3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

年末調整と、ありえない労災

職場復帰後(今年の4月)、私は総務課に配属され、主に給与処理を担当することになった。

これまでやったことのない仕事。

給与はもらっていたけど、それがどういう仕組みで計算されてるかなんて、気にも留めてなかった。

これまで、残業したら残業手当が出て、電車の定期代と同額の通勤手当が出て、家賃補助の住宅手当が出て、家族がいる人には扶養手当が出てる、くらいにしか考えてなかった。

引かれる分については、税金とかなんかがいろいろモロモロ、いっぱい取られてすごく損!、くらいのおぼろげな認識で、どういう仕組みで何がいくら引かれているかなんて、興味すら持てなかった。

社会保険?年金?所得税?住民税?

面倒くさ!さっぱりわからん!

それが、いきなり、

「今日から担当なんでよろしく」

となったのである。

 

最初はわけもわからずやっていたのが、徐々に、

「そーゆー仕組みだったのか!」

と飲み込めてきた。

幸か不幸か、毎月仕事は繰り返される。

牛が草を反芻するように、物覚えの悪い私も少しずつ給与の仕組みが消化できてきた。

 

ところが。

慣れたところで今度は年末調整という怪物襲来。

これまで自分の年末調整は、

「なんとなくこうかな〜?」

と雰囲気でこなしてきた。

それがまさか、他人の分をチェックする立場になるとは。

とほほ。

 

他人の書類をチェックするということは、他人のミスをあげつらうことになる。

中には、

「指摘してくれてありがとう!忙しいのに間違ってごめんね」

と言ってくれる優しい人もいるが、ミスを指摘されたというだけで敵認定してくる人もいる。

例えば、こんなやり取りである。

「扶養家族のお母様の所得見込額が未記入なんですが…」

「は?今までそんなん書いたことないけど?」

あんたが書いたことがあるかないかは知らん。けど必要記入箇所やっちゅうねん!

「去年は…、ああ、去年も未記入ですね。けど、担当者が鉛筆書きでゼロにしてます。問い合わせとかなかったですか?」

「そんなん覚えてへんわ。毎年、遺族年金は所得にならんって聞いてるから書いてないんやけど?」

そもそも遺族年金かどうか知らんし!

「そーなんですね、じゃあ今年もゼロでいいでしょうか?」

「ええかどうか聞かれてもわからんのやけど」

はぁ〜。

 

どうしてこの人は、

「ごめん、記入がもれてた」

と言えないのかしら。

もしくは「わからないからどういう意味か教えて」とか。

そう思う一方、

「自分が間違ってると知ってるヤツのほうがようゴネるもんなんや」

という『ナニワ金融道』の名言を思い出し、全く真理だなと感心する。

 

誰しもが「これでいいのかな?合ってるのかな?間違いを指摘されたらやだな」と不安に思いながら提出している。

しかし私も、

「これ記入漏れだよね?書かなきゃいけない欄だよね?」

とか、

「あれ?これ計算おかしいよね?私の計算のほうが違ってる?そんなことないよね?」

と不安に思いながらやっている。

新米教師がビクビクしながら教壇に立ってるような気分。

 

恋…ではなくケガは突然

そんな中、労働災害発生の一報が入った。

営業のおじさんが外回り中、社用車のスライドドアに指をはさみ、切断寸前のケガを負ったらしい。

労災の手続きのサポートをするのも私の仕事のひとつ。

「書類を送って書き方と手続きの流れを説明してあげて」

と上司は簡単に言うが、労災なんてそう起きるものでもなく、慣れない私は「こっちが説明してほしいくらいなのに!」と内心またビクビクしつつ電話をかける。

 

「大変でしたね。痛かったでしょう」

書類の説明はたどたどしいが、世間話になればそれなりに流暢。

「痛いというより、血ィがピューと噴水みたいに吹き出てなぁ、わし、あんなにようさんの血ィ見たん初めてやからビックリしてもうて」

こわ〜!聞いてるだけで痛いぃっ!!

 

そんな具合に呑気にやっていると、時短勤務の時間はあっという間に過ぎる。

この日は月に一度あるかないかの、預かり保育ができない日。

お姑さんにサトイモのお迎えに行ってもらって、私が帰るまで預かってもらうことになっていた。

もう終業時刻だ、いつもより遅いぞ、と慌てて帰り支度をした。

お姑さんはせっかちなので、予定時刻より早くから待っているかもしれない。

 

こんなときにオッチョコチョイな労災なんてやって仕事を増やしてくれたもんだ、なんて失礼なことを思いながらトイレに駆け込んで、すごい勢いでトイレットペーパーをちぎったところ、指に激痛が走った。

