3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

子育てリベンジマッチ

夫が約1ヶ月半の海外出張に旅立ったのは、「父の日」の2日後だった。

 

父の日の日曜、夫は娘さんからプレゼントしてもらったクラフトビールの詰め合わせと、サトイモが幼稚園で作ってきたパパ用コップを前に上機嫌だった。

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サトイモが作ってくれたこのコップで飲んだら、ビール美味しいわ」

と言うと、サトイモも、

「じゃあまたつくってあげるね!」

と喜んでいる。

「俺は幸せな父親や。行くの嫌やなぁ」

夫は子供がいる幸福と、そこから遠く離れて働きにでないといけない不幸せを噛み締めていた。

 

毎年、私も父の日は何かプレゼントを贈っていたが、今年はやめにした。

母の危篤騒ぎの際、父が母に対して、

「何を感謝することがあるんや。こっちが感謝してほしいくらいや」

と言い放った言葉が憎らしく、もしも「今年の父の日は何もしてくれなかった」などと言おうものなら、同じ言葉を返してやるわと憤っていた。

 

父の子育て

それでも、子育てをするようになって、私自身が幼い頃の父の育メンぶりを振り返り、感謝することがいくつもある。

 

父は毎日夕方5時半に帰宅。

買い物に行くと、必ず一冊は絵本を買ってくれたし、テレビアニメの放送があればチェックして教えてくれた。

跳び箱が跳べなかったら馬になってくれて練習台になってくれたし、鉄棒で逆上がりができなかったときは公園で練習に付き合ってくれた。

「なみ松が好きなようにしたらええんやで」

そう言って、いつも私の自主性を重んじてくれたし、一度も怒鳴ったり手を挙げたりしなかった。

 

子育てにおいてそういうスタンスはとても重要だ。

最近トレンドの子育て本や動画なんかに出てくる関わり方を、父は40年以上前からやっていたのだ。

途中からおかしなことになって、私がひねくれてしまったけれど、子育て方針は立派だったと今にして思う。

 

サトイモを連れて実家に行ったとき、サトイモが一度口に入れた食べ物を吐き出しているのを私が叱り、何度言ってもやめないので頭にきてつい手を振り上げてしまったことがあった。

「叩いたらあかん!」

父がとっさに言った。

「子どもを叩いたら絶対あかん!」

言われて初めて、それは頑ななまでの父の子育てポリシーなのだと気づいた。

 

…だったらなんでお母さんを殴ったんだよ。

と、娘は思うのだが。

すべてにおいてパーフェクトな聖人はいない。

人間は矛盾する生き物だなぁ。

 

孫で再チャレンジ

父の父(つまり私の祖父)は50歳で早死にしたので、母も会ったことがなかったそうだ。

そのため、本当はどんな人だったのかわからないのだけれど、父から祖父に対するポジティブな発言を聞いたことはない。

 

「とにかくよう怒られて、よう殴られた。なんで怒られるんかわからんかった。ほんで最後はボカーン!や」

おじいちゃんについて教えて、と聞くと、父は暴力の記憶しか言わない。

 

実際そうだったんだろうけれど、怒られる理由がわからないのは本人だけで、怒っているほうには理由があったはずだ。

でも、父は自分の何が悪かったかまるでわからず、同じことをしてまた叱られていたんだろう。

サトイモを怒るとき、ときどきそんな父のことを考える。

サトイモも、なんで怒られてるのかわかってない可能性が高い。

私も、なぜかガミガミ怒るばかりの母親として認識されているかも。

 

母の認知症に対応するときに学んだ、

「なぜ叱られたかは忘れてしまうが、叱られた負の感情だけは心に蓄積する」

という真理が、発達障害の子供にも当てはまる気がする。

 

お祖父ちゃんの時代に発達障害だとか「叱らない子育て」だとかを理解しろというほうが無理だけれど、令和の今は違う。

父が間違った育てられ方で才能を伸ばしてもらえなかったのを、サトイモでは失敗しないようにしたい。

 

知能検査で「IQ130&おそらくADHD+PSDか何か」と言われたあと、私はショックとともに闘志がわいた。

高IQ問題児、上等!

できないことを悲観するより、できることを楽しめばいい。

平凡でつまらない人生より、困難で面白い人生を!

これは、私に課せられた父のリベンジだ、と。

 

わかっちゃいるけどやめられない

しかし、子育てのヤル気に満ちていたのは最初の数週間だけだった。

夫の不在が影を落としているのか、最近のサトイモはワガママがひどい。

ワガママをコントロールできず、ついブチ切れる日々に、私の自信は崩れていく。

 

一番困るのは、「おうちにかえりたくない」病。

園や教室からの帰り、勝手に走っていってしまうのだ。

勝手に、といっても、一人で行くわけではなく、

「ママついてきて!」

と私は盲従しないといけないらしい。

 

仕事帰りで疲れているし、早く帰ってやらないといけない家事もあるのに、家とは逆方向にウロウロし、おまけに自分では荷物も持たないで私に持たせ、意味なく遠回りばかりさせられると、さすがに切れる。

「いい加減にしなさい!そっちには行かないからね!!」

こちらが折れないでいると、大声で泣き叫び、道にひっくり返る。

挙げ句、

「だったらもう、おうちをこわすよぉ!!ママはおうちがこわれてもいいの?!」

とテロリストのような脅迫をしながら、大声で泣く。

近所迷惑もいいところ。

 

帰りもひどいが、朝の登園しぶりもひどい。

あの手この手で準備をさせようとするが、すぐにベッドの中に潜り込んだり、ソファの後ろに隠れたりして、出かけるのを拒絶する。

 

無理やり靴をはかせると、靴をはいたまま家中走り回る。

無理やりトイレに座らせようとすると、パンツを脱いだところでトイレ前でおしっこをもらす。

 

もらされたときはさすがに私が精神的に参ってしまって、

「もらすなんてひどいよ!もう会社に間に合わないよ!ママは頑張ってるのに、なんでそんな嫌がらせばっかするの?!」

と床を拭きながら声を上げて大泣きしてしまった。

私が泣く様子にサトイモは満足したのか、態度が前向きになり、ご機嫌で幼稚園に出かけて行った。(そして幼稚園にも会社にも間に合った。)

 

こういうワガママは、注目行動だとか試し行動だとか呼ばれるものだとは思う。

それならば、怒ったり無視するのは逆効果で、「どんなに悪いことをしても、私はあなたを愛しているよ」という態度を取るのが正解、らしい。

わかっている。

怒っても解決しないことは。

わかっていても、イライラして頭に来るし、「あんな子供ほって帰りたい!もう知らん!」と逃げたくなるのが人間ってもんだ。

 

子育てリベンジマッチは早くも負け色が濃厚。