3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

雪の1日

日曜の朝は7時に電話が鳴った。
母の施設からである。
「雪のため、今日のデイサービスはすべてキャンセルさせてもらうことになりましたが、かまいませんでしょうか」
という。

こちらとしても願ったり。
だって、デイサービスのお迎えは9時半だけれど、いつも時間ギリギリで準備はバタバタするのだ。
出かけないとなれば、朝どんなにグズグズしてもいいわけで、雪のせいにしてダラダラできる。

そうして、母が在宅している日曜日を過ごしたわけだが、何にもできないまま、あっという間に1日が終わった。

寒さが関係するのかどうかわからないが、午前中、母が3度も下痢をした。
便の後始末にやたらと時間を取られてしまったのが、何もできなかった第1の言い訳。
どうも施設にいるより自宅にいるときのほうが、お腹が緩い気がする。
家にいることでリラックスして緩いのなら良いことだが、私が食べさせているものが何かお腹に良くないんだろうか、と悪い方に考えなくもない。

第2の言い訳は、母がなかなか食事を食べてくれなかったことだ。
朝ごはんも昼ごはんも、食が進まないのではなく、とにかく眠ってしまう。
寒さ対策でガンガン暖房をかけていたので、ポカポカして眠くなるのか、いくら起こしても目が開かない。
「寝たらあかーん!しっかり食べて!」
何度も何度も起こしながら、スプーンを母の口に運ぶ。
一口食べては眠ってしまうので、朝ごはんを食べ終わらないうちに昼ごはんの時間が来てしまった。
昼ごはんを食べ終わるともう夕方である。

あ、もう夕ごはんの準備をしなきゃ、と思ったときにゾッとした。
1日が、もう終わり。
何もしてないのに、時間だけが経っている。
浦島太郎もこんな気持ちだっただろうか。

日中預かってくれるデイサービスのありがたみが身に染みた。
どんなに朝の支度がバタバタしようと、デイサービスには行ってもらわないといけないな。

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何もやってない、とはいえ、実は食事介助をしながら録画していた映画は見れた。
『日本のいちばん長い日』、『南極料理人』、『OK牧場の決闘』の3本。
いずれも、積極的に見たい作品というより、親と一緒に、家事をしながら見てもいい映画、というチョイス。
だとしても、1日に3本映画を見たんだから、全く何もしてない1日だったとは言えないかもしれない。

映画を見ることができた以外に、良かったことがもうひとつだけあった。

朝、大雪のニュースを見ながら、母を着替えさせていた。
北海道にある、日本で最も寒い町ではコタツを使わずペチカで暖をとっている、という話題が紹介されていた。

ナレーションでは「ペチカって何?」などと言っているので、
「歌があるのに、ペチカを知らんのんかなぁ?」
と、私は母に話しかけた。

雪の降る夜は楽しいペチカ
ペチカ燃えろよお話しましょ

私が歌い出すと、母もそれに合わせてハミングをしてくれた。
歌というほどのことはない、うなり声程度の声だったけど、明らかに歌おうという気持ちが見えた。
母が歌ってくれたのは久しぶりだ。

去年くらいまで、言葉は出てこなくても、歌は歌えた母。
会話は滅裂でも、歌の歌詞はよく覚えていた母。
歌は最後の砦だったのだけれど、最近はそれも反応が乏しくなっていただけに、うれしかった。
雪の降る朝の、小さな喜び。
何もない1日だっただけに、些細なことが思い出になる。