら。

痛みや苦しみを癒やすのが医療でないならば、いったい彼らは何のために仕事をしているのだろう?
勉強して医者になったのはステイタスと金儲けのためなの?

整体の施術後、すっかり肩が軽くなった身体で、医療っていったい何だろう、と考えてしまった。
そしてやっぱり、整形外科の彼女が同級生だったかどうか、思い出せない。