3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

手の拘縮とポジショニング

少し前のことになるが、闘病中の林家こん平が卓球を楽しむ、というニュースをテレビで見た。
その前の映像との比較がされていて、あまりの回復ぶりに心底びっくりした。

news.ameba.jp

なぜそんなにびっくりしたかというと、動けなかった頃のこん平師匠の様子が2、3年前の母の様子に似ていたので、回復なんてありえないと思い込んでいたからだ。

病気は違えど、多発性硬化症も難病だと聞いている。
それが、卓球ができるほどに回復するなんて。
しかも、右手でラケットを持っていることがスゴいと思ってしまった。

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画像を見たらわかってもらえると思うけれど、師匠の右手はいつも同じ形だ。

きっと、右手は思うように動かないんじゃないかと思う。
それがラケットを持てるなんて!
すばらしいなぁ!きっとものすごい努力をされたんだろうなぁ、と感嘆してしまう。

残念ながら、師匠と違い、うちの母の左手はこのポーズで完全に固まっている。
最近は右手までこうなってきた。

健康だと、「動かない」「動かせない」ことがすごく不便だと思う。
けれど、母の場合で言うと、動かないことより、あの形で固まっていることで起きる問題のほうが多く、不都合なことがたくさん出る。

まずは、着替えが不便。
これは容易に想像してもらえるんじゃないかと思う。
腕が曲がったまま固まっているから、袖を通すのがやっかいなのだ。

また、指の第一関節はまっすぐ伸びたままで爪が手のひらから出ているため、爪でよくひっかく。
私たち介護者がうっかりひっかかることもあるし、自分で自分の右手を引っ掻いてしまうこともある。
自分の手が当たって自分の手をケガするなんて、なんて不便なんだろうと思ってしまう。

そして、手が開かないせいで手のひらがムレる。
手が洗えないから臭くなるし、夏場は皮膚がムレて剥けたりする。
だから、これまではクッション材のプチプチを丸めたものをガーゼのハンカチでくるんで握らせていたが、先日、またもやAmazonでこんな介護グッズを購入。

ハビナース ビーズプチハンド

ハビナース ビーズプチハンド

そして洗いがえにもう一つ違う種類のも。

ふかふか手のまくら

ふかふか手のまくら

ガーゼのハンカチ作戦では指の間のムレまでケアできなかったが、これなら大丈夫。
これらが製品化されているということが、手が固まっている人の多さを物語っている。

そして、腕の形。
いつも曲げていて、拳を胸につけるようなポーズなのだけど、拘縮がきつくなるにつれて、胸を圧迫するようになってきた。

自分の手で自分の胸を押しすぎて、赤くなっていることがある。
手が当たっている部分が痛くなるだけじゃなく、胸なので、呼吸も苦しくなる。

それらを防ぐために、リハビリに来てくれている療法士さんから、脇の下に軟らかいクッションかタオルを挟む方法を指導してもらっている。
言われたとおりクッションを入れておけば、胸も赤くならない。

座っているときも寝ているときも、クッションをたくさん使って、姿勢をラクにする。
こういうのをポジショニングというのだそうだ。

今週の月曜日、いつものリハビリの時間に、ケアマネさんが来てくれた。
というのも、施設でのポジショニングをより良くするためにと、療法士さんのアドバイスを仰ぎに来たのだった。

ケアマネさんの手にはたくさんのクッション。
いつも施設で使っているクッションいろいろなのだそうだ。
なかには、ケアマネさんの娘さんがUFOキャッチャーで取ってきたという、リラックマのクッションまであった。

本来だったら、私が療法士さんから方法を聞いて、それをケアマネさんに伝えないといけないところなのに、
「私が教えてもらって、勉強会を開いてほかのスタッフに伝授します」
と言う。
母のために本当にいろいろと心配りしてくれて、ケアマネさんには感謝しかない。

今までもポジショニングをやっていなかったわけじゃないのだけど、改めて必要だということになったのには、母の左手の拘縮がきつくなってきたからだ。
ケアマネさんの心配は、母を左側を下にして寝かせた場合、不自由に曲がった左手の拳が首に当たって、のどを圧迫してしまうのでは、ということだった。

そんなこと、考えてもみなかった。
自分の手が当たって自分の首を絞めちゃうなんて!

昔読んだ養老孟司の本で、人間の身体はうまくできていると言う人は喉に食べ物を詰まらせて死ねばいい、というような文章があって笑ったことがあったが、それくらい、人間の身体はうまくできていない、という主旨の話だった。
なるほどなぁ、と思ったものだが、母の病気をみていると、本当に人間の身体は欠陥だらけだと思う。

(どの本だったっけなぁ、と検索してみたら、その部分を引用されているブログを発見。まさにこういうこと! うちの母なんか、最近自分の唾を飲み込んでむせてるもんなぁ。)
rationalfool.air-nifty.com

左側を下にして寝かせても左手が上に上がらないような上手なクッションの挟み方を、療法士さんがいろいろ考えてくれる。
このクッションだとどうか、あのクッションだとどうか、と大小さまざまなクッションを試しながら、試行錯誤の末、これなら安定するんじゃないかというポジションを編み出した。

人間の身体はうまくできていない。
でも、その欠陥をカバーするために、人間は知恵を持った。
んでもって、誰かのためにって思う優しさと、高いプロ意識もね。

療法士さんも、ケアマネさんも、二人とも私とそう歳の変わらない女性同士。
ポジショニングの勉強会をしつつ、おしゃべりしつつ、私と母を入れた四人でわいわいと女子会の雰囲気。
こんな楽しい介護があるかしら、と思う。

もちろん父は一人でカヤの外。
そう考えると、老々介護で、介護者が高齢の男性というパターンは厳しいだろうな、と思う。
頑固爺さんだと、最新の介護情報を得るのも不得意そうだし、年下の女性に教えを乞うのも嫌がりそうだからだ。

お隣のご夫婦は、奥さんがパーキンソン病で、旦那さんがお一人で家事と介護をしているという。
すぐ隣の家のことなのに、介護サービスを受けているのかどうかも知らない。
抱え込まなければいいけれど、と思うばかりだ。