3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

父への依頼事項とその後の不安

転院の翌日とさらにその翌日である3月9日と10日は、実家にとどまって母のお見舞いに行った。

出掛ける直前、庭に出た父が、
「なみ松、梅の花が咲いとうで」
と言った。
f:id:naminonamimatsu:20180320162023j:image

うちは東側に山があり、山の影になっているせいで春が遅い。
それでも、実は1週間前からちらほらと蕾が開きかけていたのを私は気付いていた。

今年は頻繁に庭にメジロがやってくる。
山崩れを防ぐための防災工事をやっているせいで、メジロをはじめ小鳥たちが山を追い出されてしまったのかもしれない。

母も山から遊びに来る小鳥が好きだった。
庭に野鳥が遊んでいたりすると、
「なみ松見てごらん、可愛い小鳥が遊んどうで」
とカーテン越しによく眺めていたものだ。

今回転院して主治医の話を聞き、母は二度ともう家に戻れないこと、そしてあの病院で最期を迎える可能性が高いことを思い知った。
私の中で、半分ほどもう母は失われていて、今病院にいる母は半分でしかない気がするのだった。


懸念の入浴セット

転院先の病院では、火曜日と金曜日にお風呂へ入れてくれる。
その際に、タオル4枚とバスタオル2枚を袋に入れてセットしておかないといけないことになっていた。

100円均一でビニールの手提げバッグを色ちがいで2枚買い、それぞれに「火曜日入浴用」「金曜日入浴用」と大きな字で書いた。
これからは、父にこれらの洗濯とセットを任せないといけない。

「洗濯くらいできる」
と本人は言うけれど、信頼はできない。
「でも、干し忘れるでしょ? 次の日に干したりするでしょ?」
と尋ねると、
「うん、干し忘れる」
と答える。
悪びれもせずに言っているうちは、信頼なんてできるものか。

病院を少し行ったところにチェーンのカツ丼屋があって、その駐車場の奥にコインランドリーがあった。

洗剤・柔軟剤は自動投入で、乾燥までやって、600円。
f:id:naminonamimatsu:20180320162243j:image
父に説明をして、
「家にもって帰らずにここで洗濯して。待っとう間にカツ丼食べたらええやんか」
と提案すると、
「そうやな」
と答える。
しかし、貼ってある手順書を読んでいるそぶりはなく、生返事でしかない。
どんなに私が提案したところで、父自身の腹に落ちない限り、やってはくれない。

しばらくは、父の思う通りに洗濯をしてもらうしかない。

それにしても、1回の入浴でタオル4枚、バスタオル2枚も使うなんて、多くない?


メールでは実態はわからない

母の転院から、もう2週間近く経とうとしている。
私は産婦人科の言いつけを守って、神戸に戻ってからは自宅安静に努めている。

父が病院に行った日は、ショートメールで様子を送ってくれる。
たいてい、
「病院にきている、お母さん元気だ」
という内容だった。

洗濯以外にも父にお願いしていることが2つある。
リップクリームを塗ってあげることと、足の爪に爪水虫の薬を塗ってあげることだ。

爪水虫の薬は病院に預けたものの、使わないといって返された。
爪水虫は白癬といって、感染した爪がボロボロになる症状だ。
どうやら痛みも痒みもないらしい。
けれど、だからといって放っておくと、今は正常な指の爪まで広がるおそれもある。
せっかく薬はあるんだし、病院で塗ってもらえないなら、せめて家族が行った時に塗ってあげたい。

それで、転院したてのときに、父に塗り方をレクチャーした。
「なるほどな」
と父は相づちを打ちながら聞いていた。
が、本当にわかっているのかどうか、心もとなかった。

1週間経った頃、父に電話をして様子を尋ねると、洗濯もちゃんとできたし(干し忘れはしなかったけれど、取り込みは忘れて3日間干していたらしいけれど)、足の爪に薬も塗っているとのことだった。

よかったよかった、とほっとしていると、父が思い付いたように、
「そうや、足の爪の薬やけどな、赤いやつか?青いやつか? わからんから、赤いやつ塗ったで」
と言い出した。

引き出しの中には、チューブに入ったものを3本入れていた。
1つめはリップクリーム。
2つめは爪水虫の薬(ラシミールクリーム)。
3つめはかぶれ用の皮膚の薬(ヘパリンクリーム)。

ヘパリンクリームが赤いキャップなので、おそらく父は間違えて塗っていたようだ。
別に爪に塗って問題のありそうな薬ではないからよかったものの、確認もせずにとりあえずやってしまう父の性格が怖い。

「薬に字が書いてあるでしょう。なんで読まへんの!」
「小さすぎて、メガネかけても読めへんわ」
「看護師さんに読んでもらうとかさぁ」
「看護婦に聞いたけど、個人で持参されている薬はわかりません、言われた」
「どれが爪水虫の薬か尋ねたからちゃう? 文字を読んで、って頼めば読んでくれたやろうに!」
「そうか」
「わからんようになった時点で、私に聞いてよ…」

父に対して安心できないのがこういうところだ。

あと、いくら言ってもリップクリームは塗ってくれない。
母の唇の内側が乾燥して切れていたりするのに…。


悲しむなといっても無理

妊婦の心得を説くようなものを読むとたいてい、ストレスを避けるように書いてある。
怒ったり悲しんだりするのは、胎児によくないらしい。

怒ることはないけれど、母のことを考えると悲しみが押し寄せる。
特に夜、ベッドに入ると、母の現状を想像して不安になってしまう。
身体も動けないまま寝たきりにさせられて、孤独で退屈な毎日…。
悲しまないようにとか言われても無理だ。

ある夜、夢を見た。
自宅の和室で、入院前と同じように母は介護ベッドに寝ている。
暖かな春の日で、縁側からは明るい庭がよく見える。
梅が満開で、メジロも遊びに来て、チイチイ鳴いている。
夢の中の私は、
「ああよかった、お母さん、今年も梅とメジロが見れたね」
と言った。

目覚めてから、ご都合主義すぎる夢に呆れたけれど、悲しみが軽減している気がした。
夢でも気が済んだ。