3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

「まなびと」の日本語教室「だんらん」で旅を見つけた。

10年ほど前のことだけど、中国語を勉強していた時はよく相互学習会に参加していた。
相互学習というのは、外国語を学びたい日本人と、日本語を学びたい外国人がお互いに教え合うというもの。
日中友好協会の有志が集まる会だとか、神戸国際会館内にある神戸国際コミュニティセンターのフリースペースを使った勉強会などへ、ときどき遊びに行っていた。

最近は土日に動けないのと勉強熱心じゃなくなったのとで、なかなかそういう機会もなくなっていたのだけど、社会福祉に詳しい友達から、「まなびと」というNPO法人がやっている日本語教室を知った。
「だんらん」というその日本語教室は、毎週水曜日の夜に北野でやっているらしく、それだったら私も参加できると思って、連絡してみたのだった。

NPO法人まなびと – 自ら学び、共に学び合い、豊かな社会づくり

Twitterで「ご興味のある方はまず見学からでいいので是非参加してみませんか?」と書いてあるので、本当に気軽に考えていた。
「何時に行きま~す」「待ってま~す」くらいのノリだと思ってメールしてみたら、「必要条件となっておりますので」と大学名や学部を聞かれたのでビビってしまった。
学生さんの団体だったのかぁ…、だったら私なんかは場違いだよなぁ…、と彼らのお母さん世代な私は腰が引けてしまったのだけど、それでも、
「よろしければ見学にいらっしゃいませんか」
と言ってもらったので、せっかくなので見学だけさせてもらうことにした。

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これまで参加してきた外国人相手の会やイベントはゆるいものが多くて、仕切る人もいなければ、時間はルーズだわ、内容はグダグダだわ、という印象があった。
ところが、「だんらん」は全く違う。
まずもって、18時~19時までボランティア(教える側の学生)のミーティングがあり、19時から外国人の生徒さんたちの学習が始まる。
私が会場である北野福祉センターに到着したのがミーティングの途中である18時半だったのだけど、15人の学生さんたちが日本語を教えるときに気を付けるべきことについて発表し、話し合っているところだった。
まずもって、ボランティアが15人もいたことに驚いたし、教える側がそれだけ真剣に考えていることにも驚いた。
日本語の語順に気をつけようとか、単語の難易度に注意しようとか、まるで職員室のミーティングみたいだ。
遊びや趣味のレベルに思えなかったので、
「皆さん日本語教師を目指している方なんですか?」
と質問したら、
「そういう人もいますが、ほとんどはそうじゃないです」
という。
それなのに、みんな本気で取り組んでいる。
今どきの若者、本当に真面目だ。

ミーティングが終わってから、担当の女の子から私に、このプロジェクトの概要についてパワーポイントでプレゼンをしてもらった。(そこからしてちゃんとしてる! うちの会社の社員よりも!)
ボランティアの学生は、それぞれ何かしら役割を持ってプロジェクトにかかわり、自分たち自身の成長の機会にしているという。
担当の女の子は、私のようなボランティア希望者の窓口を担当しているらしかった。
教室の学習は初級、中級、上級に分けられ、外国人の参加者には1回につき500円の参加費をもらっているという。
1回ごとなので、スポットでいつ来てもいいようにしてあるようだ。
なるほど、それなら数か月だけ日本にいるような短期滞在者でも参加しやすい。

意外だったのは、外国人の学習者たちの国籍だ。
JICAのつながりで来ているアフリカ系の人や、大学で知った留学生など、まんべんなくいろんな国の人がいるんだけれど、中国人が少ない。
日本に滞在している外国人の割合を考えると圧倒的に多いはずの中国人が少ないのはなぜだろう。

www.nippon.com

勝手に中国人との相互学習を想像していたので、イメージとギャップがあった。
きっと、働く中国人たちにこの会の情報が届いていないんだろう。そもそも中国人はFacebookTwitterを使う文化がないからなぁ。

