長引く床擦れを何とかしなきゃ。
先週、母の介護施設から電話がかかってきた。
かけてきたのは、担当してくれている看護師さん。
たいてい、ケアマネさんが間に入って連絡が来るので、直接お話するのは初めてである。
はじめまして、いつもお世話になっています、と挨拶もそこそこに、こちらとしては何かあったのでは、と、ちょっとソワソワしながら受話器を取った。
「緊急じゃないんです。土日だったら娘さんがおうちにいらっしゃるって聞いたんで、一度ご相談しようと思いまして」
と看護師さんは言った。
緊急じゃないと聞いて少しほっとする。
「ご相談したいのは床擦れのことなんです。ずいぶん長引いてますでしょう? 背中のほうは治ったんですけど、仙骨のほうがね、なかなか治らないのが気になっているんです。お母さんご本人も痛いでしょうし、早く治してあげたいなぁ、と思いましてね。一度病院を受診されたほうがいいと思うんですけど」
看護師さんが言われるとおり、床擦れができてもう半年近くになる。
仙骨というのは尻尾の名残のような骨で、お尻の割れ目が始まるあたりにある。
座ると必ず当たるし、肉がないところだから、一般的にもよく床擦れを起こす部分なんだそうだ。
やっかいなことに、オムツをしていると排泄のときに汚れる部分である。
キレイにしておかないとバイ菌が入りそうで怖いので、オムツ替えのときには、毎回傷口の手当てをしなければならない。
施設でもきっと手間をかけさせてしまってるなぁ、とは思っていた。
「でも…病院って、どこを受診したらいいでしょうか?」
いい機会なので、私から看護師さんに質問した。
神経内科と内科は定期的に受診しているが、その2つでは診てくれそうにないからだ。
「そうやねぇ、皮膚科が一番いいんやけど、行かれたことありますか?」
皮膚科は、車で30分ぐらいのところにあり、疥癬にかかったときにお世話になった。
けれど、愛想も悪いし古くて汚いし、あまり良い印象がないので積極的に行く気がしないのだった。
大脳皮質基底核変性症という病気の説明をしてないこちらも悪いんだけど、こちらの事情をおもんぱかってはくれないかんじも、あまり好きじゃなかった。
元気な人間が皮膚のトラブルがあるのと、病気を抱えたうえで、それがために皮膚の病気を引き起こすのとはわけが違うように思うのだけど、そのあたり、私も医者にうまく伝えることができない。
特にその病院は診察台が固いベッドで、母を車イスから移乗させるのに苦労をした記憶がある。
ただ、この皮膚科が特別悪いわけではなく、ほかの病院も同じ。
外来の診察室や診察台について、身体に障害がある患者を診ることはあまり想定されていないんだと思う。
病院は病気を診るところなのに、意外とユニバーサルデザインが入っていない。
いざ実際に障害者を抱えて初めて気づかされる。
「皮膚科ですかぁ…」
難色を示す私に、看護師さんはこう言った。
「実はほかの利用者さんでね、同じように床擦れができた方がいたんですけど、お医者さんで亜鉛軟膏っていうお薬を処方されて、あっという間に治ったんです。だから、波野さんもどうかなぁ…と思いまして」
ほう、亜鉛軟膏!
