3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

下町なぜなに坊や

最近のサトイモは、「なんで?どうして?」が非常に多くなった。

もう、それはそれは面倒くさい。

でも、私自身が大変な知りたがり屋なので、サトイモの興味関心が頼もしくもあり、うれしくも楽しくもある。

 

先日、散歩していると、サトイモが理容室の前のサインポールについて、

「あれはなに?」

と聞いてきた。

「ここは髪の毛をチョキチョキするお店ですよ〜、っていうサインなんだよ」

「どうしてクルクルまわってるの?」

「わからないけど、クルクルまわったほうが目立つし、今お店をやってますよ〜ってわかりやすいからじゃないかなぁ」

「どうしてああなってるの?」

「『ああなってる』ってどういう意味?」

「まえにみたのは、たててあったのに、どうしてあれはヨコにでてるの?」

 

確かに、そこのお店のサインポールは道に垂直に立てずに、壁からナナメに突き出ていた。

「縦に置こうが横に置こうがナナメに出そうが、店の人の勝手じゃないの?そうしたかったんじゃない?」

正直、「どーでもいいでしょそんなこと!」と言いたいところを我慢して、もっともらしく言ってみる。

「なんでそうしたいの?」

「わからないけど、歩道のすぐそばだから、立てるスペースがなかったとか狭かったとか、いろいろあるやろ。知らんけど」

結局知らんのかい!と自分でも突っ込みたくなる。

でも、サトイモのなぜなぜは私が「知らん」というまで続くのだった。

 

花街の名残り

その帰り、ご近所のおばあさんが植木に水やりをしているところに遭遇した。

上品で穏やかな80歳くらいの女性で、これまで、道でダダをこねたり家に帰りたがらなかったりするサトイモをみかけると、よく声をかけてくれた優しい人だ。

この人には何度も助けられた。

 

「なにしてるのぉ〜?」

当然サトイモは声をかける。

「お花にお水をあげてるのよ」

おばあさんはにこやかに答えてくれる。

「なんでこれ、こうしてるの〜?」

サトイモは空いている植木鉢の上にカバーがしてあることについて尋ねる。

「ニャンコちゃんがおしっこしに来ないように置いてるの」

私は、

「最近は『なんでなんで』がひどいんです」

と訴える。

「あらまあ、もうそういう時期になったんやねぇ」

とおばあさん。

 

「どうしてこれついてるの?」

サトイモはおばあさんの家の壁についている理容室のサインポールについて尋ねた。

実は私もずっと気になっていた。

それがあるということは、おばあさんの家はかつては理容室だったんだろう。

気になっていたけど聞きそびれていたし、なんか大人の気がねで聞けなかった。

さすが子どもは何の遠慮もない!

 

「昔はここで髪の毛を切るお商売をしてたからよ〜」

とおばあさんはサトイモに答えたあと、私には大人の言葉で、

「主人と主人のお父さんの代からやってましてね。70年くらい続いた店だったんですけどね。主人が亡くなって閉めたんです」

と教えてくれた。

 

昔、このあたりは花街で、たくさんの料亭、たくさんの芸妓さんでにぎわっていたと聞く。

今はその面影のない住宅街になってしまった。

私が今のマンションを買ったとき、元住人のおばさんが、このあたりは阪神淡路大震災で壊滅的な被害を受けたと言っていた。

元住人のおばさんの家も全壊し、近くで更地になって建てられたうちのマンションに住むことになったそうだ。

たくさんの家が壊れ壊され、新しい建物が建って、住人は入れ替わっていく。

それでも元理容室のおばあさんのような昔からの住人がいて、私たちのような新住民と少しずつ知り合いになっていくのだ。

 

なぜなにが役立つとき

「なんでこれはタテになってるの?」

またサトイモがきいた。

「タテ?」

「まえにみたのはこうなったのに、どうしてこれはタテなの?」

 

そんなこといきなり聞かれてもわからないので、私が、

「さっき道で見たお店はサインポールが壁から斜め横に出てたんです」

と補足すると、

「ああそう。よく気がつくんやねぇ」

とおばあさんは笑った。

「それはね、横に出したほうが遠くからでもよく見えるからよ」

 

「なるほど!そうなんですか?!」

私のほうがビックリした。

「下に置いたり壁に縦につけるスペースがないからかと思ってました」

「そういうこともあるやろうけどねぇ、歩道に面してるお店なんかやと、斜め横に張り出したほうが見えるからねぇ」

 

「じゃあどうしてここはこうなの?」

「ここでナナメに出すと、道が狭いから車が通ると当たっちゃうでしょ? 道によってね、付け方があるのよ」

なるほどなるほど。

私のほうがよほど感心してしまった。

聞いてみるもんだ。

 

「どうしてこれはまわらないの?」

「今はお店をやってないから止めてるの。でも電気を入れればまだ動きますよ。あ、ちょっと待ってて。電気を入れてあげようか」

おばあさんはおうちの中に入っていった。

「えーっ、わざわざいいんですか?!」

と私が言う間に、サインポールにライトがつき、クルクルと回り始めた。

 

「ほんとだ!まわったね!」

「見せてもらってよかったねぇ!」

私とサトイモが喜び、

「もういい?」

とおばあさんが出てきて、私たちはお礼を言った。

 

「もう何年もつけてなかったけど、ちゃんと動いてよかったわ」

とおばさんが言うと、

「よかったよかった」

サトイモが言う。

何様か。

 

そのあと、家に帰ってから夫にその話をした。

「ほんまにこの辺りは下町情緒が残っとうなぁ。いろんな人に手伝ってもらって子育てしとうなぁ」

夫が感心していた。

 

夫はご近所さんをほとんど知らない。

男性は地域社会と縁が薄く、リタイア後居場所がないのもうなづける。

子ども連れで歩き回るからこそ、私も知り合いが増えていくわけで、大人ひとりなら近所の人とも交流はなかっただろう。

そういう意味でもサトイモに感謝する。