3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

みんななかよし

先週木曜日、幼稚園にサトイモを迎えに行ったら、園長先生、副園長先生、担任の先生が揃って出てきた。

「ちょっとお話がありまして」

あ、このパターンはデジャヴュ。

と思ったら、やはり前と同じでサトイモが被害者になったトラブルが起きた報告だった。

 

サトイモが砂場で遊んでいたとき、お友だちに後ろから帽子を引っ張られ、首にゴム紐が引っ掛かったらしい。

しばらく肌に赤く線が残るほどだったという。

「そばにいた職員がすぐに止めに入ったんですが、未然に防げなくて申し訳ありません」

 

「うちの子がまた何か悪さをしたんですか?」

「帽子を引っ張った子は、どうやらサトイモくんにオモチャを取られたと思ったみたいで。でも、実際はサトイモくんは何も悪くないんです。」

実はその子は、以前サトイモの背中に噛み付いた子と同じ子で、日頃からサトイモに被害妄想を抱いているようだとのことだった。

 

こわい子がいた!

それで私は思い出すことがあった。

朝、登園を渋るときにサトイモが、

「おーちえんに、こわいこがいるんだよぅ。こわいこがいるからいきたくない」

と言ったことがあったのだ。

 

「年中さん年長さんのお兄さんお姉さん?」

「ちがうよ」

「同じ組の子?」

「そうだよ」

「どんなふうに怖いの?」

「たたいてきたりするの」

「その子のオモチャを取ったりガシャンしたりした?」

「なにもしてないのに、たたいてくるんだ」

「それは怖いねぇ。じゃあ、ママが先生に、怖い子がいるからなんとかしてくださいって頼んであげる。だから幼稚園には行こう!」

 

そのときはそんなふうにごまかして、幼稚園に行かせた。

そしてすっかり先生に相談するのを忘れてしまっていたのだ。

怖い子がいるとゴネるのはそのときと、もう1回くらいだったかもしれない。

しょっちゅうなら深刻にとらえるけれど、1、2回だったのでスルーしてしまったのだった。

 

「怖い子」と言い出す前は、

「こわいせんせいがいるからいきたくない」

と言っていたせいもあった。

「どんな先生?」

と詳細を尋ねると、ある日は男の先生だったりある日は女の先生だったり、メガネをかけていたりかけていなかったり、日によって変わる。

やれやれ。

きっと、前の日に注意を受けたりした先生を怖い先生だと言ってるんだな。

そう理解した。

 

さらにその前。

4月、幼稚園の通常保育後の預かり先が定まっていなかったとき、キッズスクールというところに預けていたことがあったが、

「こわいこがいるから、きっじゅしゅくーるはいきたくない!」

と泣いたことがあった。

 

その頃のサトイモは、まだ物事をうまく言葉で表現できなかったけれど、キッズスクールの「怖い子」は小学生の男の子だということはわかった。

キッズスクールは無認可の託児所で、幼児から小学生までを人数制限なしで預かっている。

先生はいい人だったが、目を配るには限界がある。

年上の子が年下の子の面倒をみるようなことが自然と発生していて、女の子は親切にお世話してくれているようだったが、男の子は少々乱暴なところが見て取れた。

ベビーカーを猛スピードで押したり、抱っこして振り回すなど。

無邪気な子供ゆえの乱暴さであれば仕方ない気もするけれど、年下の子を乱暴に扱うことを面白がっているような、それでストレスを発散させているような雰囲気が感じられた。

根拠ない私の感覚だけれど、そういう空気を察したのは母親のカンだ。

 

「怖い子がいるなら、もう二度とキッズスクールには行かせない」

私はサトイモに宣言した。

それ以後、キッズスクールは利用していない。

 

そういうことがあったから、

「こわいこがいるから、おーちえんにいきたくない」

サトイモが言ったとき、

「もしかして、怖い子がいるっていえば、幼稚園も行かなくて済むと思ってる? 怖い先生では効果がなかったから、怖い子にシフトしたのかな?」

と私は勘ぐってしまったのだ。

 

でも、サトイモが言っていたことは本当だった。

同じクラスに怖い子は実在したのだ。

 

KYゆえに

怖い子の名前は、先生から教えてもらっていない。だから仮にワイくんとする。コワイのワイだ。

名前は教えてもらってないけれど、ワイくんが療育に通っていて幼稚園には毎日来ていないこと、社会との関わりがまだうまくできず、うちの子だけではなく、先生やほかの園児にも暴力的な傾向があるということは教えてもらった。

