カメラ設置後の1週間
犯人を推理する
1月2日に引き出しへ入れた3万円が、1月10日には2万円になっていた。
つまり、犯人はその間に家にやってきた人物。
父は週5でヘルパーを利用しており、日替わりで5人のヘルパーが来ていた。
この5人の中の誰かが犯人だ。
私と夫は過去データを洗った。
Excel表で5人を色分けをして表示し、各ヘルパーが初めて家に来たのがいつかを調べた。
やはり、夫が言うように宅間(※このブログの登場人物は全員仮名です)というヘルパーが一番怪しかった。
先週は木曜日に来ている。
お金がなくなり始めた初期から家に入っているうえ、彼女がヘルパーに来なかった3ヶ月間はお金が減らなかったことが理由だ。
宅間さんの記録表の内容を見ると、女性らしいきれいな文字で、丁寧に書き込まれている。
手書きには人柄が出るというが、文字だけで判断するなら、この人が泥棒だとは思えない。
書かれている内容を読んでも、ちゃんと仕事をしてくれているように見える。
ただ、お買い物に行ってもらうためにヘルパー用のお財布を用意しているのだが、入金記録を見ると、やたら宅間さんの日に1万円入金している。
頻度が多い。
例えばほかのヘルパーさんだと、残金に合わせて調達してきてくれて、むやみに追加の1万円入金を避けているのがわかる。
それが宅間さんは、残金がまだ5千円もあるのに1万円を入金させている日もあった。
ヘルパー用のお財布はちゃんと出納管理されていて何の問題もない。
でも、1万円を入金するたび、父は財布の置き場所や懐具合を明かしていたことになる。
財布にお札がなかったときに、父が2階へお金を取りに行くこともあったかもしれない。
1万円札なら簡単に出てくる家だということは、当然知られてしまっていただろう。
映像を持ってどこへ行く?
では、隠しカメラに犯行が映っていたとして、どうすればいいのか。
犯人がわかったところで、果たしてお金が返ってくるだろうか。
探偵に電話相談したとき、たいていの犯人は高級車や高級ブランド品を買っているので、それらを差し押さえて売却してもらえばいくらかでも回収はできる、と聞いた。
それに、被害者にいくらかでも返しておけば、裁判のときに量刑が軽くなるので、たいていの犯人は被害者に弁済をするらしい。
けれども、もし形に残らないものに使ってしまっていたら?
犯人が男性だったらキャバクラだとかホステスだとかに貢いているかもしれない。
容疑者はヘルパーだから、ホストクラブ?
都会だったらそれもありだけれど、播州の田舎でホストに貢ぐなんて、聞いたことがない。
としたら、一番濃厚なのがパチンコか。
パチンコならいくらだって突っ込めてしまう。
他人のお金だったら惜しげもなくどんどん使えるだろう。
盗んだお金が1円も残ってなかったら、返したくても返せるあてがない。
私がそんな想像をして絶望していると、夫は当初こんなふうに言っていた。
犯行が映っている映像を持って、ヘルパーステーションへ行く。
事業所長に見てもらって、本人を呼んでもらう。
盗んだお金を返してくれたら警察沙汰にはしない、という条件を提示する。
夫や子どもがいることだろうし、借金してでも返金するのではないか…。
なるほど、それならお金が返ってきそうな気がする…。
でも、本当に警察に行かなくていいんだろうか?
お金を工面します、と約束しつつ、雲隠れされてしまうことだってあるんじゃない?
警察のお友達が言うには
お姑さんのお友達に警察の人がいて、お姑さんがアドバイスをもらってきてくれた。
そのお友達が言うには、映像が撮れたら迷わず警察へ行くように、とのことだった。
いくらカメラで証拠を抑えたって、犯人はこれが初めての犯行だと言い、過去の盗みを否認する可能性がある。
単独犯ではなくて複数犯で、仲間が盗んだかもしれない。
そのあたり、当人同士の示談では解決できない。
警察は、余罪を含めて徹底的に調べる。
家の中も、口座の出入金記録も。
ヨンパチと呼ばれる48時間以内の取り調べで、過去にやったかどうか、単独犯かどうか、全部白状させられるらしい。
「日本の警察、ナメたらあかんで!」
お姑さんはまるで自分が警察かのように言った。
あのぉ…、でも、その後は?
「裁判とかそんなんは、心配せんでもなんとかなるから」
うーん、犯人を捕まえるのは警察にお任せするとしても、やっぱり返金が不安なのに変わりがなかった。
頼るべきは弁護士の友達
いつも困ったときだけ友達に頼るのは申し訳ないなぁと思いつつ、友達の弁護士よしえちゃんにSOSメッセージを送った。
まさか、あけおめメッセージと同時に、こんな相談をしなければならないとは。
簡単に状況を書いたあと、「なんかアドバイスがあったら教えてください」と泣き顔の絵文字をつけたら、よしえちゃんはすぐに電話をかけてきてくれた。
私が、
「よしえちゃんは弁護士だから、普段は容疑者側の弁護をしてると思うけど…」
と言うと、
「それは弁護士の仕事を誤解してるよ~」
と、こういう事件でお金を回収する流れを詳しく教えてくれた。
まずは警察で犯人を逮捕してもらい、刑事事件として起訴してもらうこと。
でも、おそらく刑事事件にできるのはカメラに映った件だけ。
いくら過去にも盗っただろうと言っても、証拠がない以上、過去の分は刑事裁判では裁けない。
でも、民事訴訟は違う。
こちらは盗ったと言う、でも向こうは盗ってないと言う。
双方の主張を、状況証拠も含めて裁判官が判断する。
白か黒かの刑事裁判と違って、49対51の争いで勝てるのが民事裁判なのだ。
だから、犯人がお金を返してくれないようなら、被害額1,600万円の弁済を求めて民事訴訟を起こせばいい。
そんなことを、よしえちゃんは教えてくれた。
「でも民事訴訟を起こすとしたら、どうしたらいいの?」
と私が不安げに言うと、
「そのときは私がやったげるよ!」
とよしえちゃんは頼もしく言ってくれた。
医者と弁護士の友達はいたほうがいい、と俗によく言われるけれど、本当にそのとおり。
よしえちゃんに民事訴訟というパワーワードをもらったおかげで、なんとしてもお金を取り戻すぞ!という気概が湧いてきた。
「民事は事件から3年以内に訴えを起こせばいいから、焦らずにゆっくりでいいよ。まずは刑事事件として警察が逮捕するかどうかだね。うまくカメラに映ってたらいいね」
そう。
すべてはカメラだ!