3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

映画『函館珈琲』を激しく勝手に思い込む。

昔の上司の口癖は、「もうあかん、会社やめてタコ焼き屋するわ」だった。
なぜタコ焼き屋なのかわからない。
とにかく脱サラをしたかったのだろう。

最近、私もすごくそんな気持ちになっている。
会社をやめて、人の役に立つこととか、自分が思いきり打ち込めることとか、何かもっと違うことをしたい。

でも、だからといってタコ焼き屋をやろう、とは思えないので、やるなら珈琲屋か古本屋だけど、本気でやりたいかと問われれば、そうでもない。
じゃあ何をすればいいのか。
それがわからない。
自分に何ができるのか、何がしたいかもわからない。
すでに人生の半分が過ぎているのに、いまだにこの調子だ。

『函館珈琲』は、そんな私のような、モラトリアムな大人たちのための映画だった。

トンボ玉職人、テディベア職人、写真家、という、何かを目指している人たちを支援するシェアハウ翡翠館。
そこに、古本屋を自称する主人公が1か月のお試し期間でやってきたことから物語は始まる。
函館の美しい港町を舞台にした、爽やかな映画だった。

実はこの映画を監督した西尾孔志さんはなぜか知り合いで、Facebookなどでこの映画の話を知っていたから、公開を楽しみにしていた。

西尾さんの前作『ソウルフラワートレイン』は大阪を舞台にした愉快な映画で、『カルメン故郷に帰る』の逆というか、‘お父さんカルメンに会いに行く’といったかんじの佳作であった。

『函館珈琲』は今月上旬に元町映画館で上映があったけれど、時間が合わなくて見に行けず、今日やっと十三シアターセブンで見ることができた。
しかも、上映後はアフタートークのおまけつき。

(このあとネタバレ含みます。)

主人公の桧山くんは、家具職人の先輩の代わりに翡翠館へやってきた。
しかもその先輩が作ったイスを抱いて。
その先輩は海外に行ってしまったというけれど、どうも渡航先で亡くなってしまったようだ。しかも事故ではなく自殺の可能性もあるような…。

桧山くんのイスに対する異常な思い入れ、グジグジ思い悩むかんじからして、私はてっきり、彼と先輩は恋人同士だったんだな、と思い込んでしまった。
先輩のところに居候していたとも言っている。
同棲してたなら、やっぱり恋人だ!

実は彼は古本屋ではなく、処女作で賞を獲った小説家。
その小説を読んだ翡翠館の住人イチコさんは、彼のことがよくわかった、というような感想を述べる。
何がわかったかって?
そりゃあ、彼が同性愛者で、それなりの恋愛をしてきたことをさ!
さらに私の確信は深まっていった。

イチコさんは彼にキスをしようとするけれど、彼は本で遮る。
印象的なシーンだ。
私は、イチコさんは彼が同性愛者だと知っていてカマをかけたんだろう、と思った。
ほうらね、こんな美人のキスを嫌がるなんて、やっぱり男性が好きなんだ。

ところが、アフタートークによると、それが大ハズレ。
なんと最初はイチコさんとのベッドシーンを思わせるようなカットもあったという。
本当はキスシーンも撮りたかったけど、脚本家が嫌だと言ったらしい。

ええっ!?
彼はゲイじゃなかったの??

…おお、なんという私の腐女子度の高さよ。
美男を見たらゲイと思え、というのは、二次元だけの常識なのか…。(←二次元でも常識ではありません)


物語の後半、主人公の桧山は、翡翠館にある廃車寸前なバイクの修理を始める。
毎夜徹夜で修理し、とうとう、彼はバイクのエンジンを動かすことに成功する。
ブンブンと唸るエンジン音が、翡翠館中に轟く。
まるで、船が出港する汽笛のように。

しかし、音が響くだけで、決してそのバイクは走り出さない。
走れるけど、まだ走らないんだ。
そこにとどまって、ゆっくりとした函館時間を楽しもうとしている主人公みたいに。
あえて走らないことで、主人公の吹っ切れた気持ちを表現してるんだなぁ。
…と思ったのだが、これもまた大ハズレ。

西尾さんによれば、なんとバイクが走るシーンがちゃんとあったらしい。
しかも、翡翠館オーナーがライダースーツで桧山くんを待っていて、二人乗りして走る、というシーンだったそうな。
オーナー役の夏樹陽子さんもノリノリだったとのこと。
しかし、
「修理したばかりのバイクを登録もせずに走らせるのは…」
という指摘により、残念ながらそのシーンは没になってしまった、という。

なーんか、アフタートークでことごとく覆される私の妄想。
映画制作の裏には、いろんな事情があるもんだ。

昨日、西尾さんから、
「平日はお客さんが少ないからぜひ見に来て」
とわざわざメッセージをもらったので、そうなのかと思って行ったら、お客さんがけっこういて、アフタートークもぎっしり。

そんな状況の中、西尾さんに感想を求められたけれど、
「またメールします」
とだけ言って、ただ会釈して帰った。
私が何も言わずに帰ったことで、西尾さんは私が映画を気に入らなかったのかな、と不快に思われたに違いない。

実際のところは、そんなたくさんの人の前で、
「主人公と先輩はできてると思ってました」
なんてアホな感想を言えないよ、というのが真相。
書くのはいくらでも書けるけど、人前でしゃべるのはちょっと苦手だ。

そんなおしゃべり下手な私から見て、唯一、映画でディスりたくなったところが、写真家の女の子だ。
対人恐怖症という設定で、1日にしゃべった一言二言を日記に書くという寡黙ぶり。
そのわりには、主人公とけっこうしゃべってるよねぇ、という違和感。
世の中、声が出ないわけじゃないのに、ほんとに何も言わないヤツってけっこういる。
返事すらしないで首を振るだけだったりする若者ってそこそこ多くて、それに比べたら、写真家の女の子はごくフツウだ。
彼女のコミュ障ぶりが中途半端で、そこが消化不良な気がした。
…とはいえ、もしかしたら、彼女がコミュ障だというのも私の思い込みだったりして??


この映画の登場人物の中で最もいいなと思ったのが、テディベア職人の男の子だ。
ドイツ人のハーフという設定みたいだけど、とてもナチュラルで魅力的。
この俳優さんのほかの役も見てみたい。

テディベア職人の彼が翡翠館を出ていくと言ったあと、熊の着ぐるみを着て登場する。
とてつもなく可愛い、私のお気に入りシーンだ。
ただ、熊の着ぐるみが出てくる映画がなんかあったよな、と記憶をたどれば、ジョン・アーヴィング原作の映画『ホテル・ニューハンプシャー』がそうだった。
西尾さん、熊の着ぐるみはズバリ、『ホテル・ニューハンプシャー』の影響でしょ!?

…ああ、でもきっとこれも私の思い込みにちがいない。