ゴンタ坊主と中国人のママ友
サトイモの病気が治ったら、これまで以上にパワーアップしてゴンタ坊主が戻ってきた。
大人のベッドの上を走り回る、ベッド柵によじ登る、トイレのドアを開けて中に入り、便座のふたを開けて便器の中を触ろうとする、トイレットペーパーやティッシュペーパーをどんどん引っ張り出す、ごみ箱の中身を全部放り出す、本を破る(なんと図書館で借りた本を!!)、室内物干しを遊具がわりにする、ダイニングのイスを移動させてテーブルの上にのぼる、テーブルの上に置いていた私の菓子パンを盗み食いする。もちろん前回も書いたように、当然本棚の本は放り出される。
「子どもの手が届かない場所に」と思って置いたはずが、背が伸びたりイスを運ぶ知恵がついたり扉を開ける力がついたりして、どんどん安全地帯が減っていく。
なみ松の叫び
先日、今年一番の「叫び」が出た。
キッチンで洗い物をしていたら、何やらカチャカチャと音がする。
サトイモはしまじろうを見ていたはずでは?
覗くと、DVDはとっくに終了していて、ダイニングテーブルの上にサトイモが座っていた。
テーブルの上には、消費増税前に駆け込みで買ったばかりのノートパソコンと、さっき淹れたばかりのお茶を置いていた。
まさか…。
そのまさかだ。
コップは無残に倒され、サトイモはお茶っ葉を粘土のようにつかんでクチャクチャやっている。
わ゛っーーーーーーーーーー!!!!!
こういうときはね、まず叫ぶしかできないものなんだな。
慌ててパソコンを拭きながらも、壊れた機械のようにずっと叫び続けていた。
幸い、パソコンは無事で今もちゃんと起動してくれているし、お茶も冷めていてサトイモがヤケドすることもなかったけれど、まったく何をされるかわかったもんじゃない。
子育てが楽しくなる時期
今思えば、赤ちゃんの頃はまだ余裕があった。
ダイエットのエクササイズとかやってたんだから。
授乳中はドラマもたくさん見たっけ。
でも、どっちが楽しいかというと、今のほうが楽しい。
ひとつは、今のほうがサトイモが可愛いからだ。
赤ちゃんは小さくて愛らしいけれど、反応がない。
上を向いてモゾモゾ手足を動かすだけ。
それに比べて今は、おしゃべりこそしないけれど、呼びかけると反応するし、笑顔でアイコンタクトができるし、楽しいことがあれば笑いあって共有できる。
「顔立ちが美しい人よりも、表情が豊かな人のほうが魅力的だ」と誰かが言っていたけれど、幼い子を見ていると本当にそのとおりだと思う。
泣いたり笑ったり、くるくると表情が変わる子は魅力的で愛くるしい。
もうひとつ、今のほうが子育てが楽しいのは、「どこかに行けば誰か知り合いに会う」状況になってきたからだと思う。
家にいたらイタズラばかりされるので、毎日いろんな場所に遊びに出かける。
今日はあっちの児童館、明日はこっちの子育て広場、次はあの幼稚園の園庭開放、といろいろ出かけているうちに、ずいぶんと顔見知りも増えた。
スーパーや道で知り合いに会うことも多くなった。
誰がどこに住んでいるのかも、だんだんわかってきた。
引っ越しして1年半。
ようやく地に足がついてきたな、という気がする。
中国人のママ友
隣のマンションに、ちょうどサトイモと同じくらいの歳の子がいる。
夕方になるとお母さんと二人でマンションの前の道で遊んでいて、長い間気になっていたけれど話しかけられずにいた。
すれ違うときに会釈をすると、向こうもニコニコと笑いかけてくれる。
話しかけにくかったのは、どうやら相手が外国人のようだったからだ。
「どう見たって中国人やろ」
と、一時期仕事でよく中国に行っていた夫がそう言った。
「なんでそんなんわかるん?」
「パジャマで外に出るなんて、中国人に決まっとう」
「私は産後でまだ調子が悪いのかと思ってたわ」
「調子が悪かったら外に出ぇへんやろ」
「それもそうか」
うちの夫が絶対中国人だというので、ある日、勇気を出して中国語で話しかけてみた。
ちゃんと通じた。
子どもはサトイモと5ヶ月違い。
驚いたことに、10年ここに住んでいるという。
それでも日本語が全くできないので、少しでも中国語を話せる私をほめてくれた。
夫にそのことを話すと、
「10年て、聞き違いちゃう? 昨日今日中国からやってきたばっかりみたいに見えるけど?」
と私のヒアリング力を疑った。
「10年おって、あんな服着る?」
夫がそう言うのには、お母さんのパジャマに加え、子どもが着ている服のせいもあった。
お尻に穴が開いていて、あそこが丸出しになっているのだった。
夫も私も驚かない。中国ではそれがスタンダードである。
オムツでガードをするのではなく、逆に丸出しにして垂れ流すのだ。
オムツいらずで経済的!
…だけど、出されたら、後片づけはどうしてるんだろう????
オムツの中に出されるのでさえ、あとでトイレにウンチを捨てるのに苦労する。
なのに、そこらで出された日にゃ、片づけがたまったもんじゃない。
気になり始めると、中国人親子がうろうろしている道によくウンチが落ちているのを発見するようになった。
「そうとは限らないのだけど、可能性はあるよな…」
ウンチを見つけるたびに気になって仕方なかった。
中国人親子とは、3日に1回くらいのペースで会う。
会えば、子どもの成長のことだとか、幼稚園や保育園のことだとか、私の拙い中国語でおしゃべりする。
もう「お友達」と言ってもいいくらいに。
でも、毎回、丸出しになっているお尻について、指摘をすることができなかった。
「日本では、幼児とはいえ糞尿を道に垂れ流してはいけないんですよ」
私が指摘せずして、誰が彼女らに指摘してあげられるというのだ!
そう使命感を感じるものの、私の中国語の能力不足で、どうやって注意すればいいのかがわからなかった。
いつか中国語が上手な人に、「やんわり注意する」のはどんなふうに表現すればいいか教えてもらおう、と思っているうちに日が過ぎた。
今日の夕方、また道で中国人親子に出会った。
秋風が吹いていた。
お母さんが、クシャミをしてたから風邪を引きかけてるかも、と子どもの心配をしていた。
子どもは、カーディガンに暖かそうな長ズボンをはいていた。
長ズボンには穴は開いていなかった。
なんとなくホッとした。
児童館に行ったことがあるか尋ねると、ないという。
児童館という言葉も知らないようだった。
今度一緒に行こうよ、と誘ってみたけれど、さて、うまく通じているかなぁ。