3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

知能検査を受けた結果(2)

【前回の続き】

※知能検査の設問に関してはフィクションを加えました。というのも、同じ検査を受ける方に問題が漏れてはいけないらしいので、盛ったり引いたり作ったりぼかしたりしてます。

 

「ですが」

と専門家は一区切り置き、

「質問の答え方を見ていくと、質問者の意図とは関係なく答えている、設問の意図がわかっていない、ということがわかります」

と専門家は言った。

「聞いてる相手のことはおかまいなし。彼はすべてがマイワールド、マイペースで生きているんです」

 

部屋に入ったとき、専門家はサトイモとちょっと挨拶を交わした。

それだけなのに、ずいぶんわかったように断言するなぁ、と驚いた。

だが、マイワールド、マイペースは全くそのとおり。

なんだか、占い師に占いの結果を聞いているような気分になる。

 

「例をあげましょう。好きな動物を3つ聞かれたとき、彼は『らいおんちゃん、くんくん、ころすけ』と答えました。これ、動物じゃないですよね」

「お気に入りのぬいぐるみです」

私は検査のとき後ろで聞いていて、可愛らしい間違いだとほのぼのしたが、専門家は厳しい。

 

「動物、と言われたら3歳の子でも(!)生きている動物を答えます。ぬいぐるみって、ちょっとズレてますよね。これに代表されるように、年齢なりの正確さがないんです。どこかにズレがある。そして非常にあいまいに、漠然と世界を捉えています」

確かに、サトイモは理解できていることと、全然わかってないことの差が激しい。

なんで動物3つが言えないのか、確かに不思議だった。

 

「ふだん、お母さんがどこで買い物をしているか尋ねたときも、答えが出ませんでした。でも、お母さんお父さんと何回もスーパーへ買い物に行っているはずです。お店の名前でもかまわない。でも、出てこない。わからない。自分の興味関心で店内を走り回ることに一生懸命で、お母さんが何をしているのか、一切目に入っていないのです」

言われてみれば、そのとおり!

スーパーで走り回ってるなんて一言も言ってないのに、なんでこの人わかるの?!?!

 

マイワールド、マイペース

「お母さんや先生方が教えたことはちゃんと理解して答えています。でも、教えてないことは何もわからない。なんとなく察するとか、雰囲気でわかるということがない」

 

あ、そういう人、よく知ってる。

 

うちの父だ。

御香典を茶封筒に入れて持っていこうとしたので、

「常識で考えたらわかるでしょう!」

と注意したら、

「誰も教えてくれんかったもん」

と答えた父。

数多く起きた母とのボタンの掛け違いでは、母はよく、

「アホやないんやから考えたらわかるやろ?なのにお父さんはわざとあんなことやって、私に嫌がらせしとんや!」

と怒っていた。

わざとではないのではないか?

父は本当にわかってないのでは?

そう思うようになったのは、私が「発達障害」という言葉を知ってからだ。

 

そうか、サトイモもあのタイプなのか…。

 

専門家が指摘したいことが、だんだんわかってきた。

 

「彼には世の中の流れがわからないので、自分の力で考えると、とてもユニークなものになります。例えば、、、」

専門家はいくつかの珍回答を教えてくれた。

 

Q.窓は何のためにある?

A.鍵を失くしたとき、窓から入るため

 

Q.この女の人の顔の絵の中に足りないものがあります。何でしょう?(正答:目が片方ない!)

A.首から下

 

「非常にユニークです。今は笑って済ませられます。でも、二十歳になっても同じ回答をしていたら困るでしょう? 彼が生きづらくならないように、これからお母さんや先生方が事細かに、普通は教えなくてもわかるようなことでも、丁寧に世の中のことを教えていってあげてください。」

 

不足するイメージ

その後、専門家から「全滅」だった質問項目について説明を受けた。

一つは、抽象的な言葉。

具体的な物の名詞はよく知っているけれど、抽象的な言葉が全滅だと言われた。

 

その中の一番の珍回答はこれ。

Q.お父さんお母さんはお仕事してるけど、お仕事って何かな? 何のためにお仕事してるのかな?

