不思議なマッシュアップの国のレキシ
私はある時期、NHKの幼児番組『ハッチポッチステーション』に夢中だった。
番組ではグッチ裕三が人形たちと一緒に、童謡と洋楽の名曲をミックスした曲を歌っていた。
例えば、『大きな栗の木の下で』×『YMCA』とか、『犬のおまわりさん』×Queen『ボヘミアン・ラプソディ』とか、ロシア民謡『一週間』×Deep Purple『Smoke on the Water』とか。
混ざり具合のセンスが抜群だったし、アーティストのモノマネやMVのコピーをしているのも面白かった。
アメリカのドラマ『glee/グリー』を見ていたら、2つの曲をミックスするマッシュアップという手法が出てきて、
「ハッチポッチで私が好きだった、メロディやコード進行を混ぜる遊びはマッシュアップというのか」
と知った。
木曜日、神戸国際会館こくさいホールでレキシのライブを見に行ったのだけれど、これがまた、マッシュアップ天国だった。
厳密な意味でのマッシュアップではないかもしれないけれど、とにかく、音楽で遊び倒した3時間だった。
ツアータイトルは「不思議の国のレキシと稲穂の妖精たち」。
まず冒頭に映像が流れる。
レキシ扮する若君が、父上(いとうせいこう)と母上(みうらじゅん)から家督を譲られる。
今回は‘家督’がテーマのひとつでもある。クルマのCMで使われている新曲『KATOKU』のツアーだからだ。(ちなみにこのMVはジャーニーのパロディらしい。)
家督を譲られる際に家宝も渡される。
ひとつは見仏記でおなじみの‘つっこみ如来’。
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もうひとつがオルゴール付き(らしい)玉手箱。
玉手箱は元服するまで開けてはならない、と父上に注意されたにもかかわらず、若君はふたを開け、不思議の国、つまり神戸へワープしてしまう。
そして、ステージ上の玉手箱からレキシ登場!というオープニング。
不思議の国では何が起きるかというと、曲をやっている途中で別の曲に変わってしまうのだ。
完全なマッシュアップだったのは、『RUN 飛脚 RUN』と『妹子なぅ』と『真田記念日』の自作3曲。
それ以外は、レキシの曲が途中で他人の曲に変わってしまう。
『刀狩りは突然に』の途中から、なぜか『ラブストーリーは突然に』へ。
「不思議~! でも不思議の国だからね」
そんな調子で、『チョコレイト・ディスコ』を歌い、『タッチ』を歌い、『September 』(Earth, Wind & Fireのほう)を歌い、『大都会』、『survival dAnce』、『涙のリクエスト』、『君がいるだけで』と、数えきれないくらいの曲が登場した。
とにかく何でも歌う。『前前前世』も『恋』もとりあえず歌う。
終始ふざけっぱなし。
しかしそのふざけようは全力。
全力で、エンターテインメントを尽くしている。
「ダサく手を振って!もっとダサく!いいよ!すごくダサいよ~!」
と煽られれば皆が腕を振る。
客席にイルカ(の浮き輪)を投げたり(『KMTR645』…大化の改新、蘇我入鹿でイルカね)、俵を回したり(『年貢 for you』)、稲穂を振ったり(『狩りから稲作へ』)と、オーディエンス参加の演出も多い。
アンコール後はバンドメンバー全員で稲穂の妖精の衣裳で登場するという徹底ぶりだった。
しかも、演奏がとにかく良かった。
2年前もレキシが神戸へ来たときに見に来たけれど、演奏はさほど…、と思っていたら、今回は音楽のレベルが格段に上がっていて素晴らしかった。
こりゃ立ち見が出るはずだわ、と感心してしまった。
入り口に記念撮影用のレキシ顔ハメが置いてあったけど、すごい行列で諦めたほどだ。
(仕方なく撮ったのがポスターとのぼり。)
ふざけてるから笑いにばかり持っていかれるけど、レキシの曲は本当にいい曲が多い。
マッシュアップするにしても、音楽の豊富な知識と技術があればこそ。
面白い歌詞をのせるにしても、言葉選びのセンスがあればこそ。
ライブ後、改めて楽曲の良さを感じて、レキシを聴き直している。