ドラマでは「誰か気づくだろ」とか言ってたじゃないか。
夏の終わりごろからずっと体調不良が続いていた。
食べないと胃酸が出て気持ち悪くなる、かといって食べると胸焼けする、膨満感でお腹が張る、便秘が続く、便秘薬を使うと下痢をする、サプリメントを飲むとのどにつっかえて食道が荒れる、などなど。
それで漢方薬局に行ってみたりしたのだけれど、症状は良くなったり別のところへ移ったり。
すっきり好調には至らない。
そんな中、先週土曜日にスカパー!の無料放送で「夏の魔物2016」を録画した。
去年のロックフェスのダイジェストで、それにはオーケンもROLLYとユニットで出演していたのである。
母を寝かせたあと、歯を磨きながら一人でゆっくりと録画を見ていた。
歯磨きをしていると、ちょっとだけ吐き気がしたけれど、気にとめなかった。
出番は短い。
終わったらすぐ吐き出そう。
最近ときどき、歯磨きをしながら吐き気がすることがある。
歯磨きで「オエー」ってやってるなんてオッサンかよ。
そう思いながら、歯ブラシをくわえつつダメジャンプをしていると、こみ上げてくるものに耐えられなくなって、慌てて洗面所に駆け込んだ。
オーケンが歌ってるところを私が一時停止するなんて、ふつうならあり得ない。
口をゆすぎながら、ふと不安が横切った。
最近毎週楽しみに見ているクドカンのドラマ『監獄のお姫様』の小泉今日子が爆笑ヨーグルト姫に言ったセリフが脳裏によぎった。
「もしかして、あなた…」
いやいやいやいやいやいや、そんなバカな。
40代になると、女性の妊娠確率は格段に落ちる。
自然妊娠ともなると、ほんの数パーセントだ。
だいたい、うちの母親はずっと子供が欲しくて欲しくて、不妊治療を続けて9年目にしてようやく私を授かった。
健康で若い女性ならいざ知らず、42歳の私がそんな簡単に妊娠なんてするわけがないじゃないか。
漢方薬局の見立て
翌日、漢方薬局に行き、胃のむかつきは治まったけれど便秘は相変わらずだというと、
「胆汁の働きは治まったみたいですが、また症状が変わって、これはね、首の歪みからきていますね」
と言われた。
確かに首も歪んでるのは確かで、ずっと左へ回らないのだけれど。
男性の薬剤師さんなので、あまり詳しくは言いたくなかったけれど、
「生理不順で、長い間来ないんですけど…」
と不安をもらすと、
「首のあたりで流れがストップされて、身体のいろんな不調につながってるんでしょうね。そこの滞っているところがうまく流れだすと、改善されるんじゃないでしょうかね」
という。
確かに、首の歪みが骨盤の歪みにつながり、それで内臓も悪くなる、ということはこれまでいろんな整体の先生たちからも指摘されてきたことだ。
そういうこともあるのかもしれない。
ジムのトレーナーさんの見立て
ジムに行くと、トレーニングを始める前にまず、
「体調はいかがですか?」
とトレーナーさんが尋ねてくれる。
普段なら、今日は腰痛がありますとか、肩こりがひどいですとか、胃が痛くって、などと言って、トレーニングを加減してもらうのだけど、この日は、
「この前からずっと便秘でお腹が張って調子悪い、って言ってたじゃないですか、私。実は…、ずいぶん生理が来てなくて…、もしかして…、とか、思ったりして…。いやまさか。便がたまってるんだと思うんですけどねぇ」
と照れ笑いする私に、トレーナーさんは笑いもせずに、
「いや、あると思いますよ」
とはっきりと言った。
「胃腸の調子が悪いのはストレスかな、とか言われてましたけど、聞くところそれほどストレスの多い職場でもなさそうだし、劇的に何かがあったわけでもないし、体調崩すほどのストレスとは思えないです。一時的なものにしては不調が長すぎるし。ありえると思いますよ。病院行ってちゃんと検査受けたほうがいいですよ」
これまで1年半以上トレーニングに付き合ってもらったトレーナーさんで、しかも同じ女性としてそう言われると、なんだかどんどんそんな気がしてきた。
「いやぁ、でも歳が歳だし、ホルモンバランスが崩れてるだけですよ」
茶化して言ってみたものの、だんだん笑えなくなってくる。
正直、本当にお腹が苦しい。
太ったわけじゃないのに、ウエスト周りばかりがきつくなる。
「じゃあドラッグストアで検査薬を買って、帰ったらすぐ試してみます」
「すぐしてくださいよ!今すぐでもええくらいやわ!」
そう言われて、妊娠検査薬を使ってみたのだった。
そんなバカな。
うそだ、うそだぁぁぁぁぁ!!
親しい友人からのメッセージ
これは何かの間違いだと一人で頭を抱えていたとき、ちょうど友達からLINEメッセージが届いたので、
「実は今…」
とメッセージを返した。
「誰も『あなたまさか…』って言ってくれなかったし!」
と打つと、
「そりゃ、分別あるオトナの女性だから、『うっかり妊娠したんじゃない?』なんて誰も言えないんじゃね?」
と返ってきた。
「それにしても信じられない。今でもまだ便秘じゃないかと思ってるんだけど」
という私に、
と彼女はわざわざ画像で返してくれた。
「わかった、とりあえず、明日病院行って確認してくる! そしたら信じる…」
翌日、会社を休んで産婦人科を受診した。≪つづく≫