ギリヤーク尼ヶ崎さんとパーキンソン病のこと。
先週再放送されていたETV特集「その名は、ギリヤーク尼ヶ崎 職業 大道芸人」をやっと見た。
2017年2月10日に放送されていたものなんだけど見逃してしまって残念に思っていたら、ありがたいことに再放送があったのだ。
私がギリヤーク尼ヶ崎さんのことを知ったのはオーケンのエッセイだった。
特撮の『渚の前衛ダンサー』という曲で歌われている前衛ダンサーとは、ギリヤーク尼ヶ崎さんのことだったと記憶している。(←また私の思い込みだったらごめんなさい。)
そういうつながりもあって、オーケンファンの中でこの番組が再放送されることをTwitterでつぶやいている方がいらっしゃって、大変助かった。見るべきテレビ番組を知るのにTwitterには本当にお世話になっている。
さて、ギリヤーク尼ヶ崎さんは路上で舞踊を披露する大道芸人だ。
一般的な言葉で呼べば芸術家・アーティストだと思うけれど、ご本人はそうは言わない。
あくまで「大道芸人」と言っている。
そして、投げ銭をもらって生活することに誇りがある。
そんなギリヤークさんも86歳。
そして、この番組は老いと病いと闘いながら、2016年10月10日の新宿公演を果たすまでを描いていた。
ギリヤークさんの舞踏家としての自負や、同居して介護をしてくれる弟さんとの関係、これまで支えてくれたお母さんへの思いなど、考えさせられることがいっぱい詰まった番組だった。
特に、実社会で現実的に生きてきた弟さんと、異世界でロマンを求めて生きてきたギリヤークさんの芸人としての生き方との対比はとても興味深かった。
ただ、私がすごく気になってしまったのは、冒頭の部分だ。
「手の震える病気で、つばが流れるんですよね、唾液が。どこの大学病院に行ってもね、病名がね、どうしてこうなるかがね、分からないそうです。だからね、順天堂大学のね、専門の、先生にも聞いてもらったけどね、はっきり言って治療の方法がないって」
私は番組サイトや番組情報を見ないまま番組を見たので、後半にギリヤークさんの病気がパーキンソン病だと診断されたのを知った。
意外だったと同時に、腹が立った。
というのも、冒頭の映像を見ただけで、私は、
「パーキンソン病じゃないの?」
とすぐに思ったからだ。
- 手が震える
- よだれが出る
- 背中が曲がる
- 動作が緩慢になる
どれもパーキンソン病の兆候である。
あの手の震え方を見たら、まずパーキンソン病を疑うはずだ。
だから私は最初、
「どこの病院でもわからないっていうことは、似てるけどパーキンソン病じゃないんだろうな。だってパーキンソンならとっくに診断が下りているだろうから」
と思っていた。
なのに、結果はパーキンソン病。
素人の私でも気が付くのに、なんでどこの病院でもわからなかったの?
病院や医者って何なの?
追悼のニュース番組で、アトランタオリンピックの開会式で聖火を掲げるアリの映像を見た。
ギリヤークさんの病気を「わからない」と言った医者たちは、アリの勇姿を見なかったのだろうか。
うちの母は大脳皮質基底核変性症という病気でパーキンソン病そのものではないけれど、関連病なので、私も少ながらず本やサイトでパーキンソン病の資料を読んできた。
母のおかげで、私もパーキンソン病について詳しくなった。
だとしても、医者だったら私より知識があるはずじゃないか?
医者は素人より詳しくて当然だと思うけれど、違うんだろうか?
アリやギリヤークさんのような人が、メディアに登場して姿を見せてくれるおかげで、私たち一般人でもパーキンソン病を知ることができる。
それはすごく意味があることだ。
医者が頼りにならない以上、一般人でも病気について知識を広めるのはますます大切になってくる。
ギリヤークさんも、パーキンソン病だと診断されて以降、劇的に身体が動くようになった。
8月下旬まで一人で立ち上がることもできなかったのが、9月には一人で踊りの練習ができるまでになっていた。
パーキンソン病は原因不明で治療法がない難病ではあるけれど、薬で症状を改善させることはできる。
パーキンソン病はドーパミンという脳内の神経伝達物質が足りなくなるので、それを促す薬を服用すると改善される人も多い。
ギリヤークさんも薬が効いたらしく、
「その薬、割といいですよ」
と、よだれが止まったことを喜んでいた。
そして、新宿公演は大成功。
1か月半前は立つこともできなかったなんて信じられないくらいのエネルギー。
パーキンソンの薬のおかげだけじゃない、もっと違うところからやってくる不思議な力。
公演の様子も感動的だったけれど、終了後のギリヤークさんの別人のように若々しく輝く笑顔に驚かされた。
それにつけても、なんでもっと早く、パーキンソン病の診断がなされなかったのかがくやまれる。
病気を理解すれば、薬もそうだけれど、知恵と工夫でそれなりの生活の改善ができるからだ。
iPS細胞の活用が進めばパーキンソン病の治療ができる、なんて言われているけれど、そもそもの診断がされなければ何の意味もない。
そして、日本の病院、もっと頑張れ。
医学が進歩しても、医者の底上げがされないと全く意味がない。
私の母がパーキンソン病の関連病だという話をすると、少なからずの人が、
「実はうちの母も」「うちのおじいちゃんも」「隣のおじさんも」
と語りだす。
実はパーキンソン病は相当身近な病気なんじゃないかと思う。
それも、患者が増えたのではなく、徐々に診断が下されるようになってきただけではないかと思っている。
これまで、ギリヤークさんみたいに病院に行っても原因不明で無視されたり、あきらめられたりされてきたのではないか。
または、「動作がのろい」とか「手が震える」とか、これまで、
「老化じゃね? 年だからしゃーないな」
と見過ごされてきたのではないか。
もし、周囲で手足が震えたり、動作が緩慢になったり、背骨が曲がったりした人がいたら、パーキンソン病を疑って神経内科の受診を勧めてほしい。
神経内科では、
「パーキンソン病じゃないですか?検査してもらえませんか?」
そうはっきり医者に聞いたほうがいい。
じゃないとあいつら、患者を見もせずに2分で診察を終えるから。