3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

『ゴッホ〜最期の手紙〜』はみんなビンボが悪いんや。

来月、彼氏がオランダへ出張に行くという。
前回のヨーロッパ出張は帯状疱疹にかかっていたので、オフ日もホテルで寝ていたらしい。
だから次こそはオフに観光しようと楽しみにしているようだ。

数年前にオランダへ出張したとき、彼は半日の空き時間を有効活用してデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』を見に行った。

www.mauritshuis.nl

出張の最終日で、午後には出国予定だったから朝一番に出かけた。
開館を待って入ったので数人の来館者しかおらず、少女の真ん前に向かい合わせ。
至近距離で彼女を独り占めできたそうだ。

その後、神戸市立博物館に彼女が来日したとき私も彼と一緒に見に行ったけれど、当然のことながらものすごい人で、行列したうえに遠巻きに見るような状態だった。
並んでいるとき、
デン・ハーグでは、これくらいの近さで、彼女と二人きりやったからね」
と自慢げに語る彼氏。
「またその話! 何回聞いたか…」
とうんざりする私。
まるで、超有名アイドルがライブ会場では大勢の観客がいて遠い存在だけど、かつて彼女の地元で二人で会ったことがあるもんね、みたいなかんじの自慢話。

そんな良い思いをしたせいか、彼は来月のオランダ出張でも美術館めぐりを計画しているらしい。
前回はフェルメールを見たから次はゴッホで、クレラー・ミュラー美術館へ行って『夜のカフェテラス』を見て、時間があればゴッホ美術館へも行きたい、なんて言っている。

「でも、その割にはゴッホをあまり知らないでしょ?」
「そのとおり」

というわけで、11月3日は祝日を利用して、映画『ゴッホ~最期の手紙』を見に行くことになった。

www.gogh-movie.jp

ずいぶん前にSNSでこの映画のプロジェクトを知ったときに、一部分だけ出来上がったトレイラーを見て、油絵が動くという素晴らしさに感動した。
公開されたらぜひ見ようと思っていたので、ちょうどいいタイミングだった。

たまたま公開初日の一回目だったせいで、映画館は満席だった。
30分前だったのに、もう最前列の数席しか残っていない。
席に着くと、私の隣に座ったおじいさんが、
「こんな混んでる映画館、知らんわ、なぁ?」
と話しかけてきた。
ほんまほんま、隣の人に話しかけられるくらい混んでるなんて、なぁ?

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ゴッホ~最期の手紙~』はゴッホの死後、弟テオへ宛てたゴッホの手紙を親族に渡そうとする郵便局長の息子が主人公だ。
ゴッホの最期の足取りをたどっていくうち、その死の謎を探偵のように紐解いていくことになる。
自殺だと言われているゴッホの死は、実は事故による他殺ではないのか…。

よくよく考えたら、二日前に見たヨーロッパ企画の『出てこようとしてるトロンプルイユ』も不遇な画家が死んだあとの話だった。
ただ、トロンプルイユの画家は不遇なままだけれど、ゴッホは知ってのとおり後世これだけの人気画家になった。

だからこそ、
「もうちょっと生きていたら、ゴッホも報われたんじゃないだろうか…」
と思ってしまう。

もうちょっとお金に余裕があればもうちょっと長生きして、もうちょっと長生きしていれば認められる時代が来たかもしれない。
メディチ家級の大金持ちじゃなくても、一人でいいからゴッホを気に入って支援してくれるパトロンがいたら、ゴッホは死ななくて済んだかもしれない。

ふと、
「みんなビンボが悪いんや!」
という高橋留美子の『ザ・超女』という漫画の名ゼリフを思い出してしまった。

芸術の道は貧乏との闘いである。
自分一人の貧乏だったらいいけれど、弟テオのような愛する家族を犠牲にする貧乏だったりしたら、周囲に苦労をかけるだけの才能を自分は持っているのだろうか、と苦悩は深くなる。

全部が全部貧乏のせいかというと、そうとは言えない。
ゴッホが病んでいた心の病と、精神病患者に対する人々の偏見という社会的な問題もある。
でもそれだとて、もしかしたら金銭的な余裕さえあれば、何かが変わった可能性はないだろうか、と思わなくもない。
差別的な人たちは「弱いものいじめ」が好きだから、金持ちの病人より貧乏な病人をいじめたがるものだから。

今や100億以上で落札されるゴッホの絵の、何万分の1でもいいからタイムマシンで送金してあげられたらいいのに…。

matome.naver.jp

ちなみに、油絵で描かれた映画について、最初は本当にびっくりしたし、ところどころ登場する名画と同じシーンに「おおっ!」とうれしくなったけれど、正直言ってストーリーを追うのには不向きだと感じた。
Youtubeで見る予告編程度なら集中力が続く短さだからいいけれど、長編となると気が散ってしまう。
話がまるで頭に入らなかった。

映画は映画、絵画は絵画。

死の謎を追うミステリー仕立てなんだけれど、一人一人に話を聞いていくかんじが、なぜかファミコンの『ポートピア連続殺人事件』を思い出させた。
油絵の名画を前にドット絵を思い出すなんて失礼千万。
ていうのは、いくら動いても平面に感じるからかな。
ストーリーを味わうには普通の映像のほうがいいかも、と身も蓋もない感想。