3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

アンパンマンのマーチ

歳を取ってからできた子どもは可愛いというが、御多分に漏れず、夫はサトイモのことを溺愛している。

家族でお出かけするときに、サトイモをベビーカーから車のチャイルドシートへ乗せ換えるのは夫の役割なのだけれど、抱き上げてしばらくじっとしているので、どうしたのか尋ねると、

「あんまり可愛いからもっと抱っこしておきたくなった。下ろすのがもったいなくて」

などと言うので、

「だったらそんなお出かけの合間じゃなくて、普段やってよ!」

と呆れてしまった。

とはいっても、普段もときどき抱き上げては、

「ほんまにおまえは可愛いやっちゃなぁ。生まれてきてくれてありがとうなぁ」

と頬ずりしたりしているのだが。

思いがけなく授かったサトイモだけれど、私たち二人は心の底から「生まれてくれてありがとう」と思っていて、それに対して私はときどきこんなふうに思うのだ。

生まれてきてくれたお礼に、次は私たちが、サトイモが「生まれてきてよかったなぁ」と思える日々を与えてあげなきゃ、と。

大人になって「生きててよかった」と思うかどうかではない。
それは本人がどう生きたかの結果だから親が知ったこっちゃない。
幼児のうち、私のコントロール下にいるうちは、

「生まれてきてよかった、毎日楽しいなぁ」

と思える日々を過ごさせてやりたいのだ。

それが、サトイモが生まれてきてくれたことに対する「お礼」というか「お返し」で、そう思える日々を与えてあげなきゃ、と思う。 

 

サトイモの幸福論

おかげさまで、サトイモはいまのところ、一日の大半は笑って過ごしているような機嫌の良い子に育っている。

私はサトイモに対して怒ることがほとんどない。
それでも躾として「それはダメ!」「それはやめなさい!」と注意をする。
ところが、私が大きな声で注意をすればするほど、サトイモはキャッキャッと笑う。

「ゴルアァァ!!ゴミ箱触ったらアカンやろがぃぃぃ!」

どんなにすごんで怒ってみても、ウキャキャキャ、と笑われてしまう。
吉本新喜劇で未知やすえちゃんが突然キレる芸みたいに思ってるんだろうか。

そんな「デフォルト上機嫌」のサトイモに対して夫は、

「好きなだけ食べて、眠たくなったら寝て、遊びたいだけ遊んで、気楽なやっちゃ」

と言う。

確かに大人からしてみれば、幼児なんて何の苦労もない…ようにみえる。

だが、本当にそうだろうか。

まんまのあとは口のまわりを拭かれるし、オムツを脱がされたりはかされたりするし、お風呂のあとに身体中クリームを塗られるし、ごろんさせられて歯を磨かれるし、すぐごはん食べたいのに「今作ってるから待ってね」って待たされるし、抱っこしてほしくて泣いてるのにすぐには来てくれないし…。

「もう!人生ままならないことばかり!」

そんなふうに思っているかもしれない。

食後にお口拭きで顔を拭くと号泣して抵抗するサトイモを、どうしてそんなに嫌がるのか不思議に思えてしょうがないのだが、本人にとったら「嫌なものは嫌!」なんだろう。

大人にとってはなんてことないことが、幼児にはひっくり返るくらい大変なのだ。

最近同僚から職場の様子をきくと、若い子が次々とメンタルで休職しているそうだ。
同僚は不安を募らせているが、どうも上司たちの危機感は薄いらしい。
おじさんたちはきっと、

「この程度のことが耐えられんでどうするんや。俺らの若いころは…」

なんて思っているにちがいない。

人それぞれ感じ方が違うのだ。
Aさんにとって何でもないことが、Bさんにとっては死ぬほど嫌なことだってあるだろう。

自分以外の他人がどう感じているかなんて永遠のミステリーであり、そこを埋めるのは対話とかコミュニケーションによる信頼関係でしかないのだけれど、ジェネレーションギャップはそれを阻害する。

感じ方の違いを「根性なし」の一言で切り捨てて、人手不足の負のスパイラルを招いているととんでもないことになりそうで怖い。

職場では育児による時短制度を利用していた先輩が一人、仕事と育児の両立ができないからといって辞めたそうだ。

今からすでに職場復帰が不安でしかない。

 

母親としてどうなの?という瞬間

先週、サトイモは初めて本格的な風邪をひいた。
といっても、鼻水をたらし、 少し咳が出て、38度の熱が出た、というくらいで、たいしたことじゃないけれど、なんせ初めての発熱。

親子共々しんどかった。

楽しい毎日を与えてあげたくても、病気やケガだけは否応なくやってくる。
親がどんなに気をつけていてもすべては防ぎきれない。

今回の風邪は、サトイモにとってかなり「生きているとつらく苦しいこともある」と感じた経験になったかもしれない。

第一に、元気なときはモリモリ食べてくれていた食事を拒否するようになった。
スプーンで口に運んでも泣いて嫌がる。
ごはんのイスに座らせようとするだけで抵抗する。
果物とヨーグルト、ゼリーだけは食べるので、わがままじゃないかと思ったりもしたけれど、喉が痛くて飲み込めないのかもしれないから、とりあえずしつこく食べさせるのはやめた。

そうすると、いつもいつも離乳食づくりに追われていた時間がちょっとだけ軽減。
小さめに切って柔らかく茹でるという面倒からの解放!

本来なら、食事を食べてくれない息子を心配するはずなのに、

「食べないならそんなに作らなくていいよね?」

と内心喜んでしまっている自分がいた。

 

体調が悪いせいでサトイモはグズグズと泣く。
抱っこすると身体をひねるローリング攻撃で腕から脱出しようとするくせに、離れると鼻水と涙で顔中をグシャグシャにしながらハイハイで追いかけてくきて、足にすがりつく。

じゃあ一体どうしてほしいのよ?と途方に暮れるばかりだ。
もちろん病院で薬ももらって飲んでいる。
しんどいから泣いているのなら風邪が治るまでどうしようもない。

「泣け泣け、泣きたいだけ勝手に泣いとけ~」

サトイモをひざに転がしたまま片手でトントンしながらテレビを見たりしていた。
音声はかき消されて聞こえないから、字幕の番組オンリーだけど。

夫はそんな私に、

「勝手に泣いとけなんて、かわいそうに」

と言う。確かにひどいと自分でも思うけれど、どう対処すればいいのか私だってわからない。
そして急に、丁寧に子どもに向き合うことが面倒くさくなってくる。

そんなとき、虐待、特にネグレクトにあっている子どもたちとその親のことを思う。
ネグレクトはこういう「面倒くささ」の延長線上にあるものかもしれない。

 

今は風邪も治り、サトイモは上機嫌を取り戻している。

すでに数歩なら歩けるようになった彼は、アンパンマンカーを押して遊ぶのが大好きだ。 

アンパンマン よくばりビジーカー 押し棒+ガード付き (リニューアル)

アンパンマン よくばりビジーカー 押し棒+ガード付き (リニューアル)

 

ハンドルの真ん中についているボタンを押せば、「アンパンマンのマーチ」のメロディが流れる。

何が君の幸せ
何をして喜ぶ
わからないまま終わる
そんなのは嫌だ

メロディをカラオケにして歌は私が歌うのだけれど、その都度、「幼児には哲学すぎる歌詞だよな~」とつい物思いにふけってしまう今日この頃。