3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

男性は家族との会話が短い場合に生命予後が短い

ジェロントロジー、日本語にすると老年学という学問があって、その講演会のレジュメを見せてもらう機会があった。

一言でいうと「いい感じに老いるには?」みたいなことの研究で、医療や心理学や社会学やいろんなことが包括されているらしい。

 

その資料の中で、ほお、と思ったのが、ある調査によれば、

「男性は家族との会話が多いほうが、女性は家族以外の人との会話が多いほうが元気で長生きする」

らしい。

 

それを読んだとき、私は、

「男のほうが面倒くせえ!」

と思ってしまった。

 

ご近所やサークルでお友達と交流して元気になるのがお婆さん。

家族にウザがられながらも、家庭で団らんしたいお爺さん。

そんな構図が見えてくる。

 

家族以外の人、外の世界は無限に広がっているが、家族には限りがある。

「寂しいならどっか行って、友達見つけてきなよ!」

という理屈が、お爺さんには通用しにくいわけだ。

 

ああ、面倒くせえ!

 

だけど、そんな統計を見せられては、私も父と会話してあげなきゃいけないかな、と思ってしまった。

 

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そんな昨日。

実家に帰って、父のヘルパーさんの日誌ファイルを読んだ。

ヘルパーさんは、毎週火曜日朝8時に、ゴミ捨ての手伝いに来てくれている。

 

父は脳梗塞の後遺症で足をひきずって歩いているので、大きなゴミを持って歩けない。

それがヘルパーさんに来てもらっている表向きの理由だが、本当の理由は、父が朝一人で起きられないことにある。

昔からだが、夜中に寝付かれず、朝方から眠りに入ってしまうので昼前まで寝ているのだ。

典型的な夜型ニート生活である。

ボケてきたら夜中に徘徊しちゃうパターンである。

 

鍵をロック式のキーボックスに入れて、もし父が起きていなかったら鍵を開けて家に入ってください、ということにしているが、

「チャイムを押しても反応がありませんでしたので、鍵を開けて中に入らせていただきました」

と毎週記載されている。

そして父は、ヘルパーさんに起こされるまで眠っている。

 

「起こされんように頑張ろうと思うんやけど、あかんな」

と父は言う。

「目覚まし使ってないの?」

「かけとっても、起きられる日と起きられへん日と半々や」

「半々でも効果があるんやったら使えば?」

「それが、目覚ましかけるんを忘れるんや」

 

そして毎週ヘルパーさんに2階の寝室まで来てもらって、起こされるわけだ。

 

「今週もまたヘルパーさんに起こされてたね」

と私が言うと、

「昨日の夜はナポレオンやったんや」

と父が答えた。

 

意味がわからない。昔からだが、父は日本語がメチャクチャすぎるのだ。

けれど、ジェロントロジーの件があるので、いつもみたいに「はあ? 何言うてんのアホか」と切り捨てない。

「ああそう、昨日はナポレオンやったんやね」

と受け流した。

ナポレオンのテレビかなんかを見ていて夜更かししていた、ってことだろう。

 

今朝も、父は昼前に起きてきた。

「お母さん、もうデイサービス行ったん?」

と尋ねるので、

「何時やと思ってるのよ、とっくに行ったよ」

と答えると、

「お父さんは昨日ナポレオンやったんや」

とまた言う。

「ナポレオンは一昨日でしょ」

と指摘すると、

「一昨日もやけど、昨日もや」

と答えた。

連続ドラマか? いや、昨日のテレビにナポレオンの番組などなかった。

いよいよボケてきたのか?

 

昼食を食べるとき、会話もなかったので、どうでもいいと思いつつも父に尋ねた。

「その、ナポレオンって何なん?」

「何って?」

「いやだから、夜にナポレオンって。ナポレオンの、何?」

「何って何や?」

「映画?ドラマ?ドキュメンタリー?」

「ドキュ…? 何の話や?」

「だから、ナポレオンって何なんよ!」

「ナポレオンは、皇帝になったフランスの軍人やないか!」

「そんなこと聞きたいんちゃうわ!」

 

会話がまるでかみ合わない。

わけのわからないやり取りが続き、最終的にやっと理解できたことには、

「寝付かれなくて3時間程度しか眠っていない」

ということを、父は「ナポレオン」と呼んでいたということが判明した。

 

わかるわけねーだろ!!

 

ジェロントロジーの専門家さん、これでも家族が会話しなきゃダメ?