父にお願いする不安
母の保険証類や診察券などは、ジッパー付きの透明バッグにまとめて入れてある。
とにかくそれを持ち出せばいいようにまとめてあるのだ。
少し前のことだが、父に母の入院費の支払いを頼んだ。
支払いの際には、保険証と特定疾患受給者証と、特定疾患の自己負担限度額管理表の3つが必要だけれど、いつもの透明バッグとお金さえ持っていけばいいので、難しいことではない。
これまで何度もそういう手続きは父にお願いしている。
わからなかったら、袋ごと係の人に渡して、
「この中に入っとうから、どれか見てみて」
と探してもらうようだ。
ところが、支払いに行く前、父から電話がかかってきた。
「お母さんの障害者手帳がないんや」
「障害者手帳? 袋の中になかった?」
「ない」
「おかしいなぁ、何でも大事なものは全部あの中に入れとんやけど」
「ないで」
障害者手帳なんてめったに取り出したりしないし、袋にないなんて考えられないけど、今必要なものではない。
「まあええよ、次に帰ったときに探すわ。入院費の支払いに障害者手帳はいらんからね。要るのは、保険証と特定疾患受給者証と限度額管理表だけやから。それはあるよね?」
「ある」
「ほんならお願いしますよ」
なんかおかしいと思った
どうして障害者手帳がないんだろう、しかも、なんで父はそんなことで電話をかけてきたんだろう、といぶかしく思っていた。
その疑問は、のちほどすぐに判明した。
「支払いに行ったらな、保険証の期限が切れてます、言われたんや」
「はあ? 袋の中にはちゃんと新しいものを入れとうはずやけど? お父さん、どれを持って行ったん?」
つまり、だ。
いつもの透明バッグがいつもの引き出しに見つからず、父は引き出しを探し回った挙げ句、奥にしまっていた去年の保険証と受給者証をわざわざ引っ張り出してきて、それを持って行ったのだった。
特定疾患の限度額管理表は、ページが埋まるまで使う仕組みなのだけど、今の管理表のページがなくなったら使おうと置いておいた新しいものを持って行ったらしい。
「障害者手帳がないんじゃなくて、いつもの袋がなかったんやんか。なんでそう言うてくれへんかったん!?」
前回使ったとき、ちゃんといつもの引き出しにしまわず、紙袋の中に入れっぱなしだった私も悪い。
けれど、父が電話で正しく問い合わせてくれていれば、私だって袋の在りかを伝えられたはずなのだ。
もどかしくて、イーーーっとなる。
病院側はそんな期限切れの保険証でも支払いを受け付けてくれたようで、「支払い」という点では父のミッションは達成した。
けれど結局、正しい保険証を見せにいかないといけなかったり、間違って使った新しい管理表について確認をしないといけない。
これじゃ60点だよ…。
病院の窓口で正しい保険証を見せ、ついでに限度額管理表についても尋ねると、基本的にはページ最後まで使いきるのがルールだという。
使いかけの管理表ページがまだ余っているのに、新しいものに書いてしまった場合はどうすれはいいのか尋ねると、
「健康福祉事務所でないとわかりませんねぇ。訂正印を押して書き直せと言われるかもしれません。過去にそう言われた方もいました」
と言う。
仕方ないので、後日、父に現物を持って健康福祉事務所に行ってもらった。
回答は、新しいものを使っても問題ないとのこと。
結果オーライ。
でも、こんな行き違いがあると、不安が募る。
(ちなみに、期限切れの保険証類はそのあと全部シュレッダーをかけて廃棄した。)
転院先のレンタルセット
私が母のお見舞いに行けるのが土日だけなので、今は身の回り品のレンタル&交換セットを利用している。
パジャマ、タオル、バスタオル、歯磨きセット、スリッパのセットで、1日350円。
それのおかげで、洗濯物を持って帰る、持ってくるということがなくて大変助かっている。
ところが、転院先の病院ではパジャマのレンタルはあるものの、タオルがなくて、持参して定期的に洗濯してくださいと言われた。
父が毎日お見舞いに行くと言ってくれているし、一応洗濯くらいできるから、父にお願いはするものの、すごく不安だ。
保険証の件のように、こちらが思いもかけないことをしでかす可能性がある。
それに、父はしょっちゅう、
「洗濯機が終わった後、干し忘れて、翌日干す」
ということをやっている。
年々嗅覚が鈍感になって、洗濯物がひどく臭くても、
「匂わへんなぁ」
と平然としている。
反省する気持ちがないから、いくら注意しても直す気がない。
母の入院のタオルも、きっと雑菌臭をプンプンさせてしまうに違いない。
それに、ふと、
「もし父も体調を崩して病院に行けなくなったらどうしよう」
と不安になってしまった。
親戚も高齢化しているので、頼むにも気が引ける。
そう考えると、誰も頼れる人がいないことに気がついた。
これまでは介護保険のサービスでなんとかなってたけど、入院中となると介護サービスが受けられない。
タオルの洗濯なんて、こんな簡単なことがこんなにも悩ましい。