みうらじゅん&いとうせいこうの「ザ・スライドショー」も20年。
演芸とか演劇とか、いろんなものを見に行く。もちろん、お笑いや落語、コメディも見る。
けれど、お腹がよじれるほど笑って、ツボに入りすぎて倒れ込んでも笑いが止まらなかったのは、あとにも先にもみうらじゅん&いとうせいこうの「ザ・スライドショー」だけだ。
「ザ・スライドショー」というのは、みうらじゅん、いとうせいこう、そしてスライと呼ばれるスライド機の2人+1台をロックンロール・スライダーズと呼び、みうらじゅんが集めてきた写真のスライドを見せるトークショーのことだ。
私が見に行ったのは2012年の『ザ・スライドショー12 みうらさん、今度は見仏記SPかよ!』だった。
あんまり面白かったので、お土産に過去のDVDを買ってしまったくらいだ。
お土産と言えば、スライドショーでは毎回、観客に「そんなの要らないよ!」とツッコまれるためのお土産が渡される仕組みになっていて、「12」では特大の3Dピクチャーをもらった。
A3サイズのうえ硬くて丸められないので、持って帰るときも邪魔になったし、部屋でも収納場所がなくてずっと邪魔になっている。
狭い部屋なので放置していても目に付いてしまうのだが、眺めて美しい二人ではないので、心底不要なお土産だったな、と思う。
今回その「ザ・スライドショー」が20周年を迎え、記念の映画ができたらしい。
ちょうど先週、その映画『ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密』を三宮の国際松竹でやっていたので見に行った。
映画 ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密
三宮近辺は火曜日がレディースデー。
てっきり1,100円だと思い込んで窓口で1,100円だけを出し、窓口スタッフが受け取らないのでイライラしていたら、
「1,800円です。この作品は一律料金ですので」
と言われて恥をかいた。
何よケチ!(←というほうがケチなのだが。)
シアターの入り口で、お土産を渡された。
記念のマグネット。
ああ、それで一律料金だったのか。
映画はこれまでの軌跡と二人のインタビューで構成されていた。
「『レジェンド仲良し』の秘密」というサブタイトルどおり、二人が恋人のごとく仲がいいのはよくわかったけれど、「ザ・スライドショー」本体の面白さにはかなわない。
「ザ・スライドショー」を見たことがなく映画を初めて見る人には、残念ながら魅力は伝わらないだろう。
驚いたのは20年という年月で二人がえらく歳をとったことだ。
「ザ・スライドショー」が始まった頃の映像なんか見ると、二人の若さに驚愕する。
まずみうらじゅんの声の違いにビックリするし(昔は今ほどの笑福亭系ダミ声ではなかった)、いとうせいこうなんてメガネと髪型の印象が強いせいもあるだろうけど別人みたいだ。
若いほうがかっこいいかというとそうでもなくて、若いときのほうが二人ともアクがあって胡散臭く、今のほうが穏やかで好ましいかんじがする。
いい歳の取り方をしている、ということなんだろう。
最近よく20年くらい前のことを思い出す。
ちょうど自分が20歳くらいだったから、余計に感慨深いのかもしれない。
映画が始まる前、『T2 トレインスポッティング』の予告編が流れて鳥肌が立った。
そうか。これも20年か。
自分たちの世代を代表する映画が『トレインスポッティング』だった。
前作と同じく、UnderWorldの『Born Slippy』が流れる。
20年前に20歳過ぎだったかつての若者には、胸が締め付けられるほどせつない。
倍を生きてきて、私たちはいったいどこへたどり着いた?
話をみうらじゅんに戻そう。
20年前はみうらじゅんもまだ地下にいた。
今はマルチタレントみたいになっているけど、当時の主な肩書は、漫画雑誌『ガロ』の漫画家、だけだったと思う。
その頃、みうらじゅん、根本敬というガロ系人気漫画家2人のWサイン会が京都の書店で開催された。
私は根本先生のファンだったので、京都まで足を運んだのだった。
サイン会参加者の列はATM式のフォーク並びになっていて、最初は一列に並び、直前にみうらじゅん列か根本敬列に分かれる仕組みになっていた。
列に並ぶと、私たちの後ろに中高年女性3、4人がやってきた。
いかにも関西のおばちゃん、といったグループで、ぺちゃくちゃ賑やかにおしゃべりをしている。
ほかの参加者は、いかにも『ガロ』読者といった若者ばかりなのに、おばちゃんグループは明らかに異質だった。
何かと間違ってるんじゃないかなぁ、漫画家ですよ、演歌歌手とかじゃないんですよ、と後ろを振り向いて教えてやろうかと思いつつも、おばちゃんたちはひっきりなしにおしゃべりしいるので声もかけられなかった。
列が二つに分かれるときがきて、私は根本列に、おばちゃんたちはMJ列に分かれた。
私が根本先生にサインをしてもらうタイミングと同じくして、おばちゃんたちはみうらじゅんに対面した。
じゅんちゃ~ん、とおばちゃんたちが口々に話しかけだし、センターの女性が何か大きな菓子折りを差し出した。
すると、みうらじゅんが、
「根本さん、根本さん」
と、私のサイン途中の根本先生に声をかけた。
「根本さん、これ、うちのオカン」
私の後ろに並んでいたのは、みうらじゅんのオカンとそのお友達だったのだ。
自分の息子のサイン会に並ぶというのも、いかにもみうらじゅんの母という感じがする。
ときどき、みうらじゅんのトークの中に両親、特に母親の話が出てくる。
一人っ子で両親の愛情をたくさん受けて育ったらしい。
ミカンを食べるときに、お母さんが皮から袋まで全部むいてくれるので、大人になるまでミカンのむき方がわからなかった、というエピソードがあるくらいだ。
みうらじゅんの著作に『「ない仕事」の作り方』というのがあるが、「みうらじゅんの作り方」があるとするなら、お母さんの愛情が大きな要素なんだろうなぁと思ってしまう。
私も一人っ子だから、そのかんじがなんとなくわかる。
ちょっとくらい他人と違っていても、変わった趣味があっても、親が許してくれる。
他人がどう思おうと親は受け入れてくれるので、伸び伸び育ってしまうのだ。
それは一般的に「甘やかし」というけれど、他人に迷惑をかけない程度ならそれもいいのかもしれない。
そういえば、兵庫県が生んだアバンギャルドのスーパースター横尾忠則も、徹底的に甘やかされて育ったらしい。
ということは、こういう法則があるというわけだ。
甘やかされると人は変わった人に育つ。
子育て中の皆さん、その点じゅうぶん覚悟してお子さんを甘やかしてください。