3歩前のことを忘れる女のサブカルと介護の記録

神戸に住む40代波野なみ松の、育児と趣味と要介護両親の対応に追われる日々の記録。

バイオレンスできない人

またまた木曜日がやってきた。

プレ幼稚園はこれで3回目だけど、今回は先生に引き渡すと大泣き。

玄関先でグズグズしたのがよくなかったと反省。

本人も過去2回の経験で「ここに来るとママと離れ離れになる」ということがわかってしまったので、初回のようにはいかない。

来週さらに困難にならなければいいけど。

 

そして私は、初回ほどこの2時間半をウキウキワクワク期待することがなくなった。

家事をしてブログを書いて買い物に行ったら終わりなのだ。

9時からの2時間だと店も開いていない。

いうほど何もできん。

 

今週のお楽しみは、オンラインやついフェスと筋肉少女帯の配信イベントをゆっくり再見するくらいのものだ。

それとて、たった2時間半だと少ししか見られない。

 

サトイモのイヤイヤは相変わらずで、何を言っても何をしようにも「イヤイヤ」だ。

「そっかぁ、この世のすべてが嫌になっちゃったんだねぇ」

と抱きしめてゆらゆらしながらトントンするけれど、それで治まってくれるわけでもない。

 

閉塞してしまって、あんまり頭にくると、ふと、

「叩いたり蹴ったりできたらスッキリするのかなぁ」

と思うこともある。

 

じゃあ、私が暴力的な衝動を抑え込んでいるかというとそうでもなくて、

「できればどんなに素敵だろう、どんなにカタルシスがあるだろう」

という夢の世界が広がっているばかりである。

 

自分にはできないと悟った日

2015年の夏、父が脳梗塞で入院をした。

もちろん、母は大脳皮質基底核変性症で身体の自由がきかず、生活に全介助が必要な頃だった。ダブルケアである。

もう5年も経つとすっかり忘れてしまったけれど、ブログも書けないくらいつらい時期だった。

その父の退院の日のことである。

 

私は慣れない運転をして迎えに行き、帰りに快気祝いとして和風のカフェでランチを食べた。

一杯だけならいいよ、と言うと、父はビールを注文。

「2週間ぶりやから美味しいなぁ」

と父は上機嫌だった。

「入院はつらいなぁ。酒もタバコもあかんのやからなぁ」

何度も脱走しようとしたためナースステーションの前の病室に入れられ、ベッドにセンサーまでつけられた老人は言った。

 

「お酒はちょっとならいいけど、これを機会にタバコは絶対やめなあかんで」

医者にもそう言われていた。

父もよくわかっていたはずだった。

 

家に帰って来ると、父がなかなか車庫から離れない。

「ちょっと酔うたからここで休む」

と言って階段に腰をかけている。

「大丈夫?」

と声をかけると、

「大丈夫大丈夫」

というので、私は先に車から荷物を降ろし、玄関まで運んでいた。

すると、私が玄関に入ろうとしたところを見計らったように、よろよろとした足取りの父が車に乗り込もうとしているではないか。

 

私は慌てて引き留めに行った。

「何してんの!?」

「ちょっとだけや。ちょっとだけ行かせてくれ」

 

ピンときた。

タバコを買いに行こうとしているのだ。

 

「今乗ったら飲酒運転やで!わかってんの!?絶対あかん!!!」

「どうってことあらへん!」

 

運転席に座ろうとする父の腕を私は必死で引っ張るけれど、向こうも必死である。

ドアの前で揉み合いになった。

 

一瞬、私の足が出た。

父の腰に当たる寸前だった。

 

でも、止めた。

蹴れなかった。

 

その後、父は車を発進。

私は開いたドアにぶら下がりながらしばらく走ったが、あまりに危険なのですぐにあきらめた。

「お願いやから行かんといて!」

ご近所の手前も気にせず、道路で泣き叫ぶ私。

 

このときのみじめな気持ちは一生忘れない。

 

このとき悟ったのは、走る車にぶら下がれるスタントマンはすごい、ということと、私は親を蹴ることができない、ということだった。

 

人生の師「母をたずねて三千里

大好きなアニメ「母をたずねて三千里」の第30話「老ガウチョ カルロス」で、こんなシーンがある。

 

ある食堂でマルコがペッピーノ一座のみんなと食事をとっていると、ある荒くれ者にからまれる。

娘を守るためにペッピーノさんが護身用の銃をかまえると、荒くれ者は決闘だと騒ぎ、撃ってみろと言う。

けれど、ペッピーノさんは土壇場になって銃を捨てる。

「わしには撃てん。人間を撃つなんてわしにはできん」

するとペッピーノさんはナイフを突きつけられて殺されそうになり、落ちている銃を拾ったマルコが、

「ぼくはペッピーノさんと違う! ほんとに撃つからね!」

といって震えながら銃を構えるが、やっぱり撃つことはできない。

 

結果的にはカルロスじいさんが来て荒くれ者をやっつけてくれるので、見ているこっちの溜飲は下がるのだけど、ペッピーノさんの「腰抜け」具合にハラハラさせられる回である。

「あんなクズ野郎、撃っちゃえばいいのに!」

と思ってしまうけれど、じゃあ私はどうだろうか。

 

たぶん、ペッピーノさんと同じだ。

引き金を引くことなんて、できやしないだろう。

 

夫はバイオレンスができるか

もしうちの夫がペッピーノさんの立場だったらどうだろうか。

尋ねたら、

「俺は撃つよ」

と言う。

でも、ほんとかしら。

 

サトイモのしつけのためには叩くのもやむなし、という意見の夫。

先日、食卓でイスの上に立ち上がるサトイモを夫が注意していた。

「今度立ち上がったら、頭をコツンするよ!」

とげんこつを見せたが、サトイモは笑顔でまた立ち上がった。

「コラ!」

と夫が怒った顔を見せてコツン!

 

おやおや?

全然痛そうじゃないし!

 

サトイモは「へへへ」と喜んで、もっと叩いてほしそうに頭を突き出している。

「こら、坊主!」

ニコニコ笑顔のサトイモに、夫の顔がほころんでしまう。

 

「もっとコツンするぞ!ええんか!」

口ではそう言っても、やはり手加減をしているので、サトイモモグラたたきの様子で立ったり座ったりで遊び始めてしまった。

完全に夫の負け。

 

私は心の中で、

「夫も私と同じじゃないか」

と笑ってしまった。

夫だって、かわいい子どもに本気で手を挙げることはできないのだ。

たぶん、夫もペッピーノさんと違わない。