A.忙しくしていたいため

 

確かに、真理ではある。

本当にその仕事は必要なのか?

現代人の病ではないのか?

そんな哲学すら感じるが、質問者はそんな禅問答をやってるわけではないのだ。

 

「抽象的な言葉だけではありません。文章題の算数も全滅でした」

 

例えば、

「太郎さんはリンゴを1つ持っていました。花子さんはリンゴを2つ持っていました。合わせていくつ?」

というような問題。

 

私もサトイモが答えているのを聞いたとき、「あれ?」と首をひねった。

知育アプリでは、算数がとても得意だからだ。

例えば、右に○が3つ、左に○が4つあって、合わせていくつになるか、選択肢から数字を選ぶような問題は、スラスラ解ける。

なのに、なぜ文章題は1+1がまるで答えられなかった。

 

「文章を聞いて、その内容を頭の中でイメージすることができないから解けないんです。イメージする力が非常に弱い。それが顕著に現れています」

 

専門家が次に指摘したのがお絵かきだった。

「積み木で図形を作る課題は優れていますが、絵を描く課題になるととたんに描けなくなります。絵を描くためには、描きたいものを頭にイメージする必要があります。それができないから描けないんです。」

 

サトイモはひどく絵がヘタだが、言われてみれば納得だ。

幼稚園の担任の先生も納得したみたいで、

「お絵描きをしようとなると、彼は文字を書きたがるんです」

と幼稚園での様子を教えてくれた。

「そうでしょうね。文字は定型化された記号ですから、文字を書くのは得意なはずです。お絵描きの時間、どうしても難しそうだったら、先生が枠だけ描いてあげて、色を塗るだけでいいようにしてあげるなど、配慮してあげてください。」

専門家はそこまで幼稚園の先生に踏み込んでアドバイスしてくれた。

 

それにしても、イメージする力がそんなに弱いとは。

イマジンできないなんて、ジョン・レノンが墓場で驚いてるよ。

 

だからバカに見えるけど

もうひとつ、全滅パレードに加わったのが、短期記憶という分野だった。

短い文章を覚えて復唱する問題が、カラッキシだったのだ。

 

これも思い当たるフシ、あるあるだ。

神経衰弱ゲームがとても弱い。

さっき言ったことやしていたことを忘れてしまう。

親からすると、

「この子、残念ながらあんまり頭良くないのかも…」

と思ってしまう瞬間だ。

 

でも、専門家によればそういう特性らしい。

「この子への指示は1つずつにしてください」

と専門家が言うと、また担任の先生が幼稚園エピソードを話してくれた。

 

「クレヨンは棚にしまって、粘土と粘土板を取ってきて、イスに座りましょう」

という指示を出したとき、サトイモは粘土だけを持ってきて、

「ねんどとってきたよ。ねんどとってきたらいいんでしょ? ぼくねんどもってるよ」

と何度も先生に言いに来て、そのあとどうすればいいのかわからなくなってウロウロする、ということがあったらしい。

 

そんな子ども、バカにしか見えない。

私は「サトイモは幼稚園でそんなことになってたのかぁ…」と思いながらも、

「そんなときは、指示をひとつひとつにバラしてフォローしてあげてください」

と専門家が先生に伝えてくれてたことを感謝した。

 

「今はまだいいですが、小学生になるとお友達の輪の中でそれが問題になってきます。『あれとこれを持って、あそこであれして遊ぼな』となる。みんなが『な!』で暗黙の了解で去っていく。彼だけが、みんなが何しにどこへ行ったかわからず、ぼんやり佇んでいる。そんなことが起きます」

 

嫌な予言だけれど、想像がつく。

サトイモの学校生活のことを考えると、暗い気分になる。

でも、そうなりがちだということがわかれば、回避策だって可能だということだ。

 

そういえば、サトイモがとんでもない悪さをしたとき、私がカッとなって、

「なんでそんなことするんやバカタレ!」

と怒鳴ったとき、サトイモは、

「ぼく、バカタレじゃないよ!」

と泣きながら訴えてたっけ。

サトイモはバカじゃない。

ちょっと発達にデコボコがあるだけなんだ。

 

【まだ続く】