我が家のシッコモラ問題
2021年を振り返って、我らがオーケンが様々な場所でよく話題にしていたのがシッコモラ問題だ。
昔のドッキリ系テレビ番組で、CMの女王と呼ばれる歌手が「シッコモラ」という商品のCMソングを歌わされ(ドッキリだから当然ウソ商品)、その「OH! シッコモラした!」というフレーズが当時の子どもたちの脳裏に焼き付いた、という話。(興味がある方は、グノシーラジオ『大槻ケンヂとフジモンのラテ欄ラジオ』をどうぞ。無料です。)
オーケンがシッコモラを熱く語るのとシンクロするがごとく、我が家ではホンモノのシッコモラが問題化していた。
サトイモがときどきおしっこをもらしてしまう問題。
サトイモだってまだ3歳半。
トイレに間に合わないことだってあるし、おねしょだって仕方ない。
うっかり失敗するのは誰だってあることだ。
しかし問題は、怒られたときに、大声で泣くと同時にオシッコをもらしてしまうことにある。
コラ!
うわあぁ〜〜ん!
じゃ〜、ボトボトボトボト〜…
オシッコもらしちゃった〜!
これが一連の流れになっている。
朝の出掛けにやられた日にゃ、こっちが泣きたくなる。
お姑さんが言うには、大声を出すときに下腹に力が入るから出てしまうんだろうということだ。
ではなんで大声を出すのか。
傾向から最近わかってきたのは、ダメだと止められたりやめさせられたりしたとき、サトイモ本人が納得できないときに大声で泣きがちだということだ。
スーパーの駐車場にて
こんなことがあった。
家族で郊外のスーパーに行ったとき、店の前に芝生のフリースペースがあった。
そこでシャボン玉で遊んでいる子どもたちがいたので、サトイモもそこで遊びたいと行って、店の中に入らなかった。
仕方ないので買い物を夫に任せ、私はサトイモとそこで待っていた。
芝生スペースだけで遊んでいたらよいのだが、しばらくするとサトイモはそこを出ていこうとした。
「ここで遊ぶか店に入るか、どっちか! 駐車場には行っちゃダメ!クルマが出入りして危ないんだから!」
しかしサトイモは言うことをきかず脱走しようとする。
「なんでだめなの!あぶなくないよ!」
そのたびに私が捕まえて抑えつける。
「あかん!危ない!」
こっちもムキになってやめさせる。
何度目かで脱走を止めたとき、サトイモは「うあぁぁ〜ん!」と大声で泣き出した。
「ぼくはあそこにあるのをみにいこうとしただけなのにぃ〜!」
あっ、と思ったら、じょじょじょじょ〜、とズボンの裾から液体が落ち、またたく間に靴を濡らしながら地面に水溜りを作った。
着替えは持ってきていたが車の中で、キーは夫が持っている。
仕方ないので、夫が買い物が終えて戻るまで店先で待ち、戻ったら急いで着替えさせた。
靴までは持ってきてないので、車の中で裸足にさせた。
「はよ帰ろう」
と夫は早々に車を出す。
「ちょっと待って!お店の人に言わなくていいの?」
「言うてどうするん」
やり取りしているうちに店をどんどん離れてしまう。
「水道があったけど、蛇口をひねる部品が取れてたから使えなかったから、店の人に言って水で流させてもらおうかと思ったんだけど…。オシッコをあのまま放置するのって悪くない?」
「なんや、そういう意味か」
と夫は私が「店の人に言う」という意味を何か誤解していたらしい。
「犬の小便でも飼い主はちゃんと流しとうのに。マナーがめちゃくちゃやな」
と夫。
どういう立場で言ってるんだか!
