3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住むアラフォーOL、波野なみ松の、仕事と趣味と母の介護を両立させる日々の記録。

Hooper Pooper Looperで浮かぶ猫の風景

元町高架下にかつてThe Bee’s Kneedsというカナダ人がやっているバーがあって、ときどき立ち寄っていた。

ジュースしか飲まない私を店主のクリスはいつも快く迎えてくれたし、店内禁煙というのも私には居心地がよかった。

やがてクリスがカナダに帰ってしまい、The Beed’s Kneedsはなくなったけれど、しばらくしてそこにLouie Louieというハンバーガー店ができた。

新しいお店にも行ってみたいなと思いつつ、ちょうど私の生活が介護やらなんやらで忙しくなった頃で、長らく足が向かないでいた。

 

そんな折、The Bee’s Kneedsで出会ったベーシストのオオクラシンヤさんがLouieLouieでライブをするという情報を得た。

久しぶりに、というか初めてLouieLouieに行く絶好のチャンス。

というわけで、6月7日に行ってきた。

 

シンヤさんのバンドはHooper Pooper Looperという。バンドというか、ベースのシンヤさんとドラムのMaikoちゃんのデュオ。

LouieLouieは小さなお店なので、一見、ライブができるなんて信じられないような狭さだけれど、2階にちょっとだけ空間があって、そこに機材もお客さんも詰め込んでしまう。

ここのライブ空間はThe Beed’s Kneeds時代から変わらないけれど(お手洗いが2階にあるのでわかるのだ)、私はここでライブを見たことがなかったので、ギター1本、いやウクレレ1本の弾き語りか何かで使うものだと思っていた。

ドラムセットを置くとそれだけでぎゅうぎゅうで、お客さんは出演者のすぐそばで、互いに譲り合いながらひしめき合う。

盛り上がって手を上げた瞬間、シンバルにぶつけてしまった人がいるほどの距離だ。

 

そんな狭い空間に音は充満するわけだけど、うるさいと感じることがちっともなく、心地よいリズムに包まれた。

私が座ったのはちょうどシンヤさんの目の前だったけれど、申し訳ないことにドラムのMaikoちゃんにばかり目が行ってしまった。

花のある可愛らしい女の子だからというのもあるけれど、踊るみたいにドラムを叩く様子に引き付けられてしまったのだ。

音はしっかりパワフルなのに、どうしてこんなに軽やかなんだろう。

ふだん、ライブハウスに行ってもこんなに間近にドラムプレイを見ることがないし、よく見えたとしても力強さに圧倒されるようなものが多い。

すばらしいドラマーの演奏もそれなりに聞いてきたつもりだけど、Maikoちゃんみたいに軽やかさと爽やかさを感じるドラムプレイは稀有だ。

 

曲は歌なしのインストロメンタルなんだけど、不思議と歌がなくても二人が歌っているような雰囲気がある。

一緒に行った友達は、

「歌詞がない分、自分の脳内でストーリーが想像できて楽しかった」

と、めっちゃうまいことを言った。

私のイメージの中のHooper Pooper Looperの音楽は、大きなキジトラの猫が猫じゃらしで跳びはねまくっている横で、小さなキジトラの猫が優雅に毛づくろいをしているような風景が目に浮かんでくる。(なぜ両方キジトラなのかって?…あ、単にCDのジャケットだわ。)

どの曲も浮遊感のある踊れるロックだけれど、特に印象に残ったのは、『秋猫』という猫の声をサンプリングして使っているカワイイ曲と、『go-siti-go-haiku』というリズミカルな曲。いずれもこちらのサイトで視聴できる。

hplooper.bandcamp.com

 

Maikoちゃんのそんなドラムスタイルをとっても新鮮に感じつつ、もうひとつ、Hooper Pooper Looperで珍しく感じたのは、シンヤさんの五弦ベースだった。

 

そんなに珍しいものでもないのかもしれないけど、私は五弦ベースのベーシストを知らなかったので、「まるでギターみたいなベース!」と新鮮に映ったのだ。

それは楽器の話ではなくて、メロディラインの紡ぎ方とか、演奏全般において、ギターでもない、ベースでもない、独特なスタイルだった。

あとで話を聞いたところ、もともとシンヤさんはギタリストだったのだそうだ。

なるほど、だからギターみたいにベースを弾くのか。

アーティストの個性というものは、経験の積み重ねの上に出来上がる、という良い例。

 

そういえば、シンヤさんがなぜベーシストになったのかという話は、以前に聞いたことがある。

The Deadvikingという神戸のインディーズバンドがヨーロッパツアーをするというので、そのベーシストを急募していたのだそうだ。

ちょうど前職をやめたところだったシンヤさんはたった2週間でベースと10曲を覚えて、The Deadvikingのツアーに参加。(そのときThe Beed’s KneedsでThe Deadvikingヨーロッパツアーのカンパを募っていて、私もウィーン旅行で余らせたユーロをカンパしたことがあったっけ。)

deadvikingseurotour.blog.fc2.com

 

ベーシストとして初めてステージに立ったヨーロッパのライブハウスで、演奏中に観客が次々に足元へビールの缶を置いていったそうだ。

ビールの缶を置くというのは、その演奏を気に入ってくれた証。

床いっぱいのビールを見た瞬間、シンヤさんは「ベーシストとしてやっていこう」と決意したのだという。

何が人生を左右するかわからないものだ。

 

ライブが終わってから、感想を伝えたくてMaikoちゃんと少しお話をした。

私は母の介護があって週末のライブには行けないけれど、タイミングがあればぜひ次も演奏を聴いてみたいと思ったからだ。

すると、Maikoちゃんも実はお父様がご病気で介護をしているということと、いろいろあってドラマーを引退しようと思っている、と教えてくれた。

 

朝ドラ『あまちゃん』のユイちゃんじゃないけれど、才能があるのに世の中に出ない人たちはたくさんいる。

私がこれまで出会ったミュージシャンの多くは、才能豊かで、素敵な曲をたくさん作るし、演奏スキルも高かった。

ミュージシャンだけじゃない。役者も、アーティストも、漫画家も、みんなそうだ。

でも、売れないままだったり、続けられなくなったり、違う道を見つけたり、歩みを進める中で何かをあきらめて、別の方向へ進んでいく。

人の運命は誰にもわからない。

 

一度聴いただけのお客さんの私には何も言えないけど、またいつか、Maikoちゃんの踊るようなドラムが聴けたらうれしいなぁとだけ、思った。