そういう情報を教えてくれるのは、本当にありがたい。
しかし、ノリノリの私をいさめるように、看護師さんはこう続けた。
「ただ、本当にその薬がいいかどうかはお医者さんでないとわかりません。大切なご家族さんですし、下手に亜鉛軟膏を使って合わなかったら困りますし」
薬というものは、医師に症状をちゃんと診てもらって処方してもらい、用法用量を守らないといけないのはわかっている。
でも、病院に行く手間を考えると、手軽な市販薬に頼りたいと思ってしまう。
処方薬のほうが保険がきいて安いのも知っているけど、病院に連れて行く時間としんどさを思えば何でもない。
看護師さんが「大切なご家族さん」と言ってくれたのはうれしいけれど、病院受診より先に、市販の亜鉛軟膏を試してみよう、という気持ちにぐぐっと傾いてしまった。
電話を切ったあと、検索するとまたもやAmazonで亜鉛軟膏を発見。
商品名は亜鉛華軟膏というらしい。
まじで何でもありすぎて怖いわ、密林。
- 出版社/メーカー: 小堺製薬
- 発売日: 1986/03/04
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それで今週から亜鉛華軟膏を持参。
少しでも改善されたらいいな、と期待していた。
ところが、今度はケアマネさんからショートメールが入った。
「やはり皮膚科を受診されたほうがいいと思います。こちらの介助でお連れしてもよろしいでしょうか?」
残念ながらせっかく取り寄せた亜鉛軟膏も効果がなかったらしい。
施設から皮膚科に連れて行ってくれるなら、願ったり叶ったりだ。
ほかの介護施設はどうなのかわからないが、今お世話になっているところは、母に何かあればすぐに病院へ連れていってくれる。
そうじゃなければ、母に何かあるたびに私が会社を休まなくてはいけないし、距離的にも実家まで離れているので、会社を早退しても時間的に病院の診療時間に間に合うかどうかわからない。
「あの病院は診察台へ移乗するとき怖いんですが、大丈夫ですか?」
と返信すると、
「男性職員が介助します」
とのこと。
お姫様だっこができる人が連れていってくれるなら安心だ。
受診後、再び結果の連絡がショートメールで入る。
この間、私は勤務時間中。
ショートメールが使える時代でほんとによかった、と思う。
電話連絡がいちいち入っていたら仕事にならないだろう。
軽く感染症を起こしているとのこと(塗り薬以外に抗生剤の飲み薬も処方)、糖尿もあるので治りにくいということ、そして栄養不足が悪化の一因だということ、を医者の見立てとしてケアマネさんが連絡してくれた。
ケアマネさんが特に心配されていたのは、うちの母の体重が減っていることだった。
日報を見ると、飲み込みが悪いせいで食事がほとんど食べられない日がときどきあるようだ。
一時期46キロあった体重が、最近は40キロギリギリまで落ちている。
そこでケアマネさんから、
「夕食時はムセることが多く、食べられないことが多いので、夕食を栄養食に変えてはどうかと考えています。いかがでしょうか?」
という提案があった。
「食事の楽しみを奪ってしまうので悩むところですが」
という注釈付きで。
聞くと栄養食は明治メイバランスのソフトゼリーだという。
家でもたまに食べさせているもので、私も食べたことがあるけど、フルーツヨーグルトに似た味で普通に美味しい。
母にとってみれば、ごはんがおやつに変わるようなものだ。
甘いものが好きだから、食べる楽しみを奪うどころか、逆にうれしいくらいだと思う。
ただ、ヨーグルトっぽいソフトゼリータイプは口の中でネチャネチャするので、たまに飲み込みにくそうにしている。
同じパウチのものでも、ウィダーインゼリーのようなツルリとした透明なゼリーのほうが飲み込みが良い印象がある。
そんな私の所見を伝えると、
「栄養士と相談して、パターンを試しながら最適なものを探ってみます」
とケアマネさん。
母の病気の進行に伴って、次から次へと問題が出てくるけど、ケアマネさんがいてくれて心強い。
もちろんケアマネさん個人の資質によるところが大きい。
いい人に当たってラッキーだったわけだけれど、そもそもケアマネジャーというシステムがあってよかったなぁ、としみじみ思う。
これが病院みたいに、つながりなくバラバラに、個人が調べて個別に対応するようだったら私はお手上げだった。
病気についても医療ケアマネジャーがいてくれたらなぁ。
あちこちの科をたらい回しにされないようになるかもしれない。
早く総合診療制度が進んでほしい。
その頃には医者はAIかもしれないけどさ。