3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

5歳の孤独

先週の金曜日、サトイモは幼稚園で遠足に行った。

遠足といっても、みんなで公園まで歩いて遊びに行くだけ。

幼児の足でも片道15分程度のショートトリップだ。

 

その公園は大倉山公園といって、私たちがよく行っている図書館の上にあり、かつて通っていた児童館の奥だった。

サトイモにとっては、勝手知ったる公園である。

 

大きな総合公園の中をいつもサトイモは自在に走り回るので、私は連れて行くといつもヘトヘトになる。(しかもこっちは図書館で借りた絵本を数冊リュックに入れてるんだよ!)

足がすべりそうな茂みの坂でも平気で入っていくし、高いところにも登るので、危なくてしょうがない。

目を離すとすぐ見失い、迷子になったことも幾度か。

 

なので、遠足の前日、お迎えに行った際に、

「勝手に走っていって、みんなとはぐれないか心配です」

と伝えると、

サトイモくんは列の先頭で私のすぐ後ろですから大丈夫だと思いますが、よく見ておきますね。去年の遠足でも迷子になったと申し送りを聞いてますし」

と担任の先生。

えっ?!去年の遠足で迷子になった?!聞いてないけど?!

とビックリしつつ、でも幼稚園側で理解してもらってるならまあいいか、と、

「先生方も大変だと思いますがよろしくお願いします」

ととにかく気をつけてもらうようお願いした。

 

家族の休日

結果的に、自由遊び中に少し脱走することもあったようだけど、すぐに先生に確保され、遠足は無事終了。

「たのしかった」

と帰ってきたものの、

「ブランコしたかったけど、ならんでてできなかったんだよぅ」

と心残り満々だった。

「あしたおやすみだから、あしたいくよ!」

と勝手に決めている。

親の都合も聞かずに勝手に決めやがって、とは思うものの、ちょうど図書館の本を返却しなければならなかったので、土曜日は夫も交えて一緒に図書館と公園に遊びに行くことにした。

 

夫に車で送迎してもらうことは多々あるけれど、歩いて公園まで一緒に出かけることは稀である。

運動不足解消の散歩がてら、本人も乗り気でついてきてくれたけれど、公園に着いてしばらくしたらお腹が痛いと言い出した。

 

夫は気の毒な人で、昔から、平日は緊張から便秘気味、休日になるとお腹がゆるくなってトイレにこもる。

リラックスタイムであればあるほど、腹痛に苦しみ、トイレに駆け込む。

海外経験豊かなくせに、トイレの清潔さにこだわり、公園のトイレは嫌だからと図書館のトイレまで行くと言い出した。

父親がいてもいなくても公園で遊ぶのに変わりはない。

ごゆっくり、と送り出した。

 

しばらく遊んだあと、サトイモと二人でお茶休憩をした。

5月の公園は晴れて過ごしやすく、たくさんの子どもたちが遊んでいた。

楽しそうに走り回る子どもたちを見ながら、サトイモがこんなことを言った。

「しょうがくせいは、パパやママといっしょにきてないコもいるね」

「そうねぇ。小学生だったら、お友達と子供だけで遊びに来てるのかも。サトイモも、小学生になったらお友達と来てもいいよ」

「ぼく、しょうがくせいになっても、パパとママといっしょにあそびにきたいよ。いい?」

「いいよ。サトイモがそうしたいならね」

「ぼくはずーっとずーっとパパとママとあそびにきたいよ」

可愛いことを言うなぁ、でも、そんなの小学校中学年にもなれば変わっちゃうもんだよ、と私は心で苦笑いした。

 

夫もいればよかったのに、と思った。

だって、夫は溺愛するサトイモがいつまで「パパ大好き」と言っていてくれるか、いつ「おとんウザい」と疎まれるようになるか、心配しているからだ。

さてさてサトイモはいつまで可愛い息子でいてくれるものだろう。

 

万引き家族』のリンちゃん

日曜の朝、夫は釣りに行って不在だったので、サトイモが目覚めるまでの間、私はのんびり一人で映画を観ることにした。

朝6時から8時までのゴールデンタイム。

 

この日は是枝裕和監督の映画『万引き家族』をチョイスした。

カンヌでパルムドールを取って話題になった後ずっと観たいと思っていたのに、それから3年も観れずにいた。

ようやく。

 

