夏のビオトープ
「こんなにかわいい子が生まれてくるなんて、思ってもみなかった」
と、夫は息子サトイモを溺愛している。
その理由のひとつが、
「何から何までオレとウリふたつ」
だかららしい。
見た目も子供の頃の夫の写真にソックリだし、何より趣味嗜好が似ている。
電車よりクルマが好き、中でもスポーツカーよりジープやトラックが好き、機械が好き、工具が好き、DIYが好き、などなど。
好きな食べ物はいつまでも口の中に入れて飲み込まないところ、はしゃぐとむせてすぐに吐くところなど、困った癖も同じ。
似てないのはサトイモが無類のフルーツ好きで、夫はそうでもないということくらい。
最近、父と子の絆をより深くしているのが川遊びだ。
サトイモはプールにはそれほど興味を示さないのだけれど、自然の海や川には異常にテンションが上がる。
昔から川遊びが大好きだった夫は本領発揮、時間があればサトイモを海や川へ連れて行く。
コロナ禍で海水浴場は閉鎖されているので、海はハードルが高いけれど、神戸市内にある川なら気軽だ。
よく連れて行っているのは天井川という川の上流部(残念ながら画像は別の川)。
自然豊かで水がキレイだし、親として何より安心なのが、水位が浅いところだ。
深くて大人のくるぶし程度で、雨上がりでもほぼ増水することがない。
そこは夫が子どもの頃によく遊んだ場所らしい。
「実はここは約40年ぶりに来たんや」
と言う。
「もし変わっとったらショックやから怖かったけど、昔のまんまやった。感動したわ」
と、夫は喜んでいた。
「坊主が生まれてくれたおかげで、いろんな経験させてもうてる。感謝せなあかん」
サトイモはサトイモで、自分が大好きなアウトドアに連れて行ってくれて、魚捕りアミを買ってくれたパパに絶大な信頼をおいている。
遠くない将来、息子がオヤジを嫌う日がやってくるだろう。
夫はそれをわかっているから余計に息子がかわいいと言う。
この蜜月が何年続いてくれることやら。
ビオトープブーム
そして、夫はホームセンターで大きな睡蓮鉢を買ってきた。
川でつかまえたメダカやエビを飼うという。
最初は、
「うちみたいな狭いベランダで飼うなんて!」
と正直苦々しく思ったけれど、
「生き物を飼うのは教育のために良いことだから…」
と了承した。
ところが。
いざ飼ってみると、私が一番夢中になってしまった。
エサをあげると、メダカが水面にやってきてぱくぱく食べるさまはとてもかわいい。
夫がやると言っていたのに、今ではエサやり当番は私になってしまった。
ただでさえ時間がないのに、ついついぼーっとビオトープを眺めてしまう。
ささやかな癒やし。
最近は気付くと睡蓮鉢内のミニビオトープのことを考えている。
夫婦の会話の半分がビオトープに関する連絡だ。
そのビオトープだが、一瞬とて同じであることがなく、目まぐるしく変化する。
その変化の速さは赤ん坊の子育て以上だ。
睡蓮鉢が導入されて3週間ほど。
その間の出来事は詳しく書ききれないし、他人には面白さが伝わらないだろうから、箇条書きにする。
- メダカと一緒に捕まえてきたオタマジャクシ4匹に、1週間で足が生える。カエルになって出ていっては大変なので、翌週川にリリース。
- ホテイアオイが結構な勢いで繁殖。子株が水面を覆い尽くす。
- 水草に黄土色のアブラムシがつく。水没させても泳ぐのでやっつけるのが困難。夫が徹底的に駆除する。
- メダカの赤ちゃんが生まれる。小さいのでわからないけれど、目視できる範囲で20匹以上。
- エビも産卵。エビの赤ちゃんが生まれる。数はメダカどころじゃないウジャウジャさ。無数。
- 猛暑日になると、毎日1匹ずつメダカ死亡。多い日には3匹も。17匹いたメダカが最終的にたった2匹に。赤ちゃんメダカは3匹に。
- 夫が「ビオトープの掃除屋さん」だと言って入れていたタニシが爆発的に増加。あんなに茂っていたホテイアオイを食べ尽くす。
- 夫がタニシだと思っていたのは、実はスネイルと呼ばれる別の巻貝だと判明。もはや駆除しきれない数。
- ビオトープの水を入れ替えて掃除し、置き場所、石などを再構築する。
- スネイルと増えすぎた赤ちゃんエビを、昨日川にリリース。
教育的効果はあるのか?
これまで、水槽や睡蓮鉢を見ると、
「おしゃかなみる!」
と喜んでいたサトイモなのに、いざ自分ちに睡蓮鉢が来ると、さほど興味を示さない。
それどころか、手を突っ込もうとしたり、水草を取り出したり、鉢を蹴ったり、植木鉢の土や拾ってきた石を入れたりと、悪さばかりする。
挙げ句の果てには、メダカのエサを床にぶちまける始末。
しかも、親が夢中になっているのが気に食わないらしく、私が世話をしていると邪魔ばかりする。
その様は、弟妹ができて赤ちゃん返りするお兄ちゃんだ。
最近のサトイモの口癖は、
「ままはなにもしてくれない!」
になってしまった。
ようやく自分で歩いていけるようになった幼稚園も、最近は、
「あ〜もうだめだ〜、あるけない〜、ままだっこして〜」
と座り込んでストライキ。
カンカン照りのアスファルト上で、朝の時間のないときにそれをやられると、抱っこして連れて行くしかない。
毎日幼稚園ではプールの用意が必要なうえにお昼寝バスタオル2枚、お弁当水筒、上靴、帽子、着替えと相当な荷物である。
大荷物に、14キロの子どもを抱え、炎天下マスクをつけて10分の坂道を上がる。
もうダメだ〜、はこっちのセリフだよ…。
ビオトープも子育ても一進一退だ。