3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

姫路のまずい飲食店とユトリロ回顧展

今月のはじめ、姫路市立美術館ユトリロ回顧展の招待券をもらった。

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ユトリロが大好き、ぜひ見たい!というわけではないけれど、もらえるものなら何でももらう。

6月ならちょうど父の日があるので、久しぶりに姫路の街で父とランチをしていいかな、と思っていた。

 

ところが先週は母のあごの腫れでバタバタしたので、父の日はスーパーでお刺身とお酒を買って終わりにした。

それでも、何もないよりましなはず。

 

ただ、どんなに忙しくなろうとも、もらった招待券をムダにはしたくない。

株の優待券を使いきるために自転車で走り回っている桐谷さんという元プロ棋士のおじさんがいるけれど、彼を見ているといつも他人事とは思えない。

招待券があるなら、絶対に見にいく。

 

父の日からは1週間遅れだけれど、姫路の街まで車ででかけるついでに、父とランチを食べることにした。

せっかくなので父が好きであろう串カツのお店をネットで調べて、カーナビに情報を入れて出かけたのはよいけれど、小さな事故の影響でバイバスが渋滞。

倍くらいの時間がかかってようやくたどり着いたお店はもういっぱいで、17台停められるはずの駐車場も満車。

よほどの人気店なのか、店の前で路駐して待っている車まであって、あきらめざるをえなかった。

 

仕方がないので、念のためもう1軒候補として調べておいた、サラダとお惣菜のビュッフェがあるお刺身定食が出るお店に行ってみると、先ほどと違って駐車場も店内もガラガラ。

お客さんは私と父の二人だけ。

その割にスタッフは、愛想なくぼんやりしているだけのホールスタッフが二人と、厨房内に店主らしい人が一人。

ビュッフェのお惣菜も運ばれてきた定食もどれひとつとして美味しいものはなかった。

というより、全部まずくて、気持ちがどんどん沈んでいった。

 

渋滞でイライラし、行きたい店に入れずイライラし、入ったお店の接客にイライラし、出てきた食事がトドメである。

最近はコンビニのお惣菜でもチェーン店のファストフード店でも、まずいものを食べることがほとんどない。

「こんなにまずいものを、こんなに食べるなんて、久しぶり!」

と大声で嫌味を言いたい気持ちをぐっとこらえた。

まずい食事は別として、アルバイト二人の人件費も込みで一人1,200円も取られるかと思うと、とにかく腹が立ってしょうがなかった。

 

思い返せば、母はこういうとき、

「美味しくないわ」

と平気で言う人だった。

父はそれを嫌がり、

「大声でそんなことを言うな!」

と、店を出てからよくケンカをした。

「まずいものはまずい」という母と、「店の中でそれを言うのは下品だ」という父の主張はどちらも間違っていないので、常に平行線だった。

子供の私は、

「結局、まずい食事を出す店が悪い」

と思わざるをえなかった。

 

飲食店で働くすべての人に言いたいけれど、食事ひとつで人を幸せにも不幸にもできる。

まずい食事はすべてを台無しにする。

 

帰りの車で、私はくやしまぎれに、

「みんな良いお店をよう知っとうね。お客さんの入りを見たら店の質がわかるわ」

と一人でしゃべっていた。

「渋滞してなかったら、もっと早く着いて、最初の店にも入れたのに」

と誰に言うでもなく、言い訳ばかりを口にした。

父は何も言わなかった。

 

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私が美術館へ行っている間、父は叔母(父の妹)の家へ行き、私は一人でゆっくりと展覧会を見て回った。

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ユトリロが描いたのは、ひたすらにモンマルトルの街角だった。

道があって、建物がある。それだけ。

建物は若干歪んでいて、奥行きがおかしかったりする。

近寄って見ていると何がよいのかさっぱりわからない、普通の風景だ。

それなのに、振り返って離れたところから見ると、すごくオシャレで素敵な場所に思えた。

 

一番気に入った「アングルームのサン=ピエール大聖堂」という絵の前でイスに座ってぼんやり眺めていたら、パリに行った人がよく言う感想を思い出した。

「パリの街ってすごくオシャレなイメージがあるけど、よく見ると犬の糞がいっぱい落ちていて意外と汚い」

マクロで見るととってもオシャレ。でも、ミクロで見ると普通。

そういうことも含めて、ユトリロはパリを代表する画家な気がする。

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飲食店を探して車を走らせたせいで、この日は姫路の街をぐるっと一周した。

最初に行ったお店がお城の南、外堀沿いのエリアにあり、次に行ったまずい店がお城の北側のエリアにあったからだ。

特に、お城の北側は古い住宅街である。

昔、父方の祖母の家(つまり父の実家)はその近くにあり、懐かしく思いながら通った。

父も、

「昔ここに刑務所があったんや。刑務所長の息子と同級生でな、ときどき一緒に遊んだな」

などと言った。

食事はさんざんだったけれど、姫路の街に出てきたのは悪くなかった。

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姫路の街中は再整備が進んでいて新しい街に生まれ変わっているけれど、北側の住宅街はあまり変わっていない。

あの辺りの街角も、画家に描いてもらったらそれなりの絵になるかもしれない。

ユトリロがモンマルトルを描いたように。