あの擬似家族の背景を詳細には語らないところが絶妙で、想像力をかきたてられる。

捨てる神あれば拾う神あり。

捨てられたときの個々の背景、拾われたときのきっかけや事情などが頭の中で広がる。

映画の持つ奥行きの力なのだなと思う。

 

個人的にはどうしても、リンちゃんと呼ばれることになる女のコと彼女を取り巻く子育て環境に注目してしまった。

安藤サクラが、

「好きだから叩くなんて嘘。本当に好きだったらこうするんだよ」(←不正確です)

と(というようなセリフを)言ってリンちゃんをギュッと抱きしめるシーンにジンとくる。

 

オネショに効くおまじないだといって樹木希林がリンちゃんに塩を舐めさせるシーンも、しょーもないことだけど象徴的だと思った。

厳しい親ならオネショを叱り、体罰を加えることだろう。

今どきの過保護な親なら(私もその傾向)、

「幼児の塩分の取り過ぎはよくないです。根拠のない古い子育て方法で余計なことしないでください」

と言って世代間ギャップにギスギスするかもしれない。

肉親ではないからこそ、緩やかに認めあえる関係が温かい。

 

もうちょっとで見終わる、といったところで、サトイモが起きてきた。

平日は起こさないと起きないくせに、休みの日は定時に起きるんだから嫌になる。

「ママ映画を見てたんだよ。もうちょっとで終わるから最後まで見せて」

サトイモをソファに転がして、一緒に続きを見た。

 

ラストシーン、リンちゃんが一人で遊んでいるシーンを見たサトイモが、

「このコ、ひとりであそんでるね。ひとりぼっちなの? かわいそうね」

と言った。

5歳の子どもが一人ぼっち。

私はたまらなくなってサトイモ安藤サクラのように抱きしめた。

 

公園のユウキちゃん

その日の夕方、私たちは二人でまた別の公園に行った。

なんだかんだ行って、土曜日も十分にブランコに乗れなかったので、サトイモはまたブランコに乗りたいと言い出したのだ。

しかも大きい子みたいに立ち乗りがしたいとのこと。

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何事もマイペースなサトイモは、お出かけの準備が遅くて公園に行くのが夕方になり、おまけに公園に着いてからもしばらく砂場で遊んでいて、「結局またブランコせぇへんのかーい!」と私は心の中で突っ込んでいた。

 

夕方の公園は小学生の天下である。

ブランコも男女問わず小学生が占領していて、すごい勢いで漕いでいる。

幼児の親からしてみたら、小学生のブランコは兇器そのもの。

あれにぶつかったら大ケガ必至。

漕いでいるブランコの前後は近寄らない、柵の内側に入らない、と口酸っぱく言っているけれど、言いつけが守れるかどうか毎回ハラハラする。

 

できればブランコのことは忘れて、砂場で終わってほしい。

そう考えているときに限って、サトイモは目ざとくブランコがひとつ空いたのを見つけて駆け寄っていった。

 

そこのブランコは、使用頻度が高いせいか手入れされてないせいか、足元の土がかなりえぐれている。

そのせいで小さなサトイモが乗ろうとすると少しお尻が届かない。

鎖を持ってよじ登るようにして座る。

座っているだけではスイングしないので、

「押そうか?」

ときいてみたけれど、返事はない。

しばらくすると今度は立ってみたが、やはり立っているだけではスイングしない。

 

すると、さっきまでずっとブランコで遊んでいた女の子がやってきて、

「そんなんじゃダメ。私がお手本見せてあげようか?」

と言ってきた。

「あらそう? ブランコの上手な乗り方、教えてくれる?」

私はつい気軽にそう答えた。

「あ、あっちで2つ空いたから並んで遊べば?」

 

しかし、サトイモは動かなかった。

「行かないの?」

返事はない。

女の子は空いているブランコに乗って、

「こうするんだよ!見てて!私くらい上手になるとね、こうやってこげるの!」

と自慢気にやっている。

 

その段階で、その子は親切そうに言ってきたけれど一緒に遊ぶ気はなくて、単にマウントを取りたいだけなんだと感じてくる。

「ね、わかった?私みたいに上手にのるの」

正直、ウザい。

その子がブランコを降りて私たちのそばにくると、またすぐブランコはいっぱいになった。

 