2年ぶりのズーラシアン
11月23日の祝日は、神戸文化ホールにズーラシアンフィルハーモニー管弦楽団のコンサートを観に行った。
2年前、初めてサトイモと二人でズーラシアンブラスを観に行って感動し、次はぜひ家族3人で行こう、と言っていたのがようやく実現できた。
コンサートの数日前から、サトイモにはYou Tubeでズーラシアンの動画を見せて予習させていた。
「このどうぶつさんたちをみにいくんだよねぇ?」
とサトイモも楽しみにしていて、演奏予定の「おつかいありさん」を口ずさんでいた。
この調子なら、2年前よりちゃんと楽しめるかもしれない、と期待が膨らむ。
一方、夫は初めてのクラシックコンサートである。
私はむしろこっちのほうが心配だった。
夫はクラシックはもとより、童謡すらあまり知らない。
それでも、
「休みの日に家族でクラシックコンサートに行くなんて、まるでハイソな家族みたいやな」
と夫も喜んでいた。
私も久々にワンピースを着て、夫もジャケットを羽織った。
始まってしばらくはいい調子だった。
サトイモも出演者が出てきたら自ら拍手をした。
ステージを楽しんでいるように見えた。
ところが、前半の途中から、
「のどがかわいた」
とゴソゴソしはじめたので、休憩に入ったら気分転換に席を外した。
大ホール中を探検するサトイモ。
特に2階席が気に入ってウロウロ。
それが良くなかった。
休憩が終わって後半が始まっても、座りたくないと言い出し、こともあろうに叫びだす始末。
「今度は俺が連れ出すわ」
と夫がサトイモの口を塞ぎながら、横抱きにして連れ出してくれた。
子ども向けコンサートとはいえ、なんちゅう迷惑!!
二人がいない間、私はゆったりとコンサートを楽しめた。
二人はなかなか戻ってこない。
せっかくの初クラシックだったのに、夫がかわいそうだなぁ、と思いながら、通路とかで聴いてるかもしれないな、と気にしないことにした。
最後の曲が終わって、アンコールが始まる瞬間、夫がやってきて、
「すぐに出て!」
と言った。
切羽詰まっている。
私は慌ててコートや荷物を抱えてロビーに出た。
「またもらしやがった」
と夫は完全に頭にきている風に言い捨てた。
ロビーのベンチでオシッコをもらしてしまったのだ。
「ホールの人には言った?」
「ある程度拭いてから、パンツを洗いに行った間に、別の女のコがそこに座ってしもたんや。今さらもう言われへん。はよ出よう」
ハイソなはずの家族は、コソコソ逃げるように文化ホールを去った。
アンコール曲が後ろに聞こえる。
後ろ髪は引かれるが、ノーパンで濡れたズボンを履いているサトイモをなるべく早く家に連れ帰らなければならない。
「文化ホールに負い目ができてしまった」
と夫は言った。
私はもらしたことより、正直に言わずに帰ったことのほうに後ろ暗さを感じた。
家族の汚点。
ボクの演奏会
そんな親の情けない心情をみじんも理解せず、サトイモはシッコモラのことなんてまるで気にしていなかった。
夫も私もカンカンになって怒ったにもかかわらず。
「悲しいよ。コンサート楽しみにしてたのに! アンコールは全く聴けなかったんだよ!」
と私はサトイモに言った。
「またいけばいいよ」
「あのね、コンサートっていうのは一度きりなの。また同じコンサートがあっても、今日の演奏は今日だけのもので、過ぎたものは取り返しがつかないのよ…」
そんなことを言っても、サトイモはその意味の半分もわかるわけがない。
「まま、おんがくききたかったの?」
そういってサトイモは、
「そうだ!まま!ちょっとまっててね!」
と走り出した。
そして、オモチャ箱からタンバリンとハーモニカを取り出して持ってきた。
「ぼくがかわりにえんそうしてあげるからね」
プープー、バンバン、プピープピー、バンバンバン!
もちろんメロディもリズムもないけれど、サトイモはずいぶんハーモニカが上手く吹けるようになった。
カンカンだった怒りが少し和らいだ。
誰のせいで聴けへんかったと思とんねん、と苦笑いしつつ、なぜか「ありがとう」と言っていた。
…でも、もう、オシッコもらさんといてな。