旅に持っていく武器
ようやく『深夜特急』を最後まで読み終えた。
読む前まで、どうして時代を超えて人気があるのだろう、と思っていたけれど、その理由のひとつはこの作品が「紀行文」というより「冒険物語」だからだと思った。
旅のハイライトは名所旧跡や名物の紹介ではなくて人の営みだったりするし、旅を通して主人公も変化していく。
通貨だとか治安だとかIT環境だとかは当時と今とでは全く変わってしまっただろうけど、書かれていることが全く古びないのは、人々とのかかわりや主人公がぶつかる困難さに焦点が当てられているからだ。
冒険談というのは、いつだってワクワクさせられるものだ。
ユーラシア大陸を西へと向かう冒険談、といえば、西遊記である。
西遊記が大好き、と自称している割に、これまであまり亜流の西遊記作品には触れてこなかった。
諸星大二郎の『西遊妖猿伝』を読んだことをきっかけに、ほかの亜流作品も読むべきなんじゃないだろうかと思い始めた今日この頃、ちょうどテレビアニメ『最遊記 RELOAD BLAST』が始まった。
人気マンガ『最遊記』シリーズの最新作である。
『最遊記』も今年で連載開始20年になるらしい。
実は、これまで『最遊記』に対して、
「どうせ『ちがう!こんなの西遊記じゃない!』って腹が立つような内容でしょ」
と偏見を持っていて、全く見てこなかった。
20年経って、初めて触れる『最遊記』。
しかも『RELOAD BLAST』のアニメからという中途半端さ!
すごい今更。
それでも、いざ見てみたら、意外とよかった。
そりゃあ西遊記ファン的には、なんで玄奘三蔵が破戒僧なの、とか、なんで八戒と悟浄の性格が逆なの、とか、なんで哪吒太子の読み方が「なた」じゃなくて「なたく」なの、とか、気になるところはいろいろあるけれど、ちゃんと西遊記の世界が再構築されているのが感じられるので、嫌な気持ちにはならない。
オタク心を掴むよう仕掛けられているとわかっていても、やっぱりぐっとくる巧妙さ。
ただ唯一ひっかかるのが、三蔵が持つ武器が拳銃だということだった。
現代的だとかそういう意味じゃない。
銃には弾薬がいる。弾薬は消耗品だ。
消耗品が必要な武器なんて、長旅に不向きじゃないかと思うからだ。
ファイナルファンタジーやバイオハザードが「すごい!」と思ったのは、矢や弾が消耗していくところだった。
戦っても矢や弾が減らないで無数に出てくるのは、やっぱりリアルじゃない。
三蔵がどのように回転式拳銃の弾薬を補充しているのかは知らないけど、武器の選択肢として拳銃はありえないと思ってしまう。
じゃあ、長い冒険に出るのに最も適した武器は何か。
何と言っても、悟空の如意金箍棒は小さくして持ち運びができる点で申し分ない。
最強にして最高だ。
けれど、もしサイズ変更ができなかったとしても、長旅には棒が最適じゃないかという気がする。
普通に考えると武器は刀や槍が一般的だろうけれど、包丁だって研がないといけないように、刃があるものは手入れが必要なんじゃないか。
一度人を切ると脂肪でベタベタになる、という話も聞くし、雨や川渡りのときに濡れたら錆びることもあるだろう。
岩波文庫の『西遊記(一)』の巻末の訳注ではイラスト付きで武器を説明してくれている。
敵もいろんな武器で挑んでくるけれど、彼らは地元なので、移動のことを考えなくてよい。
ちなみに、上記の図は下記の書籍から引用されているらしい。
子供の頃、マチャアキの『西遊記』が大好きだったが、そのときは私も考えが浅かったので、
「悟空の武器がただの棒だなんて」
と思ったことがあった。
「悟浄の降妖宝杖のほうがデザイン的にカッコいいじゃないか」と。
西遊記では、八戒は九歯のまぐわ、悟浄は降妖宝杖という武器を使っている。
どちらも棒の先に金属がくっついているから、毎日歩いて運ぶのは重そうだ。
それに、持って歩いていて、うっかりぶつかって人を傷つけたり、荷物を壊したりする可能性だってある。
大人になった今、手入れや移動、その他もろもろの実用を考えたら、棒に勝る武器はない、と思う。
歩くときの杖の代わりにもなるし、高いところのものを引っ掛けたりもできそうだ。
ところで、実用ということを考えると、武器ではないけれど、傘というのもありかもしれない。
私も一応女性なので、暗い夜道に一人のときは、
「いざというときは、この傘を武器に戦おう!」
と用心しながら歩いている。
「護身術 傘」でYou Tubeを検索すると、いくつか動画がひっかかったけれど、私が知りたかった女性向けの実践護身術じゃなかった。
護身術っていうか、ストリートファイト、ケンカ用だよね?
んー、本当に実践的で即戦力になるようなものってないものかしら。
…そこで私は考えた!
…これがきっかけに、波野なみ松による傘を使った武術研究が始まった。
彼女は研究と研鑽を重ね、20年にも及ぶ修行の結果、ついにオリジナル拳法である「麗傘拳」を編み出したのだ。
武田鉄矢のハンガーヌンチャクに勝るとも劣らない、あの「麗傘拳」である!!!
奥義は一子相伝…にせず、多くの女性に護身術を伝えるべく、普及に努めた。
その麗傘拳普及の旅は路線バスを使った。
西へ西へと向かい、ユーラシア大陸の果てにたどり着いたとき、彼女はその一生を終えたのだった。(劇終)