3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

父のヘルパーさんから電話があった。

今朝、知らない番号から着信があった。
恐る恐る出てみると、父のヘルパーさんだった。

「今お宅に伺って、チャイムを鳴らしても出られないものですから、鍵で中に入らせてもらったんですが…」

まさか父に何かあったのか、と一瞬ひやりとする。

「外出されたみたいでおられないんです。連絡を取りたいんですけど、お父さんの携帯番号がわからなくて。教えていただけないでしょうか?」

なんだそんなことか。
少々ホッとしつつ、
「勝手ばかりしてすみません」
と平謝り。
にしても、いつもは起こされるまで寝ているのに、どこへ行ったのか。

すると、
「テーブルの上に書き置きがありました。『そば屋へ行ってきます』ということです」

そば屋!?
父の行動範囲にそば屋というのがないので腑に落ちない。
うどん屋かラーメン屋ならわかるんだけど…。

「生活援助ということで掃除に来ているんですけど、服薬確認や体調のおかげんを聞いたりもしてますので、ご不在のままだとまずいんです…」
とヘルパーさんは申し訳なさそうに言う。
そりゃそうだ。
申し訳ないのはこちらのほうで、きっと父は普段からトンチンカンなことを言って、迷惑をかけているにちがいない。

なんでヘルパーさんが来るのをわかってながら外出したりするかなぁ!?

ついでの電話で失礼だったが、普段の父の様子を教えてもらった。
「ヘルパーが来ない日は、起きるのが昼の3時や4時になっているみたいで、食事も1食だけになっているようなんです。そんな日はお薬もきちんと飲めていなくて。なんとかもう1日ヘルパーが入れないかケアマネさんに聞いているんですけど、生活援助では今が上限みたいで」
と言う。
1日1食という状況を聞いても、娘の私は具体的なアクションをすることなんて考えもしなかった。
せいぜい、
「お父さんちゃんと起きてちゃんと食べなさいよ」
と注意するくらいだ。
それなのに、
「生活援助じゃなく、服薬確認ということであと1日、30分だけでも増やせそうな気はするんで、ケアマネさんに相談してみます」
とヘルパーさんが言う。
そこまで考えてくれているのに驚いた。

ほかにも、最近はまたリハビリをさぼりがちになっているらしい。
これまでも、さぼる、注意する、行くようになる、さぼる、注意する、行くようになる…、の繰り返しだった。
正直、またか、とウンザリ。
これまで同様、「なんでサボるの?」「脚の調子が悪かったからな」「調子が悪いからリハビリに行くんでしょ?」「ああそうか」という、毎度おなじみのやり取りを繰り返すことになるだろう。

ヘルパーさんは、まだウンザリしていないから、あれこれ心配してくれているのかもしれない。


父の言い分

 

ウンザリだ、と思いながら、時間を置いてから父に電話をかけた。

「今日ヘルパーさんが来たとき家におらんかったらしいやん」
「昨日9時くらいに寝たから今朝は6時に起きたんや。朝6時なんかすることのうて、もっかい寝て、そやけどしんどうて。そうや、にんにく食べに行こう、思て、中華そばに行ったんや」

父のお気に入りのラーメン店には、にんにくのホイル焼きがある。
そば屋、というのでおかしいと思ったら、ラーメン屋だったのか。
中華そばとか支那そばとか呼ばれても、昨今では通じにくいんだからやめてほしい。

「置き手紙しといたから、勝手に入って読むやろうと思たんやけどなぁ」
という父に、
「お父さんは勘違いしてるよ。ヘルパーさんは家政婦さんじゃないの! 勝手に家に入ってきて掃除してください、ということじゃないんやで。それに、鍵を置いてるのは勝手に入ってもらうためやないんや。万が一、お父さんが倒れてたりした場合に備えて置いてるもんなんやから」
「へぇぇ、勝手に入ってもらうためやと思とったわ」
「ほんまは、ヘルパーさんが来るときはちゃんと起きとって、玄関開けなあかん。鍵を開けて入ってもうて、起こされるようじゃあかんのやで!」
「そうか。ほんなら今度からちゃんと起きるわ」

その後は、「リハビリには行きなさい」「早寝早起きをしなさい」「食事はちゃんと食べなさい」「お酒は飲みすぎないように」とお決まりの説教をして、母の様子を尋ね、父はサトイモの様子を尋ね、「じゃあね」という段になって、父はぼそりと、
「勝手に入って、置き手紙読んだらええのになぁ」
と言った。

全然わかってない!!

きっとまた、ヘルパーさんが来る時間にラーメン屋に行くかもしれない。
けれど、父にそれを理解させる術が思い浮かばない。