3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

みんなかつては子どもだった

なかなか咳と鼻水が治らないサトイモ

土曜日に小児科を受診し、

「鼻風邪ですね」

と言われたものの、幼稚園はRSウイルス感染者も出たし、そもそもこのご時世で咳をするのは非常に感じが悪い。

 

小児科の受診も大変だった。

前回、

「3歳以上はマスクを着用してください」

と看護師さんに注意されたので、病院に入る前にマスクをつけさせた。

「びょういんでのおやくそく」

として、

「びょういんではマスクをつける。はしらないで、よばれるまでしずかにじっとまつ。わかった?」

「わかった!」

ちゃんと返事をしてくれたけれど、我慢できたのはほんの数秒。

すぐにもぎ取ってマスクを投げ捨てた。

サトイモの「わかった」は、ただのオウム返しにすぎなかったんだとガッカリする。

 

そこからは、

「マスクつけなさい」

「マスクはいや!」

「つけなきゃいけないんだよ」

「マスクしたくない!」

の繰り返し。

 

走って逃げ出そうとするのを捕まえて、

「そんなにマスクが嫌ならタオルでも被ってろ!」

とタオルを頭にかぶせて力づくで押さえつけた。

「マスクはいや!マスクはいや!」

と泣き叫んで暴れるサトイモ

左腕で押さえ込みながら、右手で問診票を書く私。

 

あとで夫にその話をしたら、

「ほかの人に迷惑がられへんかった?」

と尋ねるので、

「別に。小児科の待合室なんて、泣いてる子がいて当然でしょ」

と私は返した。

これが大人の病院の待合室なら、気がとがめるところもあったかもしれないが、小児科なんてお互い様。

 

そう考えたあと、大人が大半の場所だったとしても、

「お互い様でしょ」

と平然としてられる世の中なら気が楽かもしれないなぁ、と思った。

 

ときどき、「子育てをしない人」が「お互い様」を受け入れないという話を耳にする。

もしかしたら、かつての私もそうだったかもしれない。

でも、子どもの問題は子育てと関係ない。

みんなかつては子どもだった。

だから、みんなお互い様なはずなのだ。

子どもがうるさい、と言う人には、あなたの子ども時代、本当に一度も騒がなかったんですか?と問いたい。

騒ぎたくても騒げなかった、淋しい子ども時代の気の毒な人かもしれないが。

 

ボクが幼稚園のとき

もう職場復帰して2か月が経つが、いまだに復帰後初めて会話を交わす人がいる。

「どう?元気?」

と聞かれて、

「私自身はぼちぼちやってますが、子どもがなかなか…」

と言うと、子育て経験者の女性はスイッチを押されたように自身の子育て経験談を語り出す。

 

道向かいにある保育所なのに、子どもが家に帰りたがらず、お迎えから帰宅まで毎日30分以上かかっていた人。

オムツがとれたのはいいけれど、保育所の昼寝で毎回オネショするから、帰りには毎日保育所の敷き布団をお土産にもらい、大荷物なうえに洗濯が大変だった人。

早く職場復帰したくて赤ちゃんから保育所に入れたけど、今となってはもう少し長く育休を取って子どもと過ごせば良かった、と後悔してる人。

みんなそれぞれに苦労し、いろいろな思いを抱えているのだ。

 

そんな中、昨日、階段でM部長とすれ違った。

かつて私の上司(課長)だった人で、長くお世話になった。

「毎日子どもを幼稚園へ連れて行くのが大変なんですよ。嫌がるのを無理やり抱きかかえて、幼稚園まで片道10分、抱っこで行かないといけないからしんどくて」

と言うと、

「大変やなぁ。ボクもそうやった」

と言う。

「部長の息子さんもそうだったんですか?」

と聞くと、

「いや、ボク、ボク」

とT部長。

子どもがいる人は、たいてい自分の子育て経験談を語るものだけど、自分の思い出語りとは思わなかった。

三つ子の魂百まで。

50代ならまだまだ覚えてて当然か。

 

「ボク、左利きやったからな、お絵描きとかハサミとか、みんなみたいにうまくできんくて、幼稚園が嫌になって」

「わー、かわいそう」

「行くの嫌がるから、毎日先生が迎えに来て、幼稚園まで連れて行ってもらっとったんや」

部長もそれなりに忙しいので、口はしゃべっていても、足は上の階に向かう。

私は下の階に向かおうとしているので、本当にすれ違いのスタイル。

なのに、部長はおしゃべり好きに火がついて、さらに言葉を足す。

 

「また先生が、『ふつうはこうなのに、どうしてみんなと同じにできないの』みたいなこと言うんやな。それで余計に萎縮してしまったんやな」

「わー、部長、繊細やったんですねぇ!」

「今も繊細ですけどね」

そして部長はひとつ階段を上がる。

 

「例えば、塗り絵とかするやんか。ボクが空を紫色に塗ったりしたら、先生が『普通は水色をやのに変ね』とか言うわけよ。ほんなら、『ボクふつうと違うんかな。ボクはおかしいんかな』と思って傷ついてな」

「当時はガラスのハートやったんですね!」

「今もガラスのハートですけどね」

そしてまた部長は階段を上がった。

 

「だから子どもさんも、ちょっとした先生の言葉で幼稚園が嫌になっとうかもしれんで。ボクも今は大人やから、どんなに嫌でも会社来るけどな。来なあかんから我慢するし。でも、子どもは違うやん。ちょっとしたことで幼稚園行けへんようになるから」

「ほんまに昔はナイーブだったんですね」

「今もナイーブですけどね」

最終的に部長は次の階の踊り場まで上がって、手すりから顔を出してしゃべっていた。

どんなソーシャルディスタンスやねん。

ていうか、部長、会社来るのそんなに嫌なんや…。

 

こっちが泣きたいよ

毎朝毎朝、幼稚園に行くまでが苦行である。

朝5時半に起きても、なぜか時間がない。

サトイモはギリギリまで寝ているか、早く起きたと思ったら朝一から遊び始め、

「ママ、こっちでいっしょにあそばないといけないよ!」

と強制してくる。

 

今朝は、抱っこ抱っこで引っ付きまわり、自分の支度はしないし、やらせてくれない。

どんなにトイレでオシッコをしなさいと言っても嫌がって行かなかった。

なんとか無理やり整えて、出かける直前に私がトイレに入っていたら、

「ママ〜!あ〜け〜て〜!ママ〜!」

とドアを叩いてきた。

「ママはうんちしてるのよ」

「ママはうんちしなくていいよ!」

「させてくれよ!」

「ママはうんちしちゃダメだよ!」

「なんでやねん」

「ママ〜!でてきて〜!!」

最後には泣き出したけれど無視。

んなもん、かまってられん。

 

終わってから、

「お待たせ〜」

とドアを開けると、ドアの前で大量にオシッコをもらしていた。

「オシッコしたいならそう言ってよ!!」

とパニクって激しく怒ってしまった私。

 

もう出発時間なのに、床掃除。

大泣きしているサトイモにシャワーを浴びさせ、全着替えさせて、幼稚園の服は軽く水洗い。

泣きたいのはこっちだよ!!

 

こんな具合に、毎日、

「会社に遅刻する!!!もう間に合わないよ!!」

と泣きそうになりながら、泣き叫ぶサトイモを抱えて出る。

 

サトイモが大人になったとき幼稚園時代を振り返って、毎朝行くのが嫌だったと回想すると同時に、ママも辛いししんどかったんだとわかってくれたらうれしい。

あ、部長は母親についてのコメントはヒトコトもなかったな。