そうこうしているうちに外国人生徒たちがぼちぼち集まってきて、私はあるイラン人の若い女性の学習サポートに混ぜてもらうことになった。
男の子の学生さんが彼女の先生らしかった。
初級だと、『みんなの日本語』を使って勉強したりするのだが、この日彼女は特に教材を持ってきてなかったので、
「では、今日はお話をしましょうか」
と、男の子が言うので、
「よかったらこの絵本を見てみませんか?」
と、私は持ってきていた絵本を出した。

www.ehonnavi.net

『和の行事えほん』という、日本の季節ごとの行事とその由来などを解説してある絵本だ。本来は子供向けだけれど、外国人に日本の伝統行事を知ってもらうのにちょうどいいと思い、「だんらん」にプレゼントするために持ってきていたのだ。

3人で絵本を順番にめくりながら、日本の行事とイランの行事の違いについて話した。
絵本は春、3月からスタートする。
季節の始まりについて、日本は4月がセメスターの始まりだけれど、イランはどうかという話をすると、彼女は、
「イランにはイランのカレンダーがあります」
と言った。
イランのカレンダーは、西暦のカレンダーとは異なるものらしい。
何月何日、というのが全く異なるので、イランにいるお母さんと話をするときに混乱してしまうのだそうだ。
そんなときは、いつもスマホに入っているイランのカレンダーアプリで日付を確認しているというので、アプリ画面を見せてもらった。
西暦のカレンダーとの対比があって、西暦何月何日がイランの暦の何月何日になるかがすぐわかる画面になっていた。
ただし、イランの暦はペルシア文字なので全く読めなかったけど。
(参考までにペルシア語のWikiのスクショを。アラビア語とはまた違うらしい。)
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カレンダーなんて、全世界共通のように思い込んでいるけれど、地域が違えば気候も違うし、気候が違えば季節が異なる。
季節とともに暦も変わるし、行事や習慣が違ってくるのは当然だ。
そんな当たり前のことを、日本にだけいると、気づかなくなる。

イランのカレンダーは、1年が四季ごとに4つに分けられ、4つの季節の中には3つずつ月がある。
春の季節は春分の日が1日として始まり、夏の季節は夏至が1日として始まる。
秋の季節は秋分の日が1日、冬の季節は冬至が1日として始まるわけだ。
特に冬至は「一年が生まれる日」として、盛大にお祝いをするのだそうだ。

「日本では、冬至の日は柚子風呂に入ってカボチャを食べるし、春分の日秋分の日はお彼岸と言ってお墓参りをするんですよ」
と私が言うと、イラン人の女の子よりも、日本人の男子学生のほうが「へぇ~」と感心していたのが可笑しかった。

そこで話題がイランのお墓の話になったのだが、墓石は平べったくて、そこにはポエムが書かれているという。
詩は、有名な詩人の好きな詩を刻む人もいるし、自分で作る人もいるそうだ。
墓地に行って、それぞれの墓石に書かれている詩を読むのは楽しい、と彼女は言った。
確かに、私たちが神社の絵馬をめくって読むような感覚で、墓石を読むことで故人が忍ばれるのは面白いかもしれない。
「○○家之墓」だけじゃつまらないし、日本でも詩を刻んだら楽しいかも、と私が言うと、
「HAIKU?」
と彼女が言った。
彼女にとっては、日本の詩イコール俳句らしい。
言われてみれば、俳句なら墓石に刻むのにぴったりの長さだ。
墓石に俳句を刻む文化が日本で流行したら面白いのに、と思う。
さあ、私の墓にはどんな俳句を刻もうか。

その後も、彼女はイランで『一休さん』を見ていたから「てるてる坊主」は知っているとか、私はアッバス・キアロスタミ監督のイラン映画をよく見たとか、お互いにいろんな話をして、楽しい学習時間はあっという間に終わった。

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先日『深夜特急』を読み終え、今『旅する力 深夜特急ノート』を読んでいる。
その序章に「旅を作る」ということが書いてあった。
北野福祉センターは、私の生活圏である神戸市中央区にあるけれど、この日は私にとって「旅」だった。
私はここにいるけれど、よそからやってきた人の話を聞くことで旅をしたような気分になった。
旅人を迎えることも旅を作ることのひとつかもしれない。

残念ながら私は毎週参加する時間が取れないので継続できないけれど、「まなびと」の活動がますます広がることを応援したい。