3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

胃ろうと転院先の犯罪者

介護や病気がある高齢者が、2〜3ヶ月ごとに病院や老健施設を転々とさせられる、という話を何度か聞いたことがある。
「病院にもう置いてもらえなくて、出ていってくれと言われても受け入れ先がない」とか、そんな話。

ひどいなぁ、どうしてそんなことになるのかなぁ、と思いながら、システムをよく知らないので、いまいちピンと来ないままでいた。

母はいまだ鼻からチューブのまま、最近微熱があるので点滴を受けたりしているけれど、病状は安定している。
今の病院は「急性期病院」なので、これ以上状態が変わらないようになったら退院させられるのだ。
自宅や介護施設に戻れたらよいが、そうでなければ療養病棟のある病院へ送られる。

入院当初は、リハビリが充実している「S病院」を経由して「特別養護老人ホーム」というルートを考えていたけれど、母の食事がままならないことで断念せざるをえなくなった。
すると、ソーシャルワーカーさんから、「できるだけ長く置いてもらえる療養型のK病院」を薦められた。

最初に考えていたS病院は実家からやや遠かったので、お見舞いのことを考えると、比較的近いK病院のほうが安心ではある。

それに、万が一、胃ろうを作ろうということになったときに、S病院は胃ろうを作ることができず、K病院は可能だというのもオススメポイントのひとつだった。

父にそのことを告げると、
「まだ治っとうへんのに、なんで今のままではあかんのや。今の病院はよう看ん言うとんか。よう治さんから放り出すんか!」
と怒っている。(ただし、その場では言わずに家に帰ってから文句を言う内弁慶。)
確かに、医者やソーシャルワーカーさんから、
「うちはキューセーキ病院ですので、リョーヨー病棟のある病院へ移ってください」
と言われても、父が理解できないのもわかる。
私から、そういう仕組みになっているのだと説明するものの、古い頭はなかなか飲み込んでくれない。


胃ろうの対処

ブログを読んでくれた友達から、
「胃ろうを作っても口から食べられるみたいだけど」
とメッセージをもらった。

確かに、そのとおりなのだ。
だから、理想としては鼻からチューブをやめて胃ろうを作り、できるだけ口から食べて、不足分だけ胃ろうで補う、ということができたら一番良いのかもしれない。

ただ、うちの母の場合、口から食べさせるのは介助者にすごく負担がかかる。
食べたあとに喉に飲み込み残しがあれば、吸引器での吸引が必要になる。

入院前でも、自宅で私が食事介助するときは1時間以上かかっていたし、小規模多機能でも40分くらいはかかっていると言われていた。

入所を考えていた特養では、申し込み時に、
「2人のスタッフで10人の利用者さんを看ているので、食事にそんなに時間はかけられません」
と言われていた。
そのうえ、吸引器が使えるのは看護師だけなのだが、夜間になるといなくなってしまう。

だったら療養病棟がある病院で、リハビリとして口からの食事を続けてくれるところがあればよいのだけれど、今の主治医からは、
「たいていのところは、胃ろうがあるなら胃ろうだけになってしまうでしょうね。口からの食事は、手間がかかるだけでなく、誤嚥リスクもありますから。」
と言われた。

「家族が行った時に楽しみとして食べさせることはできますよね?」
と尋ねると、
「頻度がどうかですよね。たまに、となると、飲み込む能力が落ちているので、とたんに誤嚥を起こすでしょう。すると簡単に肺炎を起こしてしまいますよ」
と言う。
言われていることは理解できた。

「胃ろうを作っても、口から食べることに支障はありません」
という、胃ろう入門サイトの解説はそのとおりなんだけど、結局それは、自分の手でお箸やスプーンを使って口に運べて、ちゃんと飲み込める人たちの話なのだ。

おそらく、胃ろうを作る多くの高齢者は、それらができないから胃ろうを作らざるをえないわけで、あべこべなのだ。

理想と現実のギャップ。

自分が母の食事介助に長時間かけていたからこそ、施設や病院が、効率のために胃ろうを作って、リスクを口実に口からの食事をやめてしまう、という、「そうなってしまう、そうならざるをえない現実」はよくわかるのだ。
ただでさえ人手不足の現場で、家族のように世話をしてもらえるなんて思うほど、私も楽観的ではない。


転院先病院での家族面談

月曜日は午前中会社を休み、父と転院先のK病院へ家族面談に行った。

最初に応対してくれたのは、地域連携室の女性スタッフ。
まずは病棟の見学をさせてもらった。
今入院している病院が新しくてキレイなだけに、この病院の古くて暗い印象が目立つ。