「ねぇ、私もブランコのりたいから替わって!」

その子は私たちに言った。

私はちょっとムカっときて、

「それは順番おかしくない? この子はさっき乗り始めたばかりなのに。それだったら、先に乗ってるこの子とかに言うべきでしょ?」

反論されて女の子は少し困った顔をした。

長く乗っていることを指摘された男の子が、黙ってブランコを降りて走っていった。

「ごめんね、ありがとう!」

私はとばっちりを受けたその寡黙な背中に声をかける。

 

女の子は空いたブランコに乗って、またしつこく、

「こうやってこぐの。あんたはまだヘタだから座ってこぎな。立つのはダメ。私くらい上手になったら立ってもいいけど。こうやってね」

と言っている。

サトイモは何も言わずにブランコに立っている。

「立つのはダメって言ってるでしょ!ダメだったら!私くらい上手になったら立ってこいでもいいの!見て!こうやってやるの!でもあんたはダメ!」

何様だおまえは。

 

よほど、

「黙れクソガキ!親の私が許可しとんじゃボケ!ダメはおまえじゃ!」

播州弁でどやしつけてやろうかと思ったけれど、子供相手に大人気ないのでやめた。

 

サトイモは、顔には出さないが辟易したのか、

「ママ、いっしょにのろう」

と言うので、私のひざに乗せて二人乗りをした。

隣のうるさいコは無視だ。

 

女の子も無視されたことに気付いたのか、

「どこにすんでるの?」

と聞いてきた。

私はむかついてるので、

「おうちを軽々しくヒトに教えないほうがいいよ」

サトイモにも女の子にもつかないかんじで言った。

「なんて名前?」

サトイモは無視である。

「あんたしゃべれないの?」

つくづくムカつくガキである。

「言いたくなかったら、知らない子に名前とか言わなくてもいいのよ」

「私はユウキ」

「ああそう」

 

ふと、気になって、

「ユウキちゃんはいくつ?」

と尋ねてみた。

「5歳!」

「えっ、5歳? まだ年長さんだったの。小学生かと思った」

あんまりエラそうだから。

でも、痩せっぽちでチビなので体格は5歳程度である。

「5歳っていっても、もうすぐ6歳になる5歳だけどね。あんたは?」

サトイモは返事をするつもりはなさそうなので私が代わりにしゃべる。

「ボクは4歳。でも、4歳になったばっかりなんだよね〜。ユウキちゃんは何月生まれなの?」

「3月」

「なんや、もうすぐ6歳になるっていうから6月か7月生まれかと思った!なんや、まだまだ先やんか!」

私が揚げ足を取ると、ユウキちゃんは黙った。

 

にしても、サトイモとはまるまる一年違うだけ。

女の子は口が達者だとは言うけれど、生意気にもほどがある。

男の子はかわいい、と大人の女性たちがいう理由が身に沁みた。

ユウキちゃんと比べて、うちのサトイモの可愛らしいこと!!

 

サトイモがブランコを降り、時計を見ると5時を回っていた。

「もうこんな時間!ストライダー取っといで!おうちに帰るよ〜!」

私はサトイモに声を掛けた。

「もう帰るの?」

ユウキちゃんが言った。

「帰るよ。もう5時過ぎてるもの」

「じゃあ私も帰る。一緒に帰ろ」

ユウキちゃんは公園の入り口に補助輪付きの自転車を置いていた。

 

一緒に帰ろうと言っても、公園を出たら家は逆方向だった。

「じゃあね」

「バイバイ」

そのとき、私はユウキちゃんが一人で遊びに来ていたことに初めて気がついた。

 

外出年齢

タラちゃんは3歳なのに、一人で外出している。

その基準で考えたらおかしくないかもしれない。

気になって、家に帰ってから何歳から子どもの一人での外出を許可するものなのか、ネットで調べてみた。

昔とは環境が違うので(交通、犯罪等)、小学校中学年になるまでは一人で外出させないというのが一般的なようである。

 

でも、そこは保護者の判断だ。

いろいろ事情はあろう。

ただ、朝『万引き家族』を見たばかりの私には、ユウキちゃんがリンちゃんに少し重なって見えた。

 

でもって、私のまとめ。

「リンちゃんは大人しい子だったから保護できるが、ユウキちゃんがもし保護が必要なコだったとしても、生意気だから保護困難!」

それが現実。

でももし、ユウキちゃんが保護を必要としていた場合、大人がどれだけ寛容に受け入れられるか。

現実の困難さを想像してモヤモヤした。