3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住むアラフォーOL、波野なみ松の、仕事と趣味と母の介護を両立させる日々の記録。

表皮剥離を縫った。

先週日曜日の夜、母をパジャマに着替えさせようと右腕をまくると、4センチほど皮膚が切れてめくれ、パックリと真っ赤な血がにじんでいた。

 

なぜそんな大きな傷ができたのかがわからない。

少なくとも私には、介助中に母の右腕をぶつけたとか、強く掴んだという記憶がなかった。

あるとすれば、その少し前に母の爪をやすりで削る作業をしていたくらいだけど、それで腕が切れるなんて考えられない。

 

そもそもなぜ爪を削っていたかというと、週末に家に帰ってきた母を見ると、右腕に内出血ができていて、それがもしかしたら母の左手の伸びた爪が当たったせいじゃないかと思ったからだ。

内出血ができると、皮膚が破けやすくなる。

 

「表皮剥離」

 

その言葉を知ったのは、母が以前のデイサービスに通っていた頃だ。

そのときはよく左腕にケガをしていた。

支えがあればまだ歩けていた頃で、入浴介助中やトイレ介助中によく左腕をぶつけるようだった。

ちょっとぶつけても内出血をし、そこを再度ぶつけると皮膚が切れた。

 

今の施設に移ってからは、もっぱら右腕である。

右腕ばかりケガをする理由として、ケアマネさんが言うには、

「スタッフたちに、左腕は動かないという意識があり、十分注意を払うんですけれども、右腕はまだ動くと思っているせいで配慮を怠りがちなのかもしれません。両腕とも十分気をつけるよう徹底します。」

ということなのだが、意識だけで改善できるかどうかわからない。

 

今回のことも、私も覚えがないし、施設のスタッフさんも誰もケガをさせた覚えがなく、原因は迷宮入り。

犯人探しをしたいわけではなく、原因解明から再発防止策を取りたいだけだ。

現に、前回右腕に内出血ができたときはポータブルトイレに移乗したときに肘置きにぶつかったのが原因だとわかったので、移乗のときは肘置きを外すように対策してもらった。

 

ケアマネさんと話をして、唯一原因かもしれないと思われたのはシートベルトだった。

車イスごと車に乗せるとき、背中側からシートベルトをかけるのだけど、ちょうど母の右腕をかすめる。

今後はシートベルトをする前に、母の腕のところにタオルを置いて腕を保護するように対策をとってもらうことにした。

 

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日曜日の夜は応急処置としてマキロンで消毒したあとにガーゼの傷パッドを貼るくらいしかできなかったので、月曜日に施設の看護師さんに手当をし直してもらうようにお願いした。

すると、仕事中、看護師さんから電話がかかってきた。

「今回の表皮剥離は大きいですし、病院に行かれたほうが…。血液がサラサラになる薬を飲まれてるので血も固まりにくいですし、縫ってもらったほうが早く治るんじゃないかと思いますよ」

 

これまで、表皮剥離で病院に行ったことはなかった。

行くとしたら何科だろうか?

だとしても、また会社休んで連れていくの?

30分に満たない診察のために、会社を半日休まないといけないのはちょっと勘弁してほしかった。

 

もともと土曜日に足の爪のために皮膚科を受診する予定だったので、ついでに表皮剥離も診てもらおう、ということになった。

母にはかわいそうだけれど、週末までは看護師さんの手当てだけで我慢してもらうことにした。

 

そして、昨日、皮膚科へ。

診察室に入ると、看護師さん二人が有無を言わさず母の靴と靴下を脱がし、先生が爪を診て、

「もうだいぶいいですね。爪水虫の薬を、この前とは違うクリームに変えましょう」

とサクサク、まるでオートメーションのように進行した。

そのままベルトコンベヤーで帰らされそうな勢いだったので、

「あの、もうひとつ診ていただきたい部分があるんですけど」

と先生の話を遮った。

 

「腕の表皮が剥離しまして」

と私が言うが早いか、またもや看護師が勝手に母の腕をめくり、施設で巻いてもらった包帯を外していった。

包帯を取りガーゼを外したあと、先生が、

「え、何これ?」

とピンセットでつまみ上げたのは、ラップだった。

 

施設の看護師さんによると、表皮剥離をした場合はラップで手当てをするそうだ。

食べ物のお皿に使う、あのラップだ。

湿潤療法といって、以前通っていたデイサービスでも、表皮剥離にはラップを使っていた。

そのときなんか、しょっちゅうラップが必要になるので、わざわざラップに名前を書いて持参していたくらいだった。

 

私が、

「施設の看護師さんにラップ保護をしてもらったんですが」

と言うと、先生はやれやれという表情で、

「今の季節、ラップはあきませんわ」

と嫌な顔をした。

「暑くて汗をかくでしょう。感染症を起こす危険性があるんです」

ということだった。

 

幸い感染症は起こしていなかったが、傷が大きいのでやはり縫合することになった。

急遽、手術のように慌ただしくなる診察室。

銀色のトレイに手術道具みたいなものを並べていく。

「麻酔を打ちますからね、ちょっと痛いですよ」

と先生は大きな注射器を出してきた。

看護師に押さえつけられている母の手先が少し震えた。

医者が痛いというくらいなんだし、相当痛かったんだろう。

そこからは、

「ご家族さんは待っていてください」

と外に出されてしまった。

 

結局、どんなふうに縫ったのか、何針縫ったのか、何もわからない。

ただ、バタバタ移動する看護師の足音や、

「皮膚が折れて重なってるわ! ひっぱって戻せる?」

なんて言う医者の会話を聞きながら、私は泣きたい気持ちになっていた。

 

何回か表皮剥離を経験していたせいで、「またか」とマヒしていたこと。

たいした仕事もしてないのに、休んで実家に帰るのを面倒がって母をすぐ病院に連れて行かなかったこと。

縫うほどのケガをしているのに、母は痛みを訴えることもできずに我慢していただろうこと。

母が黙っていることをいいことに、私はいろんな点で手抜きをするようになっていたこと。

「言ってくれないとわからないし」と私は内心サボる言い訳をしていること。

 

一人で座って待っていると、そんなことが悲しみとなって降ってきた。

 

ふと、相模原で起きた障害者施設殺傷事件を思い出した。

犯人は入所者に声をかけて返事がない人から殺していったという。

話せないからといって痛みがないわけじゃない。

気持ちがないわけでもない。心がないわけでもない。

なのに、今回の表皮剥離で、自分がラクしたいから見て見ぬふりをしていた私は、あの犯人と根本は変わらない…。

 

終わったあと先生から、月曜にまた来てください、と言われた。

縫合後に感染症を起こしていないか、経過観察のためだ。

もともと訪問リハビリのために午前中は介護休暇を取っているけれど、そのあと病院に行くとなると、午後の会社も休まないといけなくなるかもしれない。

でも、今度は「わかりました」と言うしかなかった。