足が悪くて杖をつきながら歩く父と、お腹が大きい私。
二人ともゆっくりしか歩けないのに、スタッフの女性はスタスタと進んでいく。
もっとゆっくり歩いてもらえないか声をかけようか迷っているうちにガイドは終わり、あとは母についてのヒアリングと、入院案内の説明。

感じの悪い人ではないし、単にテキパキと説明してくれているだけなのだが、父のような高齢者からすると早口で声のボリュームがやや小さい。
隣で見ていて、こりゃ全然聞き取れてないな、と思ったので、ときどき、
「お父さんちゃんと聞こえてる?大丈夫?」
と声をかけるものの、
「聞いとうで」
と言うだけである。

ときどきスタッフさんから、
「○○はどうされてますか?」
などと尋ねられても、父は、
「え?」
と聞き返し、
「さあ、どうなんかな」
と、私に振るばかりだった。

地域連携室での説明後、院長との面談ということになった。

女性スタッフとは違って、じいさんの院長は高齢者にもわかりやすくゆっくり大きな声でしゃべる。
これだと父も聞き取れているだろう、と安心するものの、大きくハッキリした発声の仕方に、性格の横柄さを感じさせる。

院長は、
「延命治療についてはいろんな考え方がありますが、うちは、胃ろうを作って、最後まで食事をするという方針です。一口でもね、食べられるように食事を続けます。鼻から管を通してますと、本人も苦しいし、どうしても飲み込みが悪くなりますから」
と言う。

「口から食べるために、胃ろうを作るんです。いいですか」
と力説する院長に、
「胃ろうを作ると、口からの食事をやめる病院や施設が多いと聞くのですが…」
と私が口をはさむと、院長は突然声を荒げて、
だーかーらー、口から食べるために、胃ろうにするって言ったでしょう!
とムキになった。

あ、こういうジジイ、わかるわ。
自分の言いたいことを一方的に説明して、相手がどう思ってるか受け付けないタイプ。
それ以降、こいつとは“対話”はできないな、と思い、もう黙ってしまった。

本当に、胃ろうを作っても最後まで口からの食事を続けてくれるなら、願ったりなことなのだから。


その院長は鬼畜犯罪者

ソーシャルワーカーさんから「転院先にK病院はどうですか」と言われたとき、私の頭によぎったのは、十数年前にこの病院の院長が女子高生への強制わいせつで逮捕された事件だった。

インパクトが大きかったのはその院長というのが、姫路市立美術館に寄贈のコレクション室を持っているほどの西洋絵画のコレクターでお金持ちの名士だということだ。

常設展示室:姫路市立美術館

それだけに私も記憶に残っていたし、このご時世、検索すれば5chに転載された記事がすぐに出てくる。

既婚女性板のスレッド | itest.5ch.net

だとしても、ずいぶん前の事件だし、さすがにその犯罪者はやめているだろう、と思っていた。

だから、家族面談で院長に会うとき、病室の前に「名誉院長」として見慣れた名前が掲げられているのを見て驚いてしまった。

えっ?!まだ医者やってるの?!
しかも名誉院長って?!
不名誉院長だろーがっ!!

そしてその不名誉犯罪者院長が、
「口から食べさせるために胃ろうにする」
と言い張った医者である。
あ、私、本物の犯罪者としゃべったの初めてかも。

私は本来、過去に犯罪歴があっても、誰だって人生をやり直せるチャンスをもらうべきだと思っている。
更正しようと頑張っている人が、差別や偏見にさらされるなんて、あってはならない。

…けど!
カネで示談にして、のうのうと院長を続けてる場合は別!!!!

そんな人間の話が信じられるだろうか。

「できるだけのことはします。大事なお母さんですからね」
と言われたって、
「人様の大事な娘さんをテゴメにしといて、どの口が言うか!」
と思ってしまう。

考えれば考えるほど、不安ばかり募る。

ソーシャルワーカーさんに、
「本当に、他に転院先候補はないんですか?」
と電話で尋ねてみたけれど、
「いやぁ…なかなか…難しいです…」
と電話口で困っている様子がありありとうかがえた。
ソーシャルワーカーさんが親身に相談にのってくれているのはわかるから、本当に他の受け入れ先はないんだろう。

来週、転院する予定となった。

ケアマネさんにも相談したけど、最近は病院の体制が変わって、以前より良くなっていると聞く、ということだった。
院長は犯罪者だけど、他の医師や看護師に期待するしかない。