3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

母の入院生活は不安だらけ

金曜日に帰宅ラッシュの中で実家に帰るのは妊婦にはつらいなぁ、と思っていたところ、思いがけず母が入院してしまったため、金曜夜に帰る必要がなくなった。

正直、母の入院で私にかかる負担が格段に減った。

私にラクをさせてあげようと、母が望んで入院したわけではないだろうけど、その偶然に胸が詰まる。

金曜日の夜はダラダラしながら過ごし、病院で寝ている母のことを考えた。

ひとりぼっちで寂しくないだろうか…。
テレビもラジオもない中で退屈してないだろうか…。
寒かったり痛かったりしても、誰にも気付いてもらえずに、つらい思いをしてないだろうか…。

看護師さんは医療的な処置はしてくれても生活の質までは見てくれないから、不安な気持ちになる。

そんな不安を抱えたまま眠ったら、こんな夢を見た。

土曜日に実家に帰ったら、母が一時帰宅していた。
「家に帰れてうれしいわぁ」
と母が言う。
たぶんこれが、母が自宅で過ごせる最後の時間となるだろう。
「今日はゆっくりしたらええやん。今晩は自宅に泊まって明日戻りますって、私病院に電話しとくわ。明日、リフトの介助だけ誰かに手伝ってもらえるように、それも電話しとく!」
と、私は張り切る。

病院に電話をすると、
「入院患者が外泊するときは、別途5,000円の追加料金がかかりますが、よろしいですか?」
と言われ承諾するが、費用が安くなるならともかく、高くなるのはおかしい制度だよなぁ、と不満に思う。

「おうちだと、お母さんが好きなものを食べられるからいいよね」
と言いつつ、私は母にメイバランスのドリンクを飲ませる。
飲み込んだ母はいきなりむせる。
私は母を後ろから抱きしめながら背中を叩き、
「あかんよお母さん、ここでのどを詰まらせたらまた病院に戻されるよ!」
と必死になる。

目が覚めたら、神戸の私の部屋。
母が一時帰宅できるわけないし、しゃべれるわけがない。しかもお金の話が出てくるという、私の無意識のケチぶりよ。


口からの食事再開

土曜日、病院に行くと母は眠っていた。
毎日面会に来てくれている父は、
「いっつもこんなんやで」
と言う。

良いのか悪いのかわからないが、ずっと寝ているなら孤独や退屈を感じることもなさそうだ。
母を不憫に思っていた私の不安は杞憂らしかった。

「起きてても退屈やから寝てるのん? 会いに来たんやから起きてぇな」
と母を起こすけれど、目は開かない。
ただ、入院直後の状態とは違い、名前を呼べば目をつぶったまま「あー」と返事はする。
全く眠りっぱなしというわけではなさそうだ。

看護師さんに尋ねると、口からの食事が始まっているという。
「まだお楽しみ程度なので、主な栄養は点滴で摂られていますけど。今日は主食2割、副食9割というところです。むせもなかったそうですよ」

食事というのは最後のエンターテイメントだ。
口から食べられて、「美味しさ」を感じられるなら生きている価値がある。

「鼻のチューブはまだ使ってるんですか?」
と尋ねると、薬は鼻から流し込んでいるらしい。
チューブは鼻から胃までつながっていて、強制的に薬やお水を流し込んでいる。
「苦しくないんですかね?」
と聞くと、
「出し入れするときはつらいですけど、一旦入れてしまえばさほど違和感ないと思いますよ」
と看護師は言う。
昨年私は健康診断で鼻から胃カメラを入れたのだけど、入ったあともずっと苦しかった。
だから、入れたあとは違和感ないなんて本当にそうかなぁ?と疑ってしまう。
ただ、「ずっとあんなもの鼻に突っ込まれてかわいそうに」と思い始めると、また私自身の気持ちがふさいでしまうので、とりあえず看護師の言葉を信じることにした。


母が笑った

日曜日、病室に行くと母がいない。
探すと、車イスに乗せられてナースステーションにいた。
姿勢の変化をつけ、起きている時間を長くするために、そうしてもらっているのだろう。

看護師に声をかけ、談話室に移動させてもらった。
「お母さん、来たよ」
と声をかけると、母が笑った。
「あら、うれしそう」
と看護師が言う。
だいぶ入院以前の様子に戻ってきた。

4テーブルしかない談話室は入院患者と家族で込み合っていて満席だったけれど、私たちが行くと、ある家族が席を譲ってくれた。

テーブルに父と私と、車イスの母。
私はひとしきり母に話しかけるけれど、返事が返ってくるわけでもないので、一方的な言葉はすぐに弾切れを起こしてしまった。
テレビではピョンチャンオリンピックが放送されており、父は母に話しかけもせず、テレビばかり見ている。

母はほとんどの時間を寝ているせいで、髪がひどい寝癖である。
「そうだ、寝癖を直してあげるよ」
とブラシとたまたま持っていたスプレーを使って母の髪を整えた。
それだけで、ずいぶんまともな見た目になった。

「ちょっと直しただけで、すごくかわいくなったよ。ね、お父さん、お母さんかわいくなったでしょ?」
「ほんまや」
そう言われると母はうれしそうに、「はは」と笑った。
自然な笑顔。昨日と今日で最も良い反応が見れた。

週末しか様子を見に行けないので、心配はいろいろある。
父は毎日行ってくれているものの、本当に顔を見るだけだ。
持参のオムツが切れていたり、リハビリや食事の状態が変わっていても、父は気がつかない。

入院生活はまだまだ不安だらけだけど、気持ちに折り合いをつけていくしかない。