登園の際には、先生がいつも一人、ワイくんについている状態だという。

集団行動ができないので、一人で遊んでいたり、保育中も廊下に出ていたりすることが多いらしい。

 

そこでサトイモだ。

ほかの子はなんとなく、「ワイくんはみんなと違うんだな…」と推し量って寄っていかないのだけど、サトイモだけは、

「ワイくんどうしてひとりでいるのぉ?いっしょにあそぼうよ!」

と寄っていくのだそうだ。

 

そこでワイくんが遊んでいる積み木にでも触ろうものなら、ワイくんは取られたと思ってカッとなるし、

「こっちにおいでよ、みんなならんでるよ」

などと言われると、同調圧力をかけられたと腹が立つわけだ。

サトイモには全く悪気はなく、誰に対しても等しくフレンドリーにしているだけなんだけれど、ワイくんにしてみたら大きなお世話なのである。

 

ワイくんからしてみれば、サトイモをはATフィールド突破してくる使徒のようなもの。

やがて敵認定となり、サトイモの姿が目に入ると先制攻撃するようになったらしい。

 

サトイモくんは優しい気持ちからお友達を誘っているだけで、悪くないんです。だから、声をかけるのはやめてくれとは言えません」

と幼稚園の先生は困った表情をする。

でも、正直、何度も攻撃されている相手にあえてちょっかいかけるサトイモに、

「おいやめろっ!そこ近寄るなー!」

と言いたいのは山々なのだと思う。

 

対策としては、常に先生たちが二人を見張り、二人が接近したら不自然にはならないよう引き離すようにします、とのこと。

 

幼稚園訪問

家では私からサトイモに、

「一人で遊びたい子もいるから、そういう子には声をかけないほうがいいときもあるんだよ。サトイモだって邪魔されたくないことだってあるでしょ?」

と婉曲にワイくんに声をかけないよう伝えてみたものの、たぶん理解できなかっただろう。

全般的にまだ他人の気持ちを推し量ることが難しい年頃だ。

 

心配ではあるので、発達支援教室で先生に相談してみたところ、教室の先生がさっそく翌日に幼稚園訪問をしてくださった。

幼稚園がどう対応しているのか、セカンドオピニオンがもらえたのはすごく心強い。

 

教室の先生から見ても、二人はやはりお互いをすごく意識し合っているようだという話だった。

同じ部屋にいると、少し離れていてもお互いにチラチラと様子を見る。

「5メートルくらい離れてたんですけどね、あるときバチっと目が合ったんです。その瞬間、ワイくんが突然サトイモくんのほうに突進して行ったんですよ。すると同時に、サトイモくんの近くにいた先生が、『サトイモくん、ちょっとこっち来て』って声をかけて、引き離したんです」

幼稚園では二人が接触しないように、そこまで注意を払ってくれているとのことだった。

加えて、着席したり並んだりというときには、ワイくんの視界にサトイモが入らないように、位置も最大限の工夫をしてくれているらしい。

安心したと同時に、幼稚園の先生たちも大変だなぁ、と苦労が忍ばれた。

 

知らない子はもういない

昔の教育テレビ(今のEテレ)に、『みんななかよし』という道徳教育番組があった。

内容は何一つ覚えていないけれど、主題歌は印象に残っている。

 

♪口笛ふいて 空き地へ行った

 知らない子がやってきて

 あそばないかと笑って言った

 

その歌詞について、夫と話をしたことがある。

夫は歌詞の覚え間違いについてはプロ級で、うろ覚えどころか、全く違う歌詞を歌っていることが多いのだけど、驚くべきことにこの歌詞については正確に覚えていた。

 

歌の最後がこうである。

♪口笛ふいて 空き地へ行った

 知らない子はもういない

 みんな仲間だ なかよしなんだ

 

「知らない子はどこへ行ったんだろうね」

と私が言うと、

「何言うとん?! 知らない子は友達になったから、もう他人じゃないっていう意味やんか! わからんかったん?!」

と夫にビックリされてしまった。

 

言われてみればそのとおり。

なんでわからなかったんだろう?!

 

サトイモとワイくんのことを聞いてから、『みんななかよし』の歌が耳を離れない。