なんと、トイレットペーパーホルダー付属の棚で指を切ってしまったのだ。

今まで気が付かなかったが、ステンレス製の棚の内側がナイフのように鋭くなっていた。

たまたまそこに左の人差し指がザックリ入ってしまったのだ。

 

急いでトイレットペーパーで圧えるが、血がどんどんあふれる。

紙や段ボール、ガラスの破片などで指を切ったことは何度もあるが、それの倍以上深い傷だということが自分でわかった。

包丁やハサミならともかく、トイレットペーパーホルダーでこんなに深いケガをするなんて、なんてバカなこと…。


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しかも、職場でケガをしたら、どういう理由であれ労働災害である。

しかも、労災担当者として指のケガの話をしたばかりなのに、自分が労災をやってしまうなんて。

 

トイレットペーパーを巻き付けて止血しながら部長に、指を切ったので今から病院に行きたいことを告げ、労災として申請してもいいか許可を求めた。

労災になるから報告したかっただけなのに、絆創膏を貼ってくれて、近くの外科がある病院を調べてくれた。

絆創膏を何枚も貼る。

その間もまだ止血しない。

 

病院へ行く途中で、お姑さんに電話をかけた。

お姑さんは自分の到着が遅くて私が電話をかけてきたと思い込み、今どこにいてどこが混んでいて渋滞で動けなかったかをまくし立てる。

私は私でテンパっているので、「違うんです違うんです」と説明が説明にならない。

とにかくケガをしたので今から病院に行く、とだけ伝えた。

 

病院は空いていて、事情を話すとすぐに応対してくれた。

待合室で最初に診てくれた看護師さんが、

「なるほどなるほど。刃物で切った傷だと、スパッとまっすぐキレイなんですけど、えぐれるように切れてますね〜」

と解説してくれた。

 

診察室に入ってから医師に見せると、

「縫ったほうが早く治るんですけどね…、外科テープでも大丈夫かな…」

と曖昧なことを言う。

物腰の優しい男性医師だけれど、なんだかはっきりしない。

「縫ったことないんで怖いです」

と私が言うと、

「縫う前に麻酔しますけどね…。麻酔して縫うのと、テープで貼るのと、どっちにします?」

とまた医師は頼りなげにこっちに尋ねてくる。

どっちがいいのかこっちが聞きたい。

私が困っていると、

「縫ったら抜糸もせなあかんので、テープにしときましょか」

と、結局医師が決めた。

処置するほうもテープが楽なのだろう。

 

医師と看護師が、消毒のあと白いテープを切って私の指の傷に貼った。

細いやつを3本。

たったそれだけ。

あとは包帯をぐるぐる巻き。

母の友人が開腹施術をしたとき、

「切ったあとテープ貼るだけなんやで!」

と言っていたのを思い出す。

「てーぷ」という音感がバカみたいに響く。
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労災なので健康保険の適応はない。

だから、支払いはしなくていいと知っていたけれど、窓口で、

「預り金として1万円出してもらっても大丈夫ですか?」

と言われてギョッとした。

最近はスマホ決済することが多くて、ほとんど現金を使わなくなっていて、現金の手持ちがあったかどうか不安だったからだ。

財布をみるとギリギリ万札が1枚入っててホッとする。

にしても、1万円も預からなくったっていいじゃないか〜!

 

バリ取りという言葉を知る

その後、お姑さんともうまく連携でき、夫とも連絡が取れた。

夫は早めに仕事を切り上げて帰ってきてくれた。

 

普段、夫は私のことを「どんくさい」呼ばわりする。

夫があんまり言うもんだから、最近ではサトイモまで、

「ままどんくさいの?」

と言い出す始末。

トイレットペーパーホルダーで指を切ったなんて言ったら、どんなにバカにされるだろう。

 

そう思っていたのに、夫の反応は意外なものだった。

「ステンレス製品のバリ取りがされてなかったんや」

「バリ取りって?」

「金属の板を切りっぱなしやったら尖ってて危ないやろ。やからヤスリをかけたり削ったりして処理せなあかんのや。それをちゃんと処理してへんなんてありえへん。そんな不良品を納品したメーカーを訴えてもええくらいや。一体どこのメーカーや」

どこのメーカーか尋ねられても、TOTOとかINAXのようにちゃんとメーカー名が書いてあるわけじゃなし、わかるわけがない。

「そんなわけのわからんメーカーの製品を会社は導入したわけやろ。不良品を備え付けてた会社にかって責任はあるんやから、立派な労災や」

 

どんくさいと笑われるばかりだと思っていたら、私のために怒ってくれたのは、夫のまた別の面を知った気がした。

夫の会社には工場などがあって、労災に対して厳しいというだけのことだけど。

 

それ以降、左手の人差し指が使えなくて少し不便な暮らしをしている。